コスプレ





鬼界きかいに八名爺を送り届けて現世に戻って来ると夕方だった。

鬼頭アパートの前で仕事帰りの鬼頭と一角と千角は鉢合わせをした。


「なんだい、二人ともボロボロじゃないか。

千角の袖が破けてるよ、喧嘩でもしたのか。」

「いやー、なんと言うか。」

「ホストと言う仕事も荒っぽいねぇ。」


鬼頭は二人の仕事はホストだと思っている。


「ああ、里奈、ちょうど良かった。」


鬼頭が二人の後ろを見て言った。

里奈も帰宅したのだ。


「千角の服が破けているんだよ、直せるかい?」


里奈が二人に近寄って千角の服を見た。


「どうしたんですか、泥だらけで、服も破けているし。」

「喧嘩したみたいだよ、まったく。」


二人は頭をぼりぼりと掻きながら照れくさそうにしている。


「大丈夫、直せるわ、袖の縫い目が切れただけだから。」


里奈がにこりと笑う。

そして二人は里奈の部屋の前に来た。


「あ、僕、コーヒー淹れるよ、終わったら二人で飲みに来てよ。」


一角が言う。


「里奈ちゃん、ここで服を渡すから縫ってくれる?」


千角が珍しく気を使ったように部屋に入る前に言った。

だが里奈は少しばかり千角に興味があった。


「いえ、良かったらどうぞ。」


里奈にとっては珍しい事だ。

だが、彼女は一角と千角とは何度も話をして、

この二人がどことなく変わった人達だと里奈は感じていた。 

自分を色眼鏡では見ていないようだった。


そして、


「千角さんって服に興味があるんですか?」


千角が部屋に入って来ると里奈が聞いた。


「あるよ、ド派手が俺の信条。」

「ですよね。」


里奈が笑った。


「そう言えば里奈ちゃん、しょっちゅうミシンを踏んでるよね。

服を作ってるの?」

「そうなんです。服を作るのが好きなの。

それで千角さんの着ているものを見たらいつも配色が凄くて。

でもちゃんと格好良いし。」


格好良いと言われて千角が嬉しそうににやりと笑った。


「格好良い?俺?」

「ええ、センスが良いですよ。勉強になるわ。」


千角が脱いだ服を里奈が受け取り状態を見た。


「袖ぐりが破れているだけだわ。」


里奈がミシンの糸を変えてすぐに作業を始めた。

千角がそれをじっと見る。


「俺、ミシンは使った事は無いけど縫えるかな。

それで服が作れるんだよね。」

「全然難しくはないですよ。縫うだけなら簡単です。

でも服を作るなら布を買って型紙を作って裁断してと、

段取りが結構面倒ですけどね。

今もニット用の糸に変えたりと

そういう細かい事を考えたりしますし。」


ミシンが軽い音を立てて袖ぐりを縫う。


「出来ました。」

「おお、早い。」


千角が服を受け取りそれを着た。


「すげえな、凄いよ、里奈ちゃん。

ミシン面白そうだな。」


嬉しそうに直した所を見る千角を見て里奈が笑った。


「なあ、里奈ちゃん、

里奈ちゃんが作った服ってどれよ。」


里奈が少し恥ずかしそうに洋服ダンスを開いた。


「あれ、ちょっと普通の服と違うじゃん。」

「あの、コスプレなんです。」

「コスプレ……、アニメとかマンガの服だよな。」


千角は里奈が作った服を穴が開きそうなほど見ていた。

彼がどう言う反応をするか少しばかり怖かった。

だが、


「里奈ちゃん、すっげぇーーー!!」


満面の笑みで千角は言った。


「なんかすげえ服だ、物凄い変わっててカッコよくて、

俺着たいなあ、里奈ちゃん天才!」


大袈裟な誉め言葉だが、彼の顔に嘘はなかった。


「自分で着る物ですから結構お金もかけて

細かく作っているんです。作っていると本当に楽しいし。」


一角はコーヒーを淹れたが二人が全然来ないので

里奈の部屋の前に来た。

その時、心配になったのか鬼頭も上がって来る。


「里奈の部屋に千角が上がっているって?」


鬼頭が少しばかり不穏な表情で里奈の部屋の扉を叩いた。


「里奈、開けるよ。」


するとそこでは里奈と千角が沢山の服を広げていた。


「……、何してるんだい。」

「ああ、おばさん、千角さんに服を見せているんです。」


と里奈が嬉しそうな顔をした。


「服ってなんか色とか形が凄いけど。」


普通の服のようなものもあるが、

色が派手だったり形が変わっているものが多かった。


「私も初めて見たけど、あんたミシンでこう言うものを作っていたのか。」

「コスプレだよ、コスプレ、鬼頭さん知ってるだろ。」


千角が言う。


「コスプレは知ってるよ、

でも里奈がこう言うものを作っているとは知らなかったよ。

いつもミシンの音がしていたから

自分の服を作っているのかなと思ってた。」

「自分の服も作るけど……、

でも父さん母さんは良い顔しなかったな……。」


里奈がちろりと伺うように鬼頭を見た。


「父さんと母さんはこれ知っているのかい?」

「知っていたけどみっともないと言われていたの。

目立つ事は止めて外で絶対に着るなって。

でもここに来たら好きなだけ作れるから毎日ミシンをかけてたわ。」


鬼頭と千角は顔を合わせた。


「どうしてだよ。」

「なんでだよ。」


それは同時だった。


「私から言ってやるよ、ここまでの物を作れるんだろ。

どうしてそんな事を言うのかって。」

「そうだよ、どこがみっともないんだよ。訳が分からん。」


里奈の顔が驚きになった。


「おばさん、反対しないの?」

「しないよ、それに今はコスプレも世界大会とかあって

ニュースになるぐらいだろ。

そりゃ、服が服だから時と場合は選ばなきゃならないけど、

普通の服も作れてこういう物も作れるって才能だよ。」


千角が鬼頭の背中を叩いた。


「鬼頭さん、良いねぇ、俺もそう思うよ。」

「痛いよ、千角、あんたもいつも派手な物を着てるし、

服とか好きなんだろ?」

「ああ、里奈ちゃんにも言ったけど服には俺、こだわりがあるの。

だからコスプレとかド派手で良いよね。俺も作りたいな。」


一角が後ろで話題に乗り遅れたような顔をして見ている。


「あの……、コーヒーが冷めちゃうけど……。」


だが三人は里奈の服を見ながら話をしていた。


「凝った服なのは分かるけど着られれば良いと思うんだけどな。」


だがそれは誰も聞いていなかった。





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