第19話 『深層』と『スキル』の存在
壇上さんとの会議を終え、ダンジョン庁をあとにした。
「……」
俺は頭の中で、会議の内容を軽く整理する。
俺がスチールドラゴンとの戦いの時、ふと聞いた不思議な声の主『キュア』。
そして、キュアが落としていった謎の羽根『ヒールフェザー』。
そのヒールフェザーが、あやかの未知の病気を解明する可能性があるとして、俺はキュアを追いつつ、今後も配信をする運びとなった。
違うダンジョン間を
だが、キュアが移動していると考えられるのは高難易度ダンジョン『下層』以降。
現状、そんな場所に潜れる探索者なんてそうそういない。
だから俺が高難易度ダンジョンを配信を続けることで、より多くの人に攻略法が伝わり、より多くの人が高難易度に潜れるようになる。
そして俺自身もキュアを追うことができる、というわけだ。
「……ふぅ」
考え直すと中々に前途多難だな。
でも、
「あやかが救えるのなら、俺はなんだってやろう」
俺の信念は変わらない。
「ん」
そうして歩き出そうとした時に、スマホが鳴った。
相手は……ちい子か。
メッセージには一言のみ。
実にちい子らしい。
『結局スキルってなんなのよー!」
あー、そういえばそうだった。
俺がスチールドラゴン戦で使ったスキル。
めちゃくちゃ取材とか来てたけど、ここ数日は忙しくてなあ。
じい子さんにデュアルブレードを直してもらったり、壇上さんにこっぴどく怒られたり等々……。
一旦その辺も落ち着いたし、スキルの存在も公表するとしようか。
ネットなんかでも色々と考察が繰り広げられているらしいしな。
★
「おい」
「なによ」
俺は隣に座るちい子に声を掛けた。
ちょっと困惑気味に。
なぜなら、
「なんでこんな
俺とちい子の前にはばっとカメラがずらりと並んでいるからだ。
東京某所。
ダンジョン庁から帰ろうとした矢先、俺はちい子に連れられてここへ。
俺たちは白い長テーブルを前に、椅子に座り、取材陣に囲まれている。
まるで何かの会見みたいだ。
いや、本当に会見なのかもしれない。
だけどまだ本番前。
思わず放ってしまった盛大なツッコミは、全国放映を免れたらしい。
「何があってこんなことに?」
「し、知らないわよっ! あたしだってこんなの苦手よ!」
「だろうな」
と言ってる割には、すっごくおめかししているのは触れない方が良いのだろう。
多くの人目に触れるんだ、女性はそれで当たり前だろうし。
って、そうじゃなくてだな。
「これどんな状況なんだよ」
「あたしが聞きたいわよ! あたしがなんか街を歩いてたらカメラがバーッときて、それがうざくてつい言っちゃったのよ」
「なんて?」
「とりあえず邪魔だったから、今度ちゃんとしたとこで聞きなさい! って」
「……」
100パーお前のせいじゃねえか。
「で、その時は何の取材だったんだよ」
「『ドラゴンスレイヤー』がどうのこうのって」
「あー」
なるほどね。
スチールドラゴン戦は俺のチャンネルで配信されていてすごく話題になったし、ドラゴンを狩るというのは日本人共通の夢だ。
結果、俺たちは『ドラゴンスレイヤー』なんてもてはやされた。
その話題にあやかり、ぜひうちでも取り上げたいって集まってできたのがこの会見という形なのか。
まあ、スキルの存在を世間に公表しようと思っていたし、ちょうどいい機会か。
「では、始めさせていただきます」
「は、ひゃいっ!」
「落ち着けちい子」
「う、うっさいわねっ!」
「「「あはははっ」」」
そうして、急ではあるが、超緊張するちい子と共に、浅間山ダンジョン攻略配信成功への会見は始まった。
そして、時間がそれなりに経った。
「……」
だっっっっる。
俺だって初めてのことだったし多少ウキウキはしてたんだけど。
「質問します! 今回の件ではどのように~」
なんでこうも、取材陣ってのは同じ質問ばかりなのだろう。
マスコミ嫌いの人の気持ちが少しは分かった気がする。
もう受けるのはやめよう。
隣のロリっ子もお眠みたいだし。
「おいちい子」
「はっ!」
「寝てただろ」
「そ、そんなわけないでしょ!」
うそつけ。
せっかくその綺麗なお洋服によだれ付いてるぞ。
だけど、最後に良い質問が出た。
「では最後に、スキルについて教えてもらえませんか!」
「!」
ようやく来たか。
そろそろ自分から切り出そうと思っていたところだ。
『スキル』。
日本でどれだけの人が知っているかは分からないけど、ネットを見る限り、俺が口にするまで誰も言ってなかったように思える。
俺だけが知ってる、みたいな状況も男の子としては憧れるけど、より多くの人に伝わった方がよりキュアに近づく可能性は高まる。
だからここは出し惜しみをせず、持ってる情報を全て提示しよう。
別に最強には興味が無い。
俺はマイクを片手に、立ち上がって説明を始めた。
「スキル。俺なりの見解ですが、出来る限り話そうと思います」
通常、魔石を自分に取り込めばどこからしらの能力が上がる。
筋力、耐久、俊敏……などなど。
筋力と言っても全身の筋肉だったり、腕だけだったり、脚力だったりもする。
それは魔物の種類によって変わる。
そして、俺が違和感を感じたのは『深層』に潜った時。
『深層』とは、
