思わぬ再会

 先に仕込みの為に届けるものがあるという事で、ドロシーはジンの店から酒場へ行った。

 一緒に酒場まで戻ると、ネスとの約束に間に合わない為、一人で店の前の噴水広場で帰りを待った。


 水に映る新しいワンピースを見ると心が踊った。


(ネスさん遅いなぁ、やっぱりドロシーと酒場に行けばよかったかなぁ)


 そう思いながらゆっくり流れる雲を眺めた。

 穏やかな時間を過ごしていた


 ────その時。




 背後から甘ったるい声が聞こえてきた。


「あれれぇ???家政婦さんじゃないですか??」


 そう、昨日突然現れて全てをぶち壊した、あのピンク髪の治癒師、リアがそこに居たのだ。


「昨日どこかへ行っちゃったんで心配したんですよぉ?夜は魔物が多くなるしぃ襲われたら大変ですから!でも生きてたんですねぇ。無魔力だから、襲われたらそのまま食べられちゃう」


 そう言ってリアはクスクスと笑った。


「私は別に無魔力では無いわよ」


 あくまでカイの前で魔力を使わなかっただけで、魔力量だけで言うと上位の魔道士と張り合える自信がユーリにはあった。


「3年位一緒に住んでたのに、1回も魔法を使うところを見たことがないってカイくんが言ってましたぁ。ざぁんねぇーん!嘘ついてもわかるんです」


 リアはペラペラと続ける。


「カイくん可哀想!一人で家政婦さんを養って、毎日前線でモンスターと戦ってぇ!帰ったら小汚いおばさんが待ってる!……あ、そうだ」


 彼女は何かを思い出したようだ。


「私たち引っ越すんです。私優しいので、ごみ捨ては代わりにしておきましたぁ」


「は??」


「強いギルドの入団試験に合格したんです!カイくんがタンクで認められたんですよ!連日ダンジョンに潜っても疲れない体力に、高い基礎ステータス!彼女として誇らしいですぅ。なので、今日の朝から引越しギルドの方にお願いして、もうすぐ終わりそうです」


 引越しギルドは当日に頼めるものでは無い。

 つまり、この二人は事前に引っ越す事を決めていた上で、昨日の誕生日ギリギリに乗り込んで来たという事だ。


 とんでもない事実に、ユーリは昨日と同じく言葉を失ってしまう。昨日、ドロシーにあれだけ文句が言えたのに、次々に知る最悪の事実を前に無力になる。


「いつもお弁当ありがとうございました!2人で食べてたんですよ、家政婦さん」


 満面の笑みをユーリへ向ける。

 それは明確な悪意だった。


 ここは大通りの為、人は沢山いたが誰も気にとめない。リアは周りへきこえない絶妙な声量で喋っているのだ。心なしか、彼女を避けて通る人もいる気がした。


「わたし、あなたと違って収入があるので。これからは綺麗なギルドハウスで家事は外注して暮らすんです!これからもカイくんの専属治癒師として支えていくのでぇ。

 ──────今までお疲れ様でした」



(一体私が何をしたのか、恨みでもあるのか?いつから関係が出来ていたのか?)


 言葉は喉でつっかえて出てこない。

 ああ、私はなんて無力なんだろう。


 リアはユーリの持っていた袋に目がいく。


「!!?」


 それを見るなり驚いたような顔をしてユーリの服を見た。

 リアは明らかに動揺していた。そう、彼女もまた、この特別な服屋に入りたいが許されない一般人だったのだ。

 ただ、今のユーリは他のことに頭がいっぱいで気が付かない。


「ちょっと、貴女がなんでその服着れるのよ!?」


 リアは胸元のリボンを掴もうとした。

 ユーリは反射的にその手を払った。


「きゃっ!!!」


 結構な勢いでリアが吹っ飛ぶ。

 ユーリは咄嗟なりに加減をしたつもりだったが、それでも足りなかったようだ。


「なんなのこの馬鹿力!?痛いわね!!」


 リアが尻もちを着いた際にケープのボタンが取れ、胸元からペンダントが顔をのぞかせた。

 リアが着けているそのペンダントは、ユーリが一生懸命鉱石を掘って加工した、加護誕生日魔鉱石プレゼントだった。


 その瞬間、少しは残っていたカイへの未練が消え去っていくのがわかった。


(魔法学院を辞めて、家から飛び出してここまで来たのになぁ……)


 ユーリは泣きそうになるのをぐっと堪えて上を向いた。

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