第8話 放課後デート 【3】
本屋で用事も済ませ、帰路に就く。
外は意外にも暗くなっており、冬が近づいているのだなと感じる。
因みに芽衣とは家の方向が同じなので今は三人で一緒に帰っている。
「寒いなぁ」
無意識に独り言を呟く。
マフラーや手袋が恋しく思っていると、ふと俺の右手に何かが触れた。
その手を確認すると、莉子が俺と手をつないできた。
「莉子何して……!?」
俺が戸惑って莉子に聞くと、莉子は顔を赤らめてそっぽを向いた。
離そうとするが何故か恋人つなぎで握ってきたのでなかなか離せない。
こういうのは莉子が好きな人とすべきであって、幼馴染の俺とやっていいのかな……
勿論嬉しいけど、結構複雑な気持ちになってしまう。
「莉子……?」
理由が知りたくて再度莉子に聞くと、恥ずかしそうにしながらもこっちを向いてくれた。
「だって、寒いんでしょ……?」
そう言って莉子は今度は体ごと密着させてきた。
こんな状況今までなかったので、莉子はもしかして俺のことが好きなのでは?とか気持ち悪い勘違いをしてしまいそうになる。
「いや、寒いけど流石にそこまでは……」
恥ずかしいし、自惚れて勘違いしたくないので、早く手を放してほしいと思っていると、莉子が俺の気持ちを察したのか上目遣いで聞いてきた。
「私と手を握るのは、嫌なの……?」
「嫌ではないけどさ……」
なんて言えばいいのか考えていると、俺が言うよりも先に莉子が話し始めた。
「じゃあいいじゃん!それに暖かいでしょ?」
「まぁたしかにそうだけど……」
「うん、じゃあこのままね!」
周りの視線が気になるんだよ……と言いたかったが莉子が会話を強制終了させた。
よくよく考えると、左隣に芽衣が隣にいて、右隣に莉子がいるこの現状……
歩行者の人からすると、俺がとてつもないたらしに見えるているのでは?
と不安になっていると、今度は芽衣が俺のほうを向いてきた。
「明人くんさっきから何を茅野さんと話しているのですか?」
「いや、そのえっと……」
俺がとっさに握ってる手を自分の体を使って隠そうとするが、その前に芽衣に見つかってしまった。
「ててて、手を……な、何をしてるのですか……!?」
「いや、そのこれは……」
必死に言い訳を考えるが、俺もされた側なので言い訳が思い付かない。
それでもなにか言い訳はできないかと考えていると、芽衣が俺に聞いてきた。
「あの、本当にお二人は付き合ってないのですよね?」
どこか縋るような目でそう言った。
こんな状況なら疑ってしまうのも仕方ない。
まずはその誤解を解かないと……
「本当に付き合ってないよ、ただ俺が寒いって言ったら莉子が手を握ってきてそれで……」
俺が正直に話す。
不意に視界に莉子が入ったので、莉子のほうを見てみると、莉子は俺の話のどこかに嫌なところがあったのか頬を膨らませていた。
俺がその莉子の表情を見ていると、芽衣がぼそっと何かを呟いた。
「なるほど………」
「ん?どうしたの?」
呟いた内容が気になって聞いてみると、芽衣は少し頬を赤くして首を横に振った。
「いえ、なんでもありません」
「そ、そう……?」
話したくないのならこれ以上追及してはいけないよな。
会話も終わったっぽいので芽衣のほうを向くのをやめると、不意に左の袖が引っ張られてる気がした。
「な、なに?」
俺が再度芽衣のほうを向くと、芽衣は俯いていたが意を決した感じで勢いよく俺と目を合わせた。
「と、ところで明人くん、今少し肌寒くないですか?」
「う、うん、まぁ……」
マフラーとか巻きたいなと思って答える。
まさか芽衣まで手をつなごうとはしないだろうと思っていたのだが、芽衣は予想に反して俺の左手を握ってきた。
芽衣も急に何を……?と思い聞こうとすると、俺よりも先に莉子が話し始めた。
「な、なんで伊那さんまで手をつないでるの!?」
俺も同じことを聞こうとしていたので、理由を聞くために芽衣のほうを向く。
芽衣は俺の目を見て理由を答えようとしたが、何度か言い淀んで結果そっぽを向いた状態で教えてくれた。
「あ、明人くんが、肌寒いそうなので……」
い、いや確かにそう言ったけど……
別に手をつながなくて全然大丈夫なんだけど。
というか、改めて冷静に考えて、女子二人と手をつないでる今の状況は結構やばい気がする。
それにしても、なぜ二人とも好きな人がいるのに俺の手を握ってくるのだろうか。
素直な優しさなのか……?
それとも別の理由があるのか……
いくら考えても、俺にはその理由が分からなかった。
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