最終話 今日も元気にダンジョン配信

 「次は本当にここか?」


「うん! 本当だよお兄ちゃん!」


 質問に答えてくれるのは一人の少女。

 俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶのは世界で一人しかいない。

 妹のあやかだ。


「これは今までで一番大変かもなあ」


「だね。でも私とお兄ちゃんなら余裕でしょ!」


「ははっ、そうだな」


 互いに目線を合わせ、笑い合う。

 ほんの四年前までは病室で寝たきりだったっていうのに、あやかは俺の隣に立っている。


 それも、ダンジョンを前にして・・・・・・・・・・


「ちょっとちょっと! また二人で会話して!」


「なんだよ。別にいいだろ、兄妹なんだから」


 そこにいつも通り・・・・・割り込んで来る奴が一人。

 こんな騒がしい奴は一人しかいない。


「そうだけど! そうじゃなくて!」


「そろそろお前も落ち着けって。ちい子」


「うっさいわね! あんたに言われたくないわよ!」


 ちい子だ。

 ちい子とは、四年前に日本で起こった『キュア災害』の時からずっと共に行動をしている。


 キュア災害というのは、俺が浅間山ダンジョンでキュアと戦った時のこと。

 災害の大きさから、後々そう呼ばれることになった。


 そして、


「まあまあ。ちい子ちゃん」


「あんたも! 付き合ってるからって余裕を見せつけてるんじゃないわよ!」


「つ、付き合っては! ないけど……ねえ、緋色君」


「あ、ああ……」


 美玖も共に行動している。

 

 ちなみに美玖との関係は……どう言えば良いのかな、両想い?

 だけど付き合ってはない、みたいな曖昧あいまいな関係だ。


 そうなっているのも、今俺たちがやっていることが関わっている。


 キュア災害。

 あの場は一度収まったものの、火が完全に消えたわけではなかった。


 あれからしばらく、良くも悪くもキュア災害についての話題は続いた。

 応援や感謝をしてくれた人が大多数ではあったけど、批判やバッシングも確実も存在した。

 それらは当然、俺の方にも向いてくる。


 正直、あの時は結構こたえたな。

 俺もまだ高校生だったし、ネットの恐ろしさを知った。


 そんな時、精神的に支えてくれたのが美玖だった。

 彼女にもヘイトは向いていたはずなのに、「君は正しい事をしたよ」とずっと声を掛けてくれた。


 その時のちい子が俺を気遣い、一歩引いて俺と美玖を見守っていたのは、後から知ったことだけどな。


 そんな中で俺がぽろっとこぼした「美玖が好き」だということ。

 それに応えるよう、美玖も「好きだよ」と想いを伝えてくれた。

 思い出すと恥ずかしいけど、あの時のキスは忘れないだろう。


 そうして、お互いに立ち上がった後、あやかが退院する。

 病院でのリハビリを全て終えて、本当にあやかが帰ってきた。


 日々に変化が訪れたのは、あやかが退院して数日経った頃。


 あやかにほどこしたキュアの羽根『ヒールフェザー』が起因したのか、元々の素質なのか、あやかは探索者としての光る才能があった。


 これが最後にキュアが言い残した『贈り物』の事なのかは定かではない。

 次に対峙たいじした時、しっかり聞いてやろうと思う。

 今から・・・そうなる予定だしな。


「……ふぅ」


 俺は振り返り、再度メンバーを確認する。


 俺、あやか、美玖、ちい子。

 

 俺たちが今やっていること。

 それはキュアを追うこと・・・・・・・・・


 キュアは災害の後は姿を見せていない。

 けれど、いくつかの痕跡は残している。

 

 今この状況を楽しんでいるのか、何をしたいのかは分からない。

 でも、次にまたああなってからでは遅い。


 だから俺たちは、かすかな情報を頼りに日本中を飛び回っている。

 あやかも最近高校を卒業したことで、共に活動に専念していくつもりだ。


「ん」


 そこに唐突に通信が入る。

 相手は分かっているけどね。


『そろそろ探索を開始する頃だろう』


「はい。今から入ります」


 檀上だんじょうさんだ。

 彼は災害以降、責任を一人で背負い、ダンジョン庁を退職。

 今は俺たちのサポートという形で、立ち上げた事務所にいてもらっている。


 まあ、彼女の代わり・・・・・・だな。


『今回こそは真実を明かそう』


「そのつもりです」


『では健闘を祈る』


 そこで通信は切れ、俺はふと空を見上げた。

 そして、この活動のもう一つの意義を確かめる。

 

