限界
「……おまたせっ」
誰かに目元を後ろから隠された。
「ふふっ何?修羅場ってやつ?お店の前で辞めて欲しいわぁ」
その声はネスのものだった。
「ご、ごめんなさい!」
ネスはユーリの耳元で「任せて」と言うと、リアの元へと歩み寄る。
「ごめんなさいレディ、左手は買い物袋で塞がってるから右手だけしか貸せないわ」
そう言ってリアに手を差し出し、彼女を引き起こした。
先程迄、ユーリと話していたリアとはまるで別人の様な顔つきだった。
「どうもありがとうございますぅ。乱暴されて怖かったんです」
リアは泣き真似をして同情を誘った。
そんなリアをネスはじっと見つめる。
そんなネスにリアは満更でも無い顔をする。
「あらヤダ、何この子。
ネスの言葉を聞いたリアの顔が明らかに引つる。
「わ、私は治癒師ですよぉ。なので基本はヒールが専門で……」
リアはユーリでも分かる程、不自然に瞬きの回数が多かった。
「あーね、そういう」
ネスは顔の前で何かを払いのける動作をしながらリアへ近づき、いきなりリアの左ポケットに手を突っ込んだ。
「きゃっ!?何!?」
ユーリもネスの不可解な行動に理解が追いつかない。
「セッセクハラです!!」
「そんな貧相な体に興味なんて無いわ。それより、私の大切な
「なっ!!」
リアは両手に拳を作り、真っ赤になりながら震えている。
「ちょっと芋……ユーリ気をつけなさい?世の中には手癖が悪い猫がいっぱいいるのよ」
そう言う彼の右手には、先程アマリリスで貰ったリボンがあった。
ユーリはとっさに胸元を確認する。するとそこにあったはずのリボンが消えていた。
それを見て驚いたのはユーリだけでは無かった。
「なっ!返しなさいよ!!泥棒!!」
リアはリボンを取り返そうとユーリの元へ向かう。
するとネスがユーリに耳打ちする。
「ねぇ、ユーリ。あの子の胸のペンダントって守護の魔鉱石でしょ?多少本気で殴っても、きっとあの石が守ってくれるって思わない?」
その間にもリアが距離を詰めてリボンを取り返そうとしてくる。
「返しなさいよ!泥棒!!」
バシッ!!!
鈍い平手の音が辺りに響く。
なんと、リアがユーリの左頬を殴ったのだ。
ユーリは驚きながら右手で頬を押える。
(なんで私が泥棒扱いされなければならないの?なんで私ばかり我慢しなければならないの?
なんで私よりカイくんはこの子を選んだの……分からない。理不尽すぎる)
その様子に、流石に足を止めて傍観する人が出てきた。
その隙にリアはアマリリスのリボンを手に入れ上機嫌に笑った。
それを見たユーリの中で何かがキレる音がした。
「ふざけんじゃないわよ……」
「何?」
「ふざけんじゃないわよ!
どっちが泥棒よ!!!!!!!!」
ユーリの思いっきり振りかぶった右手拳がリアの顔面目掛けて飛んでいく。
ドゴォッッ!!!!!!
とんでもない音が響き渡り、拳がリアの顔へめり込んだ。
そのままリアは吹き飛ばされ噴水へと突っ込んだ。
ちょうどリボンがユーリの足元へ落ちてきたので、それを拾って回収する。
「どうぞ、お幸せに!!!!」
ふんっと鼻を鳴らしてリアに背を向ける。
ユーリの顔はどこか吹っ切れた様だった。
「え、やだ、何あの子。え、大丈夫?死んでないこの子」
ネスが助言した手前何も言えないが、想定していた威力の数百倍強くて、流石にリアに同情していた。
ネスが生死を確認すると、意識は無いが傷もなかった。リアは光の玉に包まれ護られていたのだ。そしてその責務が終えたのを確認したのか、守護の魔鉱石のペンダントが砕け散った。
噴水が壊れた事や、リアが吹き飛ばされたことにより人が集まり騒ぎになる。
「魔物が出たって!?」「きゃー!!」
あまりの出来事に混乱した群衆によって、あることない事がひとり歩きする。
「これはちょっとまずいわね。混乱に乗じて店に逃げるわよ」
ネスはユーリの手を取り、人混みに紛れつつ自らの店に逃げ込んだ。
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