初クエスト

 ユーリはシャロンに貰ったクエスト依頼地図を見ると、何故か市場に来ていた。


「……え?」


 依頼内容を確認すると、渡されたお金を使って市場でハーブを買ってギルド会館に届けろとの事だった。


「え?お使い?」


 ユーリは指定のハーブ屋へ行く。

 そこには顔見知りのお婆さんがいた。


「クレオさん、ノーマルハーブ2つ下さい」


「はーい、あら?私の事知ってるの?」


 穏やかなお婆さんがハーブを包んでくれる。


「あ、ユーリです。ちょっと色々ありまして……」


 知り合いに気づいて貰えず、ユーリは恥ずかしそうに下を向く。


「ユーリちゃん……え!?ユーリちゃん?あらあらァ、もっと美人さんになったのねぇ!でもどうして?ユーリちゃんならハーブなんて買わなくても大丈夫じゃない?」


 ユーリは毎日のように遠くまで採集に行っていた為、余った採集物は同じ採集者にお裾分けをしていた。なので、友達は居ないが仲間はいた。そのうちの一人がこのクレオさんだったのだ。


「実は私、冒険者を始めまして…!その初めてのクエストが、ここへのお使いでした」


「あらあらあらぁ!ユーリちゃんが冒険者に!ユーリちゃんなら大丈夫だと思うけど、色々気をつけるのよ?危険なお仕事だからねぇ。それじゃあ採集に行く時間が無くなるわね。ソルも寂しがるわねぇ」


 そう、このソルというお婆さんのお孫さんがユーリの採集仲間だった。お店はお婆さんが、薬草採集をソルが担っていて、何度かお裾分けした際にお店に呼ばれ仲良くなった。

 クレオさんは優しくお喋りさんだが、ソルは寡黙で人を寄せつけないタイプだった。


(寂しいねぇ…絶対ないな)


 ユーリにはソルが寂しがるイメージが全く湧かない。


「あ、ユーリちゃん時間はあるかしら?少しお願いがあって」


「大丈夫ですよ!!」


「実は、バジルとタイムの注文が大量に入ったんだけど、在庫が少なくて困ってたの。ソルは朝からセージを取りに行っちゃって。申し訳ないんだけど伝えてきて欲しいの」


「了解です!!!」


クレオは「ありがとう」と一礼する。

 ユーリは「任せて!」と言って店を後にした。


(別にクエストに時間なかったし…先にソル君の方を片付けるかぁ)


「セージって事はヤットの森」


 ユーリは路地裏に隠れ、鞄の中の石灰岩で地面に簡易魔法陣を書いた。そしてその上に乗り

「ヤットの森」と言うと魔法陣が光りユーリを覆う。その瞬間、街の景色から一転し、木々の生い茂る森へと変わった。


「ソル君ソル君……お、いたいた!そーるくーん!」


「ユーリさん。…髪切ったんですね」


 そこには収納バッグを背負った褐色肌の青年が

 採集をしていた。今のユーリを見ても反応は薄かった。


「クレオさんから伝言だよ。バジルとタイムの大量注文が入ったからそっちを優先して取ってきて欲しいらしい!」


「了解しました。ありがとうございます」


(そういえば、さっきの黒板にバジルとタイムの採集もあったなぁ……)


「私も少し手伝う!」


 そう言ってユーリも採集をはじめた。


(2日休んでたもんなぁ。そういえばヒール風呂の入浴剤調合しないと捨てられたんだよなぁ…)


 なんて事を思いながら無心で採集する。

ユーリはとんでもなく手際よく、猛スピードでつんで行く。

 ある程度採ってからユーリはふと気がつく。


(魔法使えば楽じゃん……というか、これが冒険者のクエストなら…私の日課はクエストだった説……)


 すっかり魔法を使わない生活に慣れていたせいで何の苦もなく採集を終えた。


「じゃ!私先に帰るね!半分あげる!クレオさんによろしく!」


「はい」


 ユーリはその場を離れ、そしてまた地面に魔法陣を描く。


「えーっと、ドロシーの部屋」


 ヤットの森からドロシーの部屋へ飛ぶ。この国では珍しい魔法の為、なるべく人前で使うことは避けた。ドロシーは部屋には居なかったので、そのままギルド会館へ戻る。すると、シャロンが笑顔で手を振っていた。


「ユーリさん!お疲れ様です!!少し遅かったので心配しました!」


「えーと。ただいま、シャロンさん。これ、ノーマルハーブです」


 ユーリは鞄から取り出しハーブを渡すとシャロンは確認をする。


「はい!ありがとうございます!クエスト達成です!」


 拍手で達成をお祝いしてくれる姿がとても可愛かった。


「あの……出来るならこれも納品したいんですけど…可能ですか?」


 ユーリは鞄からバジルとタイムを入れた袋を2つ出した。


「これは…バジルとタイム!?買ったんですか!?」


「いえ、ヤットの森で採ってきて……」


「都市結界から出たんですか!???」


 シャロンがカウンターから身を乗り出して聞いてくる。


「え、はい。掲示板で募集を見たのでついでに」


「あれは採集ではなく、買い物依頼ですよ!!?」


 シャロンの食いつき方にユーリがびっくりする。都市結界どころか国境を越えて一人で来ているユーリは、都市結界から出ることに意味があるなど、考えた事がなかった。


「各クラスの貢献度が貯まると昇格任務を受けれるのですが……Gランクの条件は都市結界から出ることなんです。それにたまたまバジルとタイムの不足により、このクエストの貢献度が高く設定されまして……この数の採集をしたということは、た、大量納品の為Fランクの昇格試験まで受けられてしまいます!!!時々こういったイレギュラーな方がいらっしゃると先輩から聞いた事がありましたが……初めて見ました!!凄いことですよ!!ユーリさん!!!」


 シャロンが表情をコロコロと変えながら、嬉しそうに早口で説明する。


「ユーリさんの担当になれて嬉しいです!Eランクはスグそこです!」


 シャロンの満面の笑みを見て(あ、もっと頑張ろう)と決心したユーリ。


「そ、それでですね!!Fクラスの昇格試験なんですけど!」


(この内容でGランクとFランクなら余裕かもしれない!何だろう!?魔物の討伐!?群れでも今なら勝てる気がする!!!!)



「パーティの結成です!!!!」



 ユーリはそれを聞いた瞬間、(あー、終わったわ)

 と絶望した。

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