 檀上さんは、まりんさんの代わり・・・・・・・・・なのだ。


「……」


 キュア災害の後、まりんさんは俺の前から姿を消した。


 思い当たることはほとんど無い。

 あるとすれば、ただ一点。


 キュアとまりんさんは、俺を「お子ちゃま」と呼んでいた。

 それだけだが、キュアとまりんさんの確かな共通点はある。


 もちろんそれだけで、まりんさんがキュアだと決めつけるのは早計。

 まりんさんは俺とあやかに本当によくしてくれたし、俺が進むべき道を示すこともしてくれた。


 あやかの病気関連のこと、ダンジョン仮面のこと、その他にも色々と。

 俺たち兄弟を導いてくれたのは間違いなくまりんさんだ。


 でも、もしそれがキュアの言っていた『壮大なストーリー』だったとしたら?

 キュアの正体がまりんさんで、始めから全て仕組まれていたとしたら?

 

 謎の権力に謎の繋がり。

 あやかが突然かかった未知の病気。

 それと同時期に急に俺たちの前に現れたことも。


 考えれば怪しいところはそれなりに出てきた。


 だけど、俺はまりんさんを信じたい。

 だから確かめたい・・・・・だけなんだ。


 まりんさんは本当に良い人で、何か事情があって姿を消した。

 この活動の第二の目的は、それを確かめる為でもある。


 俺は見上げるのをやめ、みんなの方を振り返った。


「準備はいいか」 


 俺の掛け声にそれぞれが意思を示す。


「任せて! お兄ちゃん!」


 あやかは細剣を。

 これは、じい子さんに直々に造ってもらったものだ。


「とっくに出来てるわ!」

 

 ちい子は大斧を。

 四年前よりも、さらに大きく高くなっている。


「こっちもばっちりだよ!」


 美玖は配信機材を。

 カメラ等々を立ち上げ、今回の探索も配信関連のサポートをしてくれる。


「じゃあ美玖。頼む」


「うんっ!」


 美玖に指示を送り、配信をつけてもらった。


 今この瞬間から、俺は『ダンジョン仮面』だ。

 象徴となる仮面はずっと付けていないけど、俺の顔はすっかりダンジョン仮面で通っている。

 

 配信がつき、飛行型カメラにバッとコメントが流れる。


《きたあああああああ》

《やあ》

《今日も待ってたぞ!》

《やあ》

《ダンジョン仮面!》

《美玖ちゃ~ん!》

《お、今日もちい子いるやん》

《あやかちゃん!》

《あやか!》


「ははっ」


 それを見た瞬間、ふとした笑いが出る。


 変わらないな、このコメント欄も。

 そう思って、これまでを色々と思い出したからだ。


 美玖の配信で正体バレした時。

 自分で初めて配信をした時。

 キュア災害の時。

 そして、今この時。


 色んなコメントがあるけど、こうして支えてくれる人達がいる。

 ダンジョン仮面について不穏が広がった時も、災害が起こった時も、変わらず応援してくれた人達がいる。


 半ば、あやかという目的のために始めた配信。

 それを今でも続ける理由は、こうして応援してくれる人達の為なんだと思う。


「今日も元気にダンジョン配信やっていきます!」


 終わり。




───────────────────────

あとがき


まずは、この作品を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

最後に★を一つでも二つでも、満足していただけたら三つ、押してやってください。


また、この作品をきっかけに拙作に興味を持ってくださった方、良かったら他の作品も覗いて下さると嬉しいです!


ついでに“作者フォロー”もしていただけると、新作通知や近況ノートの通知が来ますので、そちらもぜひお願いいたします!


現在、更新頻度高めの作品を載せておきます。

リンクが踏めない方は、ぜひ作者ページより。


『小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するフェンリルがバズりまくってます。これならダンジョン&ペット配信でスローライフを送れそうです~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330654492604080


今回の話で作品は完結とさせていただきます。

ですが、反響がありましたら、もしかしたら再開するかもなんて考えたりもしています。

SS(ショートストーリー)とかも出すかも?

ですので、フォローは外さないでいただけると笑。


作品に関しては、なんとなく書きたかったことは書けた気はしています。

これも皆様が応援をしてくださったおかげです。

作品内のコメントではないですが、皆様が付けて下さるPVやハート、応援コメントやレビューが本当に励みになっていたと思います。


皆様、またどこかでお会いしましょう。

改めて、本当に本当にありがとうございました。

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