第9話 ツーショット写真。
本格的に冬の季節になりつつある12月中旬。
定期テストの一週間が近づいてきた。
今までの俺とは違いテスト期間の二週間前からばっちり勉強しているので、今回のテストはかなり自信がある。
今日も早く帰って勉強がしたいので、とりあえず莉子の席へと向かう。
「莉子、早く帰ろう」
「うん!」
俺の声を聴いて、莉子は超高速で帰り支度を済ませてくれた。
そして帰り道、莉子が俺に提案してきた。
「ねぇ、今日くらいはさ一緒に家で遊ばない?」
また今日も誘ってきたか……
約二週間。ほぼ毎日誘ってくる。
テスト勉強もさすがに疲れてきたので息抜きがしたいが、それでは自分磨きを今までやってきた意味がない。遊びたい気持ちを抑えて俺は今日も断る。
「さすがに勉強しないとダメじゃない?家で遊ぶなら冬休みに遊べばいいし」
そう言うと、莉子は納得はしていないが、言い返せないのか俯いてしまった。
「そ、そうだけどさぁ……でも……」
続きを聞きたかったが、口籠っていて聞けなかった。
莉子のこんな悲しい表情を見るとつい「遊ぼうか!」と言いたくなってしまう。
「まぁ、定期テストが終わったら遊ぼうよ」
ここ最近ずっとこの言葉を使って莉子の誘いを断っているが、それでも誘ってくるのだから困ってしまう。好きな人からの誘いを断るのはあまりにも辛すぎる……
「うん……」
分かりやすく落ち込んでいる莉子を見て心苦しくなっていると、莉子が何か閃いたのか急に顔を上げた。
「あ、そうだ!一緒に勉強すればいいんだ!明人、一緒に勉強しよ?」
なるほど、その手があったか……
一緒に勉強したら楽しそうだし、最近莉子の誘いを全部断ってたからなぁ……
ここは了承するしかなさそうだ。
「いいよ、でも、どこで勉強するの?」
定期テストのための教材は持ち歩いているので、どこでも勉強はできるがここから図書館に行くには少し遠すぎる。まぁ、俺の部屋でもいいけど一応聞いておく。
「えっと、私の部屋でいいかな?」
……莉子の部屋!?
久しぶりに入るような気がする。
「うん、全然いいけど、本当にいいの?」
莉子の部屋に入れるのか……
高校生になってからは俺の部屋で遊んでばかりで、莉子の部屋に入ってなかった。
「うん、明人なら大歓迎だよ!じゃあ今すぐ行こー!」
そう言って莉子は俺の袖を引っ張ってきて走り始めた。
***
走ったおかげか予想よりもだいぶ早く家に着いた。
久しぶりの莉子の家に緊張している俺をよそに、莉子は玄関の扉を開けた。
「明人、入っていいよ!」
莉子に促されるままに俺は家に入る。
すると、リビングの方からこちらに近づいてくる足音がした。
誰か来るのか気になってドアを見ると、莉子のお母さんが出てきた。
「あら~、明人くん久しぶりね~ずいぶんカッコよくなったのね!」
「お久しぶりです。お世辞でも嬉しいです」
俺の顔を見て莉子のお母さんは驚いた表情をする。
お世辞だろうとなんだろうと、褒められて嬉しかった。
でも、莉子のお母さんは全然変わらないなぁ。
「今日はどうしたのかしら?」
「莉子と勉強しようって誘われたので」
俺が来た理由を説明すると、莉子のお母さんは目を丸くした。
「そうなの?莉子は頑張ってるのね~!」
そう言って莉子のお母さんは莉子のほうを見て嬉しそうにニヤニヤする。
莉子は恥ずかしいのか、お母さんと目を合わせない。
家に上がっても良いものなのか困っていると、莉子が先にスリッパに履き替えた。
「そんなことより明人あがって!先に二階の私の部屋行っていいよ!」
莉子が促してくれたおかげで俺はスリッパに履き替えて二階へ行き、部屋に入る。
「懐かしいなぁー」
内装は最後に部屋に入った時とあまり変わらなかった。
どこに座れば良いのか戸惑っていると、棚に飾ってある写真に目がいった。
「小学生の時のやつかな?」
その写真は俺の記憶通りだと、小学生の時に莉子のお母さんに撮ってもらった莉子とのツーショット写真だった。
当時の俺は自分の恋心に気付いていなかったので、堂々と莉子の手をつないでいた。
なので、この写真も手をつないでいる。
だからこそ、この写真を見て思う。
自分磨きをしてよかったと。
もししていなかったら、今日ここに来ることも、莉子とこの前のように手をつなぐ事もなかったと思う。
まだ釣り合ってはいないけど、でもこの写真のおかげで自分磨きをより一層頑張ろう。
そう思えた。
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