美の店

「いいわね!スカッとしたわ!!!……ちょっとやりすぎた感は否めないけども」


 ネスが先程のユーリのパンチの真似をする。


「どうやったらそんなにフィジカル強くなれるのよ?ペンダントがあるから多少平気とはいったけど……壊せとは……ハハハッ!言ってないわよ!!」


 ネスは先程のリアの顔を思い出す度、笑いが止まらなくなる。


「ううっ、ごめんなさい」


 ユーリは冷静になって、さすがにやり過ぎたことに気がつき反省した。


「いいわよ謝らなくて。最高だったわよ!…あらっ、芋子の方が怪我してるじゃない!生憎私、治癒魔法は使えないのよね……。消毒するからちょっと待ちなさい!」


 ネスは薬箱を探しに2階へ行こうとする。


「あ、いえ、お構いなく。癒しの光」


 ユーリは左手で右手を撫でると、ほのかに光り傷が癒えた。ついでに左の頬も癒す。


「あら、芋子も治癒師なの?」


「いえ、学生時代に学んだ光属性の魔法が得意なだけで、難しい治癒術は今の私には無理だと思います」


「学生時代に光属性魔法の勉強?……あなた、出身はまさか……学術の都アクロト!?なるほど、ドロシーとは学生時代に仲良くなったのね」


 ユーリは久しぶりに聞く故郷の名前に懐かしさと、少しばかり寂しさを感じた。それと同時に大切な事を思い出す。


「そうだ!私の荷物……全部捨てられたって…。…大事な写真立てと髪飾りがあったのに」


 その二つはユーリにとって、とても大切なものだった。


「なんですって!?とんでもない奴ね!……まぁ、あの子の被害者は他にもいるらしいわよ。あの感じだと、魅了チャームで人の男をとっているのね」


「後で引越しギルドの方に聞いてみます。そういえばあの瞬きが魅了チャームだったんですか?」


「そうよ、ウインクで異性に対して重ねがけしてるんでしょうね」


「ネスさんにはなんで効かなかったんですか?」


「私?美しいものにしか興味無いもの。ブスなんてゴメンよ……って言いたいところだけど。スキルを前にして自分の信念なんて関係ないのよねぇ。私はスキル、審美眼持ちだから。大体の相手のスキルと行動は分かるのよ。特に美しくないものには敏感よ!さっきのスティールみとかね」


「その節は本当にお世話になりました」


 ユーリは深々と頭を下げる。


「それに、あんな魅了チャームより、普段一緒にいる子の方が強いからか耐性が有るのかもね」


 チリンチリン!!


「噂をすれば……」


「ねぇ!!何この騒動!?目の前の噴水壊れてるじゃない」


 そこには遅れてやってきたドロシーがいた。


「え、ドロシーってスキル持ちだったの?」


 ユーリは今まで気にした事が無かったため驚いた顔をする。


「あんたやっぱり気がついてなかったのね……。そんな事より表の騒ぎ何よ?」


「あーー……ごめん、やっちゃった」


 ユーリは気まずそうに謝り、ネスはまた思い出し笑いを始める。それをみてドロシーは「意味がわからないわ」と怪訝な顔をしていた。


「とりあえず仕事しながら話しましょう?芋子は真ん中の椅子に座って」


 ユーリは言われるがまま椅子に座ると、先程のように長い布で首から下を覆われた。


「私これがいいわ!」


 ドロシーが持ってきた本には、色々な髪型の絵がのっていた。ドロシーが指さすのはとんでもなくショートカットの髪型である。それを見たユーリは勢いよく首を左右に振る。


「そんな眩しすぎる髪型はちょっと……って髪?」


 ユーリを横目にドロシーは笑う。


「そうよ!ここは髪を切ったり肌を整えたり、お化粧をしたり。女の子を綺麗にするお店なのよ」


「あらァ、何?今まで知らなかったの!?」


「びっくりさせる方が楽しいじゃない。これもいいわね」



 ユーリを差し置いて髪型カタログを読み進めていくドロシー。


「やっやっぱりウィンドカッターで……」


「え!?ちょっと何!?この子まさかウィンドカッターで切ろうとしてたの!???」


「そうよ」


 しれっとドロシーが肯定する。


「あっ有り得ない……有り得なさすぎる。というかこの子……今までどうやって髪の毛を……、いやいい!やっぱりやめて聞きたくない、知りたくない」


 ネスは頭を抱えてふらつき、とても大きなため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る