異世界召喚された引きこもり少女

星月

第1話 引きこもり少女

 私は貯金しても十分裕福に暮らしていけるくらいには有名なイラストレーターだった。

 私のマンションには仕事部屋と称してPCだったり液タブだったりと、必要なものが一通り揃っている。

 どうしてイラストレーターになったのか、それは…まあ、成り行きというのもある。ただ、1番は、「できるだけ外に出たくない」というものだろう。

 私は自分が気が向いた時やどうしても行かねばならない時以外は滅多に外に出ない。まあ、所謂『引きこもり』というやつだ。

 小さい頃から絵を描くのが好きだった。好きなキャラクターを描いたりするのが日課の様な人間だ。無論、今もそうだが。

 人との関わりはあるが、それも最低限だ。学生時代は高校や大学を卒業できるくらいには行っていたが、それもただ行っていただけだ。

 私は金髪に近い茶髪ロングに碧眼で背が低いという、なんとも男子ウケするような容姿だった為、強い嫉妬心からかあまり女子に好かれなかった。仲のいい女友達は勿論居たのだが、それも極小数。量より質とはよく言ったものだ。

 私がイラストレーターになったのは18歳だが、大丈夫なのか?と思う人もいると思うが安心して欲しい。私は高校を2年飛び級して東京の某大学に行ったのでイラストレーターになったのは大学生になってからという事になる。

 自分で言うのはどうかと思うが、私は頭が良かった。だからこそ職業にも様々な道があった。それこそ売れなければ生活が不安定なイラストレーターではなく、高給料な医療関係の仕事や、国家公務員だったりの道も推されたのだが、私は私自身の性格に合わないと判断し、資格だけ大量に取得してずっと好きだった絵を描くことを仕事にした。結果生活できるくらいには売れているので結果オーライ。


「久しぶりに外に出ると太陽光が眩しい……」


 私はネグリジェから上は肩出しニット、下は太ももが見えるくらい短いジーンズにGIベルトを付け、ローファーを履き、部屋と共用通路を隔てる分厚く、重厚感のある扉を開け、高層マンションの共用通路に出ると、眩い光が私を照らす。外に出たのは1ヶ月ぶりかな?と考えながらのんびりとエレベーターの元へ向かう。

 何故外に出るのか。それは、『カッコ可愛い感じの魔法少女を魔法陣付きで描いて欲しい』という仕事の依頼がSNSのDMに入ったからだ。私は久しく魔法少女や魔法陣を描いていない。故に、外に出て何かヒントを得られないか、と考えたのだ。


「さて、何処に行こうかな…?」


 豪華という言葉が似合うマンションのエントランスを抜け、外に出ると、そこはいくつもの高層マンションが立ち並ぶ住宅地。徒歩2分くらいの所には噴水や様々な遊具が設置された公園がある。なんとなくその公園に行こうと考え、公園に向かって歩き出す。


「依頼はラブコメ系が多かったし、たまにある戦闘系のでも能力を使うやつだから魔法陣なんて描かないし…」


 そう。誰もが知らぬうちに1度は通っている道、中二病。私にもそのような時期があり、その頃はかっこいいキャラが魔法陣を発動させてる風の絵を描いたりしていた。……うっ、古傷がっ……

 心の中で古傷を自分で掘り返しては傷つき、しまいには右手首の辺りを左手でわざとらしく掴んでしまった。たまにすれ違う通行人の視線が痛い。


「紗羅?何やってんの…?」


 そう言って目の前で私に声をかけたのは、呆れたような、共感性羞恥を感じたような表情をした、艶のある黒のストレートヘアで胸も大きい大人しそうな可愛い女の子。当然のように私よりも背が高い。


「あれ、美桜。なんでここに?」


 思わずそんな素っ頓狂な声が出る。そりゃそうだ。目の前の神凪 美桜(かみな みお)という女は、かなり仲のいい友達の一人なのだが、容姿が良すぎるのだ。確かに私も容姿には多少の自信はあるが、美桜は別格だ。モデルのような体型に大人しそうな顔、黒髪。モテない要素が無いくらい。そんな女が話しかけてきたならそりゃあ素っ頓狂な声も出るだろう。