各ダンジョンの第10層~第15層までを指すのが『下層』。
つまり第16層以降のことを『深層』と呼ぶ。
第15層が最深部というのが通説なのだが、極まれに『深層』が存在するダンジョンがあるのだ。
「これが、俺が調べた『深層』が存在するダンジョンの一覧です」
用意してきたデータを後ろのスクリーンに映すと、一斉にカメラがパシャパシャとフラッシュする。
確認した限りでは、『深層』が存在するダンジョンは
ただ、俺は関東圏のダンジョンを主に探索地にしているので、全国にはもっとたくさんあると思う。
「『深層』。まだ俺も最奥までは辿り着いてませんが、最初の方の魔物ならなんとか倒せました。けど、魔石を取り込んだ時に違和感があったんです」
その違和感とは、無力感? とでも言えば良いのだろうか。
なんとなく、何も
最初は気のせいだろうと思い、魔物を狩り続けた。
けどやっぱり、どこかしらがパワーアップした様子はない。
魔石を取り込む際、それを落とした魔物が強ければ強いほどパワーアップの幅も大きいはずなので、これはおかしい。
「むかついたので、俺もムキになって狩り続けたんです」
「「「……」」」
「あ」
やべっ、ブラックジョークが過ぎたか。
記者さんたちの顔が若干引いてる。
「コホン。続けます」
そして、転機はおそらく百個目。
正確には数えてなかったけど、キリが良いとしたら百だ。
同じ『深層』の魔物の魔石を百個取り込んだ時、体の内側から燃え上がるようなものを感じた。
最初はコントロール出来なかったが、それも段々慣れてくる。
やがて分かったのは、
それは、発動することで効果を発揮して、普段の能力には作用しない。
だから俺は、それを【身体強化】と名付け、他のものも全て合わせて『スキル』と呼ぶことにした。
「といったところです」
俺が説明を終えると、場内は静まり返っている。
あれ、もしかして伝わってない?
そう思うとちょっと悲しい気持ちになったが、それも一瞬。
「「「うおおおおおっ!」」」
上品な記者さん達が、立場を忘れたかのように盛り上がった。
「これはすごい発見だぞ!」
「さすがダンジョン仮面だ!」
「明日の一面は決まりだ!」
「でも深層なんて、並みの探索者には」
「いや、情報だけでもすごいだろう!」
「お、おぉ……」
場内が一気に活気を取り戻したのを見て、少し身じろいでしまう。
ちゃんと伝わっていたのか、良かった。
「へえ。随分と大層なものをお持ちで」
「どういう意味だよ」
そんな俺に、もはや肩肘を付いて俺に目を向けてくるのはちい子。
「あたしも興味あるわ。スキルとかいうやつ」
「お、おう。どうぞ……ご勝手に?」
「~~~! っもう! 鈍いわね! 一緒に行こうって言ってんの!」
「あ、あー! なるほど、そういうことでしたか」
「それで? 良いの? ダメなの?」
少し眉を寄せてちい子は俺を睨んだ。
もちろん答えは、
「良いよ。連絡をくれればいつでも」
YESだ。
ちい子には恩もあるしな。
「……! ふふっ。それなら良いのよ」
「!」
ちい子は寄せていた眉を戻し、柔らかくなった表情で微笑む。
ダンジョン仮面ではなくて、東条緋色にこんな顔をしてきたのは初めてかもしれない。
それに、あれ。
こいつこんなに可愛かったか?
いやまあ、おめかしをしているせいだろう。
「なによ。人の顔じろじろ見ちゃって。やっぱりえっちなのね」
「なっ! ち、ちげーよ!」
俺はふいに彼女から顔を逸らした。
と思ったら、
「「「……」」」
「え、あの」
記者さん達がニヤニヤとした顔でこちらを見ていたのがわかる。
おいおい、何か勘違いされていないか?
ここは誤解を解いておかなければ!
「本当にそういうのじゃないですからね!?」
俺の弁明に、ニヤニヤした顔で記者さん達は口を開く。
「ダンジョン仮面と言ってもお年頃ですなあ」
「そうですよ、彼も高校生です」
「普段は多感な一般人ですか」
「いや、だからね?」
何か誤解をされたまま、
そして、俺がスキルについて公表したことで、その存在が世間に知られることとなった。
すぐにとはいかないだろうけど、習得法、『深層』があるダンジョンは公表したので、その内上級の中には習得する者も現れるのではないか。
そういう人達が高難易度ダンジョンに潜れば、俺が追うキュアについても情報が出てくるはずだ。
それを期待して、スキルを公表した報酬と考えればお釣りも出るかな。
だけど、一点だけ。
『ダンジョン仮面とちい子は付き合っている!?』
『ちい子はダンジョン仮面の古参ファン』
『ダンジョン仮面も嫌がってはないようで……?』
そんな記事がそこそこ出回ってしまった。
俺としてはそんなつもりないのに、数字が命のマスコミは、あたかも本当かのように取り上げるみたいだ。
うん、やっぱりこういうのは二度とやめよう。
カメラをたくさん向けられるのも結構疲れるし。
★
そして、次の日の学校。
いつものようにわいわいされる日常の中で、昼休みにメッセージが届いた。
『少しお話できないかな?』
「!」
相手は本多さん……美玖からだった。
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