第1話 はじめてのチュウ(後編)
「清水……。」
振り返ると、そこにいたのは紛れもなく、今日ずっと探していた
……しかし、長年の勘が清水にNOと言っている。言葉が出ない。
なぜか怯えた表情をしている朝永もまた、なんと言っていいかわからないようであった。
紛れもなく、朝永なのだ。どこからどう見たってそうだ。
白い肌、艶やかな黒髪、丸く大きい目、
清水はハッとした。
今さっき朝永は、清水のことを苗字で呼んだ。
それに、朝永はそんな男っぽい立ち方をしない。
「あの、信じてもらえるか分からへんねんけど、聞いて欲しい。」
先に口を開いたのは朝永だった。声は、本当に朝永そのものだった。
だが、この話し方をする人物を清水は知っていた。
「……
朝永___の姿をしたその人は目を見開きながら頷いた。
「なんで分かるん……」
「聞いて欲しい」というフレーズは、ミーティングの時に前に立って話す地場がよく言うセリフだった。
その「聞いて欲しい」には、どんな状況でも部をまとめる力のこもった、しかし落ち着いた雰囲気があった。
二人は場所を放課後の誰もいなくなった教室に変えた。
地場はゆっくりと話し始める。
「昼練の後、教室に帰る準備してたらな、お前の彼女が俺を訪ねてきてん。なんでかなと思いながらついて行ったら、角曲がった瞬間……その、キスされてさ。」
言いにくそうに清水を見る。清水は彼女ではないと訂正しようかと思いつつも続きを促した。
「その後突き飛ばされて、気づいたら、朝永さんになってた……。」
そんなことがあるんか?いやでも目の前のこの人は、見た目がどうであろうと、地場さんやないか。
困惑して黙り込んでいると、廊下を紺屋が通りかかった。
*
「それは……キスしたら入れ替わったっていうこと?……ですか?」
状況を聞き終えた紺屋は、もしかして、と続けた。
「朝永さん、昨日天沢先生とキスしてるの見ちゃったんですけど、その時にも入れ替わってた可能性ありますよね。」
地場は知らなかった、という顔をした。
「じゃあ、俺と清水がキスしたら、中身入れ替わるってこと?」
「試してみますか……」
地場と清水が向かい合う。
「ええええ嘘やろ。私部活行くで。」
と紺屋は逃げようとするが、お構いなしに二人は顔を近づけた。
清水は体格の良い男だ。身長は184cmある。朝永も低くはないのだが、160cmと184cmではかなり体格差がある。放課後の教室、高校生。これが普通のキスだとしたら、どれほどロマンチックだっただろう。清水のファーストキスの相手は、中身が先輩と入れ替わってしまった幼馴染になってしまった。
唇と唇がつく。
その瞬間、すぐ近くで雷が光り、大きな音を立てた。
「……入れ替わった」
喋ったのは、清水の見た目をした地場だった。
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