「ん、たまたまね。紗羅は可愛いし特徴的な見た目してるから」


「ありがと〜!大好きだぞ〜!」


 「美桜の方が可愛いぞ〜!」か、「ありがと〜!大好きだぞ〜!」のどちらかがテンプレなのだが、久しぶりなのでそう言って美桜に抱きついていた。


「えへへ、私も大好き〜」


 少し照れ気味に美桜は言いながら抱きつく私を抱き返してくれる。どうして美桜は一つ一つの仕草が全て可愛いのだろうか?本当に謎だ。


「そうだ、美桜、今度私の家でタコパでもしない?」


「え?ほんと?行く行く〜!」


 なんとなく誘ってみたのだが、美桜は目を輝かせながら両拳を握って快い返事を返してくれた。


「あ、ごめんね紗羅。そろそろ行かなきゃ」


「うん。久しぶりに会えてよかったよ。またね」


 そう言って私は美桜に手を振った。


「うん、またねー」


 美桜は私に手を振り返して私はとは逆の方向に歩き出した。私は公園に向かって再び歩き始める。


「さて、やっぱりね、砂が沢山ある公園は自然のキャンパスよ。お金も掛けずにひたすら書いては消しを繰り返せる。公園、最高」


 公園に着いた途端、公園を利用する者に相応しくないような事を言い、公園のど真ん中に肩幅サイズくらいの円を描き始める。円の中心に星を描き、何重にも星を貫かないように円を描き、星を貫かないように描いた円と星の間の隙間に矢印のような模様を描く。何重にも描かれた円の間の細かな隙間にも不規則に古代ギリシャ文字に似て非なる架空の文字を描く。


「よし、完成!」


 達成感溢れる声と共に、子供の歓声が上がる。私は驚いたが、絵を描くのに集中しすぎて近くに誰か来ても気づかないのはいつもの事なので気にしないことにした。


「おねーちゃん、すごいね!」


「かっこいー!」


「これ、なんていうのー?」


 などと言う様々な声が上がる。


「お、気になる〜?」


 子供に乗せられ、まんまと調子に乗った私は、得意げにその円の中心へと優雅に歩く。


「見よ!これが、私の人生の中で最高傑作とも言える魔法陣よっ!」


 天を仰ぐように広げた両腕。153cmという、低い身長のせいか、小学生の子供達を統率する少し変わった女子中学生にしか見えない絵面。自分が恥ずかしいことをしている自覚はあったが、止められなかった。

 __瞬間、なんの意味もない、ただの落書き同然の魔法陣が弱々しくも青白い光を放ち始めた。


「…は!?」


 そんな、驚きの声が零れる。私はすぐさま魔法陣の中心から離れようとしたが、ダメだった。足がその場に固定されたかのように固まって動けない。子供達を見るが、子供達はまだこれが演出だと思っているようで、キラキラとした眼差しをこちらに向けてきていた。


「あ……私、ここで死ぬのね」


 私を包み込むような青白い光が強くなり始め、私は死を悟ったかのように脱力した。

 やがて、光は私を完全に包み、視界が青白く染まる。青白い光が消え、視界が徐々に色を取り戻していく。地獄にでも落ちたのだろうか?と考えながらも辺りを見渡す。


「…あ……………れ………?」


 目の前には信じられない光景が広がっていた。公園とは違う。中世ヨーロッパのような光景。目の前には2つの玉座に座る王様と女王様の様な人達。歳は……50代くらいだろうか?王様の方は若干髪が白くなってきている。女王様の方は、所々に皺が見える。2人とも豪勢な服を着ており、王様の方は頬杖を肘置きに肘を立ててつき、とても偉そうにしている。私の足元には……私が公園に描いた魔法陣があった。でもそれは砂では無く、ましてや絵の具などでも無かった。よく分からないが、不思議なものとでも思っておこう。


「「お、おおー!」」


 私の周囲からいくつもの歓声が上がった。パニックになりながら私は周りを見渡す。やっぱり、見れば見るほど中世ヨーロッパに似ている。建物の造りも、服装も。


「まさか本当に"勇者召喚"などという怪しげなものが成功してしまうとはな」


 偉そうにしている王様が口を開いた。それにしても…"勇者召喚"?どういうこと?あの光って勇者召喚の光ってことだったの?でもどうして私が描いた魔法陣がここに?


