酒場


「という事だから…じゃねーよ!!!!」


 ダンッッッッ


 ユーリは樽ジョッキに入ってある果実酒を一気飲みした後、勢いよく机に叩きつけた。


「あんたって昔からそういう所あるよね。男運ないくせに猪突猛進というか…」


「ドロシーちゃん!料理と酒追加で!」


「はいはーい!ただ今!」


 屈強な男たちが沢山飲み食いし、それぞれが騒いでいる。

 ユーリと話していた女の子は、ドロシーと呼ばれると厨房へと消えていった。


 ユーリはとても賑わう宿屋酒場に来ていた。そんな酒場のカウンター席で一人酒をあおる。

 ドロシーが料理と酒を運ぶと、ユーリの所へ戻ってきた。


「話聞いてあげるから先にこっち手伝いなさい!隣国から冒険者が沢山来てて忙しいのよ!」


「あー…新しいダンジョンが見つかったんだっけ

 …」


 皮肉にもその話は、カイが嬉しそうに教えてくれたものだった。


「無理無理ー!私お酒飲むと動けないもん」


 ユーリはそう言いながら樽ジョッキの中身を飲み干す。


「あんたに酒なんて出すわけないでしょ?それは果実汁ジュースよ」


「…ですよねー、いつまでたっても酔えないなって思った」


「お父さんが腰痛めて厨房が大変なのよ!はいこれ!」


 そう言ってエプロンが手渡された。

 ユーリはエプロンを見ると、先程の家政婦の話を思い出し怒りが込上げた。


「誰が食堂のおばさんなのよ!私はまだ21よ!!」


「何の話…?とりあえず後で聞くから先働いて!厨房担当よろしく、フロアに出れる顔していないから」


 ユーリは、エプロンをサッと着て髪を縛ると厨房へ入った。


「おじさーん!おばさーん!何から手伝えばいい?」


 厨房の中には、慌ただしく料理を作る二人の男と一人の女がいた。


「ユーリちゃん!?いつ来たの?」


 ドロシーの母はユーリにビックリしている。


「おお、ユーリちゃんじゃねぇか!手伝ってくれるのか、すまねぇなぁ!」


「私は下ごしらえするから、味付けと仕上げはよろしくね!」


 ユーリはそう言うと、慣れた手つきで野菜と肉と魚を捌いていく。


「ユーリちゃん、また腕前上げたのかい?」


「料理スキルは…カンストしちゃった」


「カンストぉ!?」


 この世界にはそれぞれの職業に腕前レベルがある。

 100を上限とし、80から達人と呼ぶ事が出来る。

 一般的な料理人は70前後が多い。

 レベルが足りないと作ることが出来ないのはもちろん、そもそもレシピが読めなくなる。

 つまり、ユーリはこの世の全て料理に挑戦する力があるという事だ。


「国お抱えの宮廷料理人レベルって事じゃねぇか…」


「料理だけ!料理だけ特別頑張っただけだから!彼氏に肉体強化、物理強化、魔法強化バフのつくご飯が作れる様になりたく…て…」


 どうしても思い出される記憶に手が止まる。


「そこが昔からあんたの凄いところよ」


 そう言いながら、食べ終えたお皿を回収したドロシーが入ってきた。



「閉店まであと4時間半!頑張るわよ!!」



 ドロシーの掛け声と共に、ドロシー一家と私は戦場を乗り越えていった…。

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