家政婦辞めて、冒険者になります。

minto

別れは突然に

「パンプキンスープOK…サラダOK…ケーキも大丈夫っと」


 少女は慌ただしく室内を駆け回る。


「薪割りもしたし、プレゼントの魔鉱石も用意済み!よし完璧…じゃない!!いつの間に!?」


 今日着る予定のワンピースに謎のシミがついていた。


 今日は同棲中の恋人の誕生日!

 折角なら一番可愛い自分でお祝いがしたい!


「使いたくないけど仕方ない!アクアボール!」


 少女がそう唱えると空中に水の玉が現れた。


「急げ…急げ…!」


 少女は急いでワンピースを水の玉に突っ込んだ。そのまま指を回す。


「超絶控えめミニトルネード!」


 指先につむじ風のような物が現れたと思うと、その指を水の玉に差し込んだ。

 ワンピースがつむじ風に巻き込まれて回る回る回る。


「こんなもんか…ウィンド!」


 右手でワンピースを抜き取り、左手で水の玉をシンクに投げ捨てた。すると不思議な事に、汚れの落ちた綺麗なワンピースが完成していた。

 そのままお気に入りのワンピースに着替える。


「完璧!!」



 ガチャッ



 それと同時に扉のノブが回る音がした。



「おかえりなさい!カイさん…と、どちら様?」


 恋人のカイの後ろには知らない女性の姿があった。白色の魔道服に薄ピンクの髪をなびかせ家の中へ入ってくる。


「初めまして、私はリアです!」


 リアと名乗った女は部屋の中を見渡す。


「手道具ばかり、本当に魔法が使えないんですか?可哀想に!あ、ご飯があるー!カイくん、リアはお腹がすきました!ペコペコです」


 そう言うと女は準備していた料理の前に当たり前のように座る。


「えーっと…ちょっと頭が追いつかないんだけど…この方は誰なのカイくん」


「リアはカイくんのパーティーの治癒師です!そして今日から恋人になりました。なので元恋人さんは出ていって貰えますか?」


「は???どういう事?」


「朝起きて、ご飯洗濯薪割り薬草採集。調合その他、全部手動でやるそうですね?今時、考えられなーい!カイくんは魔法を使うリアはキラキラしてて可愛いと言ってくれました!家には働きに出ないで、家の事だけしかしない"家政婦”みたいな恋人がいるって!」


「は?」


 ユーリは今すぐにでも飛んでいきそうな右腕をグッとこらえる。


「いや…そもそも魔法を使わずに頑張る姿が好きだって言われてたし…。働くのも、俺が頑張りたいからユーリは家の事頑張ってって…」


「うんざりなんだ!!!!!!」


 沈黙を貫いていた恋人のカイが、ユーリの言葉をかき消すように突然叫び出す。


「僕が好きになったのは可愛いユーリだったのに。今では服も髪も乱雑で、女の子じゃないみたいだし。俺だって頑張ってるんだから、君も魔法の勉強をするなり働きに出るなりして欲しかった!」


(いやいやいや!働きに出るなって言ったのはカイくんだし?髪も服も稼ぎが少ない貴方のお金の中からやりくりして犠牲にしてたのに…)


「君はもう、恋人じゃなくて家政婦にしか見えないんだ!!!」


 突然の事にユーリは何も言えなくなった。

 そこにリアが追撃する。


「という訳で、今日からリアが代わりに住むことになりました!リアは優しいから今日まで住むのは許してあげるけど、明日には出ていってくださいね!家に家政婦はいらないから!」


 リアはそう言って、二人でカイの誕生日を祝う為にユーリが用意した料理を勝手に食べ始めた。


「へー、流石家政婦さん。料理は褒めてあげるー!そのスキルあるんだったら今度は食堂のおばさんでもすればいいと思うよ!」


 言いたいことは山ほどある、山ほどあるけど怒りと悲しみと驚きで、ユーリは感情がぐちゃぐちゃになり、言葉がつまってしまった。


「カイくんも食べよーよ!」


 リアは上目遣いでカイを呼ぶ。

 カイは気まずそうな顔で


「という事だから…」


 とだけ言って、リアの元へ向かった。


 ユーリはこの場に居るのだけは嫌だと思い、ぐちゃぐちゃの感情を抱えて家から飛び出した。


(でも…カイくんは言わされているだけかもしれない…!!)


 最後にもう一度振り向くと、カイはこっちを見てすらない。

 カイには上目遣いだったリアは、顎をあげユーリを見下して満足そうに笑っていた。



 ───とても耐えきれず、ユーリはその場を走り去った。





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