第五項「倒れた水瀬さん」 side水瀬瑞葉
気づいた時にはすでに遅かった。
いや、昨日の寒気の段階で薄々そんな気がしていたのかもしれない。
「んん……」
(ああ、風邪……ね)
そして、それとは別にもう1つ普段と異なる事態がこの部屋で発生していた。
「……神里君? けほっけほっ……」
「水瀬さん無理しないで、横になってて、ね?」
それは神里君が私の部屋にいることである。
しかし、何故風邪をひいていることが分かったのだろうか。
もしかして、と思い浮かんだことを神里君にぶつける。
「今、何時……?」
「今? 今はだいたい7時半過ぎくらいかな?」
「えっ?! 学校行かなきゃ……! っ!」
神里君の返答に思わず声が出てしまう。
そんな反応とは反対に、頭痛が私の意志を無理矢理引き
「体調悪いんだよね? 水瀬さん、今日は学校休もう? 俺の方で連絡はしておくからさ」
一連の流れを見た神里君は私を
学校に行かなくてはならないという観念の
「……ごめんなさい。今日は甘えさせてもらうわ」
この言葉を言うまでも神里君と会話していたはずなのだが、風邪でぼんやりしていたのかその辺りの記憶はない。
その後、神里君が連絡や支度を済ますために部屋を出ていったのを見届けると、時間をかけて体をやすめることができるのに安心したのか軽く寝落ちしてしまった。
「部屋でおとなしく寝て待っているんだぞ」
お父様がそう言いながら部屋を出て行きました。
風邪をひいた私は極度の
こうなってしまうととても退屈です。
一刻も早く風邪を治すようにと本はおろか勉強道具さえ回収されていきました。
お父様とお母様は私の風邪が移らないようリビングにいるのでしょう。
部屋には私1人しか取り残されていません。
……風邪薬による眠気はまだ来ないようです。
私の心には、毎日のように詰め込まれている習い事を休める安心感と誰も構ってくれない
声を上げても誰も来てくれない。
手を差し出しても誰も
顔を上げても誰もいない。
まるで箱詰めされた商品のように、誰かが外から開けるまでは私を見つけてくれないのです。
そう、誰かが開けるまでは。
「水瀬さん、入ってもいいかな?」
幼いころの
今度こそ神里君が慌てないようにすぐさま返事をする。
風邪薬などを持ってきた神里君は、私の体調を考慮してリビングでも連絡が取れるよう連絡先を交換しようと提案してきた。
もちろん連絡先を交換すること自体は構わない。
だが、この時の私はどこかおかしかった。
それが風邪のせいなのか、夢のせいなのかはわからない。
「もちろん、いいわよ。ただ……その、神里君にとっては迷惑だと思うけど、今日……今日だけ、そばにいてくれないかしら……?」
私の記憶では、これが初めて『お願い』した日である。
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