「ゆう………しゃ……?」


「んっ、んん。えー、とりあえず、貴様は我の国、メタトロンの勇者として異世界より召喚された」


 咳払いをして王様は言う。

 メタトロン…?確か、天使の名前にそんなのあったような…なんだっけ…?


「これより、貴様にはメタトロンの国軍に属してもらう」


「……は!?なんで!」


 思わず言ってしまった。私はろくに外に出なかった、ただの引きこもりだ。そんな私が勇者なんて務まるわけない。そもそも、私は勇者なんてごめんだ。


「話を聞いていたのか?貴様はメタトロンの勇者として異世界より召喚されたのだ。我の国に仕えるのは当たり前だろう」


「知るか!私は急にこんな所に召喚されて混乱してるの!そんな事言われたって知らないっつの!!」


「貴様…我に向かってそのような言葉を吐くか。」


 「無礼者!」「謝罪せよ!」そんな怒号が私を包む。


「なんなんなの……」


 急に呼び出され、意味が分からない国で兵器利用されそうになって…どうして私の生活を邪魔する…元の世界に返してよ…!…返してよ…!!


『能力の発芽を確認しました。能力の情報が脳に書き込まれます』


 その機械的な声を聞いた瞬間、頭に激痛が走る。さっきまで様々な怒号で五月蝿かったのに、何も聞こえない。何も見えない。五感や平衡感覚も無くなった。目眩がもっと酷くなったような感じ…?


「うっ………」


 私の脳にものすごい量の情報が入り込んでくる。頭の痛みが引いてきた。五感や平衡感覚が戻ってきた。簡単に頭を整理しよう。私は能力を手に入れたらしい。でも、どうしてだろう?能力の情報は1つ分しかないのに、手に入れた能力は3つらしい。


「貴様!聞いているのか!!」


 私はやっと自分が怒号が鳴り響き続けている事に気づいた。遂には衛兵のような人達がぞろぞろと入ってきた。そして…私に持っていた槍を次々に突きつけてきた。


「巫山戯るなよ!もういい加減にしてよ!」


 感情が爆発する。パニック状態だからだろうか?私は能力というこの場から脱出する術を獲得した。だったら、こんな国に利用されるくらいなら、さっさと逃げ出してしまおう。


「衛兵!さっさとその女を取り押さえろ!」


「は!」


 槍を私に突きつけてきている衛兵達が、私に向かってズカズカと歩き出す。


「近づいてこないで!!」


 そう叫んで私は魔法陣の描かれた地面に両手を付け、脳に入ってきた能力の情報を基に、私はその能力を発動する。すると、私を中心に衝撃波のようなものが放たれ、私を取り囲んでいた衛兵達は勢いよく吹き飛んだ。


「なっ………!貴様!どこでその力を手に入れたァ!!」


 王様が私に向かって初めて同様した声で、焦った声で怒鳴る。


「そんなの私が知るか!」


 私は王様に怒鳴り返した。もう私はこんな国に居たくない。さっさと元の世界に帰る方法を見つけて帰りたい。

 私は再び能力を発動すると、体が金色の光を放ち始める。私の髪も金色の光に照らされ、共鳴するように金色の光を放つ。


「貴様!何をしている!」


「私はあんたらみたいな国に協力なんてしない。ましてや、一生国にいいように使われる奴隷なんて真っ平御免だね!」


 そう叫び、私はその光に包まれ、光が消えると、そこは建物と建物の間にある、所謂路地裏と言うやつだった。


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