くちびるを奪って

第2話 対照実験

　「入れ替わった」

それを聞いて、教室から出て行こうとしていた紺屋（こんや）はバッと振り返る。

「ほんまに、キスで入れ替わるんですね……」

　三人はほとんど興奮していた。朝永（ともなが）の中身が地場（ちば）だったことでさえ、今までの人生で一番信じられない事だったというのに、キスで中身が入れ替わるなんて。

　清水と地場はもう一度キスをしてみた。

　やや目眩がして目を閉じる。次に開けた瞬間、元の状態に戻っていた。清水は内心ホッとした。

　「紺屋ちゃんもやってみよう！」

と地場は紺屋に提案した。

　紺屋は若干申し訳なさそうに、しかし伝わる程度に嫌そうな顔をして「えぇ……」と言ったが、迫ってくる地場に抵抗できずにキスをした。

　ありえないことばかり立て続けに起こりすぎて、清水はハイになっていた。目の前で美少女同士がキスしているのを見ても、もう「入れ替わるか、入れ替わらないか」にしか意識がいっていなかった。

　「うわ、えー！」

どうやら入れ替わったらしい。見た目は朝永なのに、動きに紺屋らしさがあった。けれども紺屋が早く戻りたがったので、地場と紺屋はまたキスをして元に戻った。

　清水は、（じゃあ俺と紺屋でも入れかわれるんか？）と思った。思った時にはもう紺屋の顎に手を伸ばし、唇にキスをしていた。

　……目を開けると、顔を真っ赤にしてこちらを睨んでくる、顎を掴まれたギャルがいた。

　どうやら、外見と中身の人格が一致している者どうしのキスでは、入れ替わることがないという事が分かった。

「対照実験ってやつやなあ。」

と言った地場に、紺屋は

「見た目が朝永さんじゃなかったら殴ってました。」

と言った。