第14話 こぼれた告白

夏の終わりに決まって開催される夏祭り。その祭りを境に、ここに住む人々はすぐそこまで訪れている秋を感じ始める。

中学二年生になると友君は地元を出てしまう。モデルになるという夢を叶えるために、春からは一番上のお兄さんが一人暮らしをしている東京のマンションに引越しをするらしい。

けれどそれを知っているのはわたしと、最近やっと打ち明けられたという彼方だけ。蒼ちゃんにはどうしてもまだ話せないようだった。

夏夢は自分のこととなると鈍感だったが、友の蒼に対する気持ちには気がついていた。

このことを話したら蒼が悲しむことをわかっていて、友もなかなか言い出せないことにも。

四人でいつも行動していたわたしたちも、蒼ちゃんはバレー部、彼方は弓道部が忙しくなって今までのように遊ぶ機会は減ってしまった。

それもあって友君とは自然と一緒にいる時間が増えて、蒼ちゃんにどう話を切り出せばいいかの相談にのっていた。


明日は夏休み最終日。同時に夏祭りの開催日でもある。



「素朴な疑問なんだけど、お前毎日寝坊するけど朝練どうしてるんだよ」


「行ってない。一年だけどあたしエースだからやめられると困るって免除してくれた」


「顧問公認のサボりとか、タチわる」


「その分部活終わりは一人で掃除してるしッ」



部活に入部している二人がそんなことを話している間も、セミが蒸し暑さを助長するようにあちこちでけたたましく鳴いている。



「明日の夏祭りは夏夢も来てくれるって言うから、四人で行こうぜ久々に」



言い出したのは友君だった。

いつもは想くんを探すために断っていたけれど、今年の夏祭りはみんなと一緒に行くことにした。

友君が東京に発つ前最後の夏祭りだから。



「…頑なに断ってた夏夢をあんたが説得したわけ?」



どういう風の吹き回しだと言わんばかりにかなり怪しまれてはいるけれど、暑さからではない汗を流す友君はまだ話す踏ん切りがつかないらしい。

(絶好のタイミングだと思ったんだけど…。きっと心の準備が出来ていないんだろうな)

いつ帰って来られるかがわからないと言われた時は、流石のわたしも頷きながら泣いてしまった。蒼ちゃんならもっと悲しむだろう。

悲しませたくないのはわかるけれど、このまま言えないまま東京に行くなんてことになってしまっても蒼ちゃんはきっと悲しむ。

まだ納得していない様子だった蒼ちゃんが、気を取り直したように提案する。



「明日の夏祭り、待ち合わせはあたしんちの前に十七時集合でいい?」



誰からも異論はなかった。

蒼の家の呉服屋は、手に取りやすい価格で上質な着物や浴衣を売っている。

その道では昔から続く名のある名家で、地元に住む人が持っている着物や浴衣は全てこの店で買い求めた品だ。

女性らしく、慎ましやかに。それが家での方針だったけれど、蒼にはそれが窮屈に感じるばかりで反抗的な態度をとっていた。

蒼の男勝りな話し方や振る舞いは、家の決まりごとに対する反抗心からきているものでもあった。



「新しい浴衣があんだよ。三人に似合いそうなやつ買われないようにキープしといた」


「どんなのどんなの?」


「教えて!」



目を輝かせるわたしと友君に、明日のお楽しみだともったいぶる。

丁度呉服屋の前に到着し「じゃあ明日」と友君は蒼がサドルから下りると、自転車に跨って引いていた自転車を今度はこいで別の道へ。私と彼方は同じ道なので二人でまだ続く帰路を辿った。




二人きりになると、この前のことを思い出してしまって少しだけ鼓動が早くなった。

(あれにはどういう意図があったんだろう。からかわれただけ…なのかな?)

そんな風に考えていると、彼方がこちらをじっと見ているのに気がついた。



「ど、どうしたの?」


「夏祭り…さ、好きなやつと行かなくていいのか?」



想くんのことを彼方に話したことは一度もない。それなのにそんなことを聞かれたものだから、驚いて上手く返す言葉が出てこなかった。



「目が泳いでる。カマかけたつもりだったけど、その感じだと本当に好きなやつがいるんだな」


「…けど、行かないよ。友君との最後の夏祭りだもん」


「夏祭りは長い。ずっと一緒にいなくたっていいんじゃないか?。友には俺から上手く言っておくから、そいつとも回ったらいいじゃん」



どうしてそんなことを言ってくれるのか、理由がわからないままに話を聞いていると、ため息混じりに彼方がその答えを教えてくれた。



「俺はお前が好きなのに、隣にいるお前が別のやつのこと想ってる顔見ると、正直苦しい」



(それって…)

わたしたちの間に、今まではなかった気まずい沈黙が流れる。

こんな愚痴のように言うつもりはなかったのに、とこぼした彼方はその場で足を止めた。

改めてわたしを見据えると、真正面から想いをぶつけられた。



「俺はお前のことがずっと好きだよ」



額にキスをされたあの日から、彼方の気持ちには少しだけ気がついている自分がいた。それなのにわたしは気がつかないように、見え隠れする確信を見て見ぬふりをした。これまでのわたしと彼方の関係が壊れるのが怖くて。

だけどそれはもう終わりにしなくちゃいけない。わたしの正直な気持ちも、ちゃんと伝えなくちゃ。



「ありがとう。でも、わたしには好きな…」


「それ以上言わなくていいって。わかってるから」



わたしの気持ちなんてお見通しだとでも言うように、彼方は眉を八の字にして苦笑した。

何事もなかったかのように普通に。帰り道を歩く時はいつも車道側を歩いてくれることにも気がついてた。

いつだって彼方は優しくて、傍にいてくれて、まるで家族みたいで。

(わたし、どうして彼方を好きにならなかったんだろう)

そう疑問に思うくらいに、彼方のことは好きだった。だけど、想くんに対する気持ちとは違った。

それが全てのような気がした。

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