小さい海で生きる者たち
目を見開くとそこは海の中だった。それも水族館というごく小さな海ではあるが。ガラスの向こうから、人々がこちらを興味深そうに見ている。けれど目の前では、突き刺す光の柱を中心に小さな魚たちはそんなことなど気にもしないかの様に、楽しそうに泳いでいる。
それにしても少し気になることがあった。というのも、小さな魚が小さ過ぎるのだ。人目線で見た時よりも遥かに。そしてより沿ってくる鯨が、どうも自分と同等の大きさに感じる。
いろいろと考えていくうちにすんなりと結論は出た。そして自分は鯨になったのだなと自覚した。
しかし、これからここで生きるのか。この、狭い空間で。
他の魚たちは慣れたのか何も窮屈そうに感じてはいなさそうだが、自分は大丈夫だろうか。確かに狭い空間は好きだが、何もずっとそこにいるというのは嫌だ。
そう思っていると彼女が上に乗ってきた。落ち込んでいることにでも気づき、慰めてくれているのだろうか。まあ、こうして構ってくれる相手がいるのなら、鯨の寿命までは大丈夫なのかなと思った。
それにしても、何故彼女とわかったかのだろうか。自分が鯨であると自覚したからだろうか。そしてちょっと前進してみる。すると思い通りちゃんと動ける。別に魚として生きた記憶などないのだから、やっぱりその影響なのかもしれない。まあともかく、突然だが第二の人生の幕開けなのかな?
そう思った矢先、意識は違うところへ移動した。
周りにいるのは皆イルカ。それも何かを待ち遠しそうにしている様子だ。さっきと違い、詰め込まれた空間。そしてゲートを眺めている姿を見るに、その先にもっと広い空間でもあるのだろうか。そして自分はというと、多分イルカなのだろう。なんとなく分かる。
取り敢えず、今は何も出来なさそうなので底でゆったり待つことにした。
ただただじっと待つ。暇だけれど、なんだかその時間が有意義に感じたのは何故だろうか。少なくとも、リラックスは出来た気はする。
しばらくじっとしていると、ついにその時はきた。ゲートが開く、それと同時に皆んなが飛び出した。自分も慌てて追いかける。すると随分と驚いたことがあった。
先程は鯨だったためそうでもなかったが、イルカになることによって素早く水中を動き回れるのだ。
そしてそれからはとにかく泳いだ。一周してみたり、一回転して輪を作ってみたり。とても楽しかった。なんだか小学低学年の頃のような無邪気さが取り戻せた気がした。
けれどそれは長く続かない。徐々に推移が下がっていく。自分たちはそれに伴い、どんどん下へ追い込まれ遂には泳ぐことすら出来なくなってしまった。
そして何もすることが出来なくなってしまった。けれどそれに焦りは感じない。あぁ、もう自由じゃないよか。その程度にしか感じなかった。
自由が完全に奪われる、それはかなりの苦痛なのだろうというのは簡単に想像つく。しかし、何故だかそんなものは何も感じない。そして意識は暗くなり、穏やかな気持ちで目は覚めた。
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