アリエル

(いや、待って待って。え??やばい人来たって!え??待って、聞き間違い!?人違い!?)


「治癒師のアリエル言います!来てくれてありがとうな!」


(ダメだ、本人だったー!!!しかもサングラスのせいで笑顔も怖い怖い)


「アッハイ」


「あ、ごめんな?サングラス嫌やったよな!すぐのけるわ」


 サングラスを外したアリエルは、目をキッと細めながらユーリを見た。そして笑う。


(アッ怖い無理だ、え?なんでガン飛ばされているんだろう。酒場の男の方が良かったよ!ヒーン)


 心の中では泣いている癖に、必死に笑顔を作るが引き攣るユーリ。


「ユーリちゃんは募集見てきてくれたんやんな?あ、ユーリちゃんって呼んでええか?」


「ソウデス、アッハイ、ダイジョウブデス」


「緊張するよなー!分かるで!あ、そうや。ここのパフェ美味いぞ、食ってみ?」


 アリエルは紙に注文を書き込み、手早くハートに折り飛ばした。


(アーッ!さっきのハーートォオオオ!!!)


「ユーリちゃんはいつ冒険者になったんや?」


「アッハイ、今日……」


「今日やて!?凄いな!わしなんて都市結界出るの怖くて数日かかったわ」


 ユーリは、見かけで判断してはいけないと昨日学んだばかりなのを思い出す。

 笑う顔は怖いが、悪い人ではない気がした。


「わしとパーティ組んでくれんか?」


 悪い人では無いと思うが、それとこれとは別だ。どうにかして回避する方法がないかと模索する。


「えーっと……」


「結構色んな人と話したけど、皆お茶して帰るんよな。さすが、昇格条件!難しいわ」


「あっ……わたしも今、Eクラスになる為に頑張ってて…」


「同じやん!!!パーティ組もうや!…でも治癒師やったら組むのは難しいかな」


(そ、そこだ!!!)


 ユーリは糸口を見つけ速攻で仕掛ける。


「実は私も治癒師で…」


「そうかぁ…じゃあ、二人とも気合い入れて頑張らなあかんな!」


(組むのは難しいとは!???)


 が、アリエルには通じなかった様だ。


「お待たせしました!季節のパフェですー!」


 店員さんがパフェを2つ運んできた。去り際に、「頑張ってください、アリエルさん」と言いながら去っていった。


「いやー、恥ずかしいわ!何週間もここで待ち合わせしてたら店員さんと仲良くなってもうた!…みんなすぐ帰ってしまうか、来ないんよなぁ。やっぱり、今から冒険者始めるおじさんは嫌なんかなあ」


 どこか寂しそうなアリエルに「いや、顔と格好が!!」なんて、口が裂けても言えなかった。


「アイス溶けてまうな?ごめんな、はよ食べ!めっちゃ美味いぞ!」


 アリエルに促され、ひと口食べると、あまりの美味しさにユーリは「うまっ」と声が漏れてしまった。


「せやろ!!」


 ユーリは、とても嬉しそうに笑うアリエルを見て、とりあえず話は真面目にしようと思い直した。


「何故…冒険者になろうと思ったんですか?」


 ユーリは恐る恐るアリエルに質問した。


「夢やってん!」


「夢?」


「おじさんの少し長い話聞いてくれるか?」


 ユーリは静かに1つ頷いた。


「昔、冒険者になりたかった一人の男がおってな?18になったら、冒険者になろう!思ってずっと勉強しとった。

 すると、その時ある女の子に一目惚れしてん。毎日花届けたりして、好きですって伝えてたらお付き合いして貰える事になったんや。

 冒険者は死と隣り合わせの仕事やからな、その子に冒険者目指しとるって言えんかった。でもその後、結婚までしてもろて、今までの勉強した知識でで小さな診療所を開いた。

 しばらくして女の子にも恵まれて幸せに暮らしてたんやけどなぁ。気がつけば40になっとった。

 娘もまぁまぁ大きくなって、こんな人生も悪くなかったなって思ってたら、娘と嫁に冒険者やりたかったことやりなよ!って言われてしもた。

 その時は断ったんやけど、また最近になって、冒険者の嫁と娘ってカッコイイよね!って背中を押してくれてん……それで冒険者始めたのが、アリエルっていうおじさんって訳や」


(めっちゃいい話だった。めっちゃハートフルないい話だったのはわかるけど……え、お嫁さんと娘さん居るの!?え、この格好止められないの!?)


 別の事が気になってしまうユーリ。


「す、凄く良い奥さんと娘さんですね!」


「せやろ?自慢の二人や!ユーリちゃんは?なんで?」


 こんな素敵な話の後に自分の動機なんて話せる訳もなく。


「生活費稼ぎと……もうひとつは、恥ずかしいのでもう少し仲良くなってからお話します」


 と誤魔化した。


「そうか、まだ初めましてやもんな!でも、この話聞いてくれたのはユーリちゃんが初めてや!嫁と娘も心配してたんやけど、やっと土産話が出来そうや!」


 ユーリはパーティを組むとは1回も言ってはいなかったが、今から組めませんと言える空気ではなかった。


「昇格試験はパーティ組んで何か任務があるらしい!頑張ろうな、ユーリちゃん!!!」


「ガンバリマース」


 どうにでもなれ、と思いつつユーリはアリエルと握手をしパフェを食べた。





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