家政婦卒業します
店から出ると、時間が経って居た為、先程よりかは落ち着きを取り戻していた。
それでも噴水を観察している人は少数いる。そこにリアの姿は無くなっていた。
ユーリはドロシーの背に隠れひたすらソワソワして落ち着きが無い様子だった。
「鬱陶しいわ!!!!」
ドロシーが唐突に振り向きユーリの頬をつねる。
「あっ、いひゃい。そこ叩かれた所」
「何?誰に叩かれたのよ」
ユーリは先程の出来事をドロシーに説明した。
話を聞くドロシーは、怒ったり笑ったりくるくると感情を変える。
「なるほどね、それであの人混みと噴水だったわけね。それにしてもやるじゃない!自分へのプレゼントを誰かにあげる男も、欲しがる女にもドン引きするけど、ざまぁないわね!!まだ足りないけど」
ドロシーは最後の言葉だけ声のトーンを落とし、ユーリは「こっわ」と呟く。
「それと、朗報よ!引越しギルドには行かなくていいわ。私が帰った時に酒場にクソ
カイの少し残っていた良識に安堵する。どうやら母の形見は無事だった様だ。
酒場でも美人で人気のドロシーからとんでもない呼ばれ方をされる元彼にユーリは笑ってしまう。
「ドロシー、ありがとう!」
いきなりの感謝の言葉に、ドロシーは少しだけ驚いて「別にいいのよ」と返し微笑む。
それを見たユーリは胸が暖かくなる。
「はっ、これが
「別に使ってないわよ馬鹿」
そんな何でもない話をしながら酒場へ戻った。
酒場へ戻ると三人が迎え入れてくれた。
「ユーリ!似合うじゃねぇか!」
「本当に!可愛いわ、ユーリちゃん」
ユーリはお世辞だと思いつつもストレートな物言いに照れてしまう。
「まだ忙しくないから、先に持ってきた物が壊れてないかと手紙の確認しちゃいましょ」
そう言うと、ドロシーが厨房奥の小部屋にユーリを案内する。そこには紛れもなく大切な写真立てと髪飾りがあった。
「良かった……!本当に良かった」
その二つを抱きしめると、とりあえず机の上に戻した。その隣には一通の手紙が置かれている。
「ユーリのお母さんって、会ったことないけどすごく美人よね。髪の色は違うけど、目の色がそっくりだわ!髪色はお父さんに似たのね。」
「お母様は私を愛してくれたけど、お父様とお兄様はわたしが嫌いだから……」
父親の名前を聞いたユーリは苦笑いで返す。
「今まで触れてこなかったけど、ユーリの愛に猪突猛進すぎる所って家族が理由なのかしら」
ユーリが「それは…」と話始めようとすると、「いやいい!」とドロシーが首を振る。
「別に誰にでも話したくない事はあるから無理する必要は無いのよ!それより手紙よ!あの馬鹿、しっかり謝罪文を書いたのかしら!?」
「謝罪文か、全く想像してなかった。……とりあえず読んでみるね」
ユーリは手紙の封を切りその場で声に出して読み始める。
ユーリへ
三年前、君と会った時は本当に好きだと、恋だと思っていた。家族より僕の所へ来てくれたことは嬉しかったけれど、どうやら僕はその時、運命の人とはまだ出会えていなかっただけだったんだ。
二年前にリアと出会った。そして一年前、パーティを組むことになって僕はタンクとして相棒を得た。前線で戦う僕をいつも癒してくれた。君には一生分からないだろう、この大変さと辛さは。
家でただ待つ君よりも、一緒に支えてくれるリアが好きになった。すると、段々僕は強くなったんだ。これは運命の力だと思った。
リアと一緒なら、僕の夢だったレイドメンバーにも選ばれるかもしれないと思うんだ!
だからごめん、運命が悪いんだよ。
僕の相棒も相方もリアだったんだ。君じゃない。家政婦の君は僕の相手には弱すぎた。
僕達は、隣町の有名なデカいギルドへ入団することになったから、もう会うことも無いかもしれないけど!有名になって帰ってきたら手は振ってあげるよ。
追伸
君も運命の人に出会えるといいね!!
──────ビリッッッッ!!!!!!
読み終えた時、ユーリは反射的に手紙を破っていた。
「……え、やばい。なんでこんな人好きだったんだろう?意味がわからない、
とんでもない手紙を読んだユーリは怒りを通り越して恥ずかしくなる。
ドロシーも空いた口が塞がらない様だ。
「え、なに?そんなに冒険者ってそんなに偉いわけ?学院時代は強すぎて気持ち悪いって言われて?今回は弱すぎるって言われて……?ふざけんじゃ無いわよ!!」
ユーリは破り捨てた手紙を踏みつける。
一周して怒りが戻ってきた様だ。
暫くして、ドロシーのあいていた口がやっと閉じる。
「……と、とんでもない奴だわ……」
ドロシーは言葉が出てこない。
その横で、怒りに震えていたユーリは唐突に顔を上げる。
「ドロシー、私決めた。冒険者になるわ」
「えっええっ!?」
ドロシーの見開いた目がユーリへ向く。
「待って待って、情報量が多すぎるっ!!!」
「でもお金が必要、私を捨てた相手に仕返しがしたい、ありのままの自分の力を自分の為に使える。つまり、冒険者になるのが正解よね!?」
「たっ確かに……、間違ってはいない気がするけど!?」
「ネスさんの魔法のお陰でなんでも出来ちゃう気がする!!!」
さっきまでドロシーの背中に隠れていたユーリはどこにもいなかった。
「ネスは関係ないと思うけど……まぁ髪型と色で印象全く違うし、皆気が付かないでしょ。いいんじゃない!?新生ユーリね!!もうどうにでもなれ、応援するわ!!!!あの二人をギャフンと言わせてやりましょう!!!」
「ありがとうドロシー!!私、家政婦辞めて冒険者になってやるわ!!!男なんてもう要らない、私より弱い男なんてこっちから願い下げよ!!」
「その調子よユーリ!」
二人でワイワイと盛り上がる。目標が決まった事と、自分の為に頑張るという事で、ユーリはとてもやる気に満ち溢れていた。だが、ユーリはふと思う。
「…でも、どうやったら冒険者になれるの?」
思い立ったはいいが、ユーリは冒険者になる前から躓いてしまった。
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