第18話 あやかの病気を解決する糸口

 思い返すのは、ここ数日の事。

 浅間山ダンジョンでの、スチールドラゴンとの戦いからの事だ。





「──はああっ!」

「──やああっ!」


「──ヴオオオオオオオッッ!!」


 スチールドラゴンが最後に放ったブレス。

 それを、俺とちい子の武器がぶった斬る。


「これでっ!」

「終わりだー!」


 その勢いのまま、スチールドラゴンの頭に思いっきり斧を振り下げるちい子。

 そこに俺のクロスしたブレードを上から合わせる。


「ヴオアァァッ……!」


 ちい子単体では弾かれるだけだった攻撃。

 そこに、俺が『深層』で得たスキル【身体強化】の力が乗り、ドラゴンの頭を割っていく。


 そして、


「うおおっりゃああ!」


 スチールドラゴンの頭を俺とちい子の武器が砕いた。


 頭を失った巨体は、翼の動きを停止させて真っ逆さまに堕ちていく。

 ゆっくりと、俺たちが着地した後も戦いの激しさを表すかのように、ゆっくりと堕ちてくる。

 

 どしーん!


 そして、無我夢中だった俺たちはその音でやっと我に返る。


「「……!」」


 隣のちい子と互いに顔を見合わせた。

 最初に口を開いたのは、ちい子。


「やったわ!」


「! ちょっ、おい!」


 ちい子はものすごい勢いで俺に迫ってそのまま俺を押し倒す。

 普段なら余裕で反応できているのに、俺は体の疲れから動くことが出来なかった。


 スキルは強力な力を引き出す代わりに、多大なる反動を起こすことも分かってる。

 それがちょうど降りかかってきていたのだ。


「いててて。この、離れろって」


「良いじゃない! 今ぐらい!」


「くっ」


 なんとかちい子を追い返すも、腕がぷるぷると悲鳴を上げている。


 あ、そんなことよりも!

 配信はどうなった!


 ようやく思い出して、バッと固定しておいた飛行型カメラに目を向ける。


《どりゃああああああ》

《すごかったぞ!!》

《もう映画だろこれ》

《別世界見てるみたいだった》

《かっけえええええ》

《二人ともすげえぞ!!》

《お前らがNO.1だ》


「……!」


 どうやら配信は一部始終をとらえていたらしい。

 その証拠に、コメント欄は魔石で鍛えた動体視力でも追いきれないほどに早い。


 さらに、視聴者数は


「ははっ」


 70万人を超えている。

 もはや訳の分からない数字に、俺は思わず笑うしかなかった。


 だけど、コメント欄には疑問も残るようで。


《スキルってなんだ?》

《深層だって?》

《それどこにあるんだ?》

《↑お前は潜れないだろ》

《情報はよ》

《スキルっていよいよガチでファンタジーだな》

《オラワクワクすっぞ!》

《男の子は大好き》


 俺が途中で使った“スキル”についても議論されている。


 これは説明責任がつきまとうだろうなあ。

 なんて微妙な気持ちで、俺はドラゴンに再び目を向けた。

 

「ちい子、そろそろ帰ろう」


「ええ、そうね」


「ではみなさん、ありがとうございました」


 最後の力を振り絞って配信にお辞儀をする。


《ありがとう!》

《感動したぞ!》

《ひん》

《;;》

《ゆっくり休んでくれ!》

《無理は言わないから毎秒投稿してくれ》

《おつ》

《ダンジョンかめーん!》

《ちい子のファンになった》


「ふふっ」


 温かいコメントの数々を見ながら、俺は配信を切る。


「結局、折れちゃったわね」


「まあ、仕方ないだろ」


 俺はちい子と肩を支え合いながら、折れたブレードを眺める。

 俺を支えてくれたこいつは、最後の最後まで役割を全うしてくれた。

 あとはじい子さんの手で、生まれ変わってほしいと思う。


「ありがとな」


 ずっと使ってきた相棒に声を掛けた。

 と、そんな時にちい子が口を開く。


「あれ! なにかしら!」


「ん?」


 ちい子が指差した場所には一枚の“小さな羽根”。

 綺麗な光を帯びていて、どこか神聖さを思わせる不思議な羽根だ。


「なんだこれ」

 

 拾って近くで観察してみても、俺ですら見た事がない。

 なのに、価値がある・・・・・、そう直感できるほどの代物だ。


「でも、ここには私たちしかいなかったわよ?」


「ああ、だよな」


 と自分で言って気づく。


 いや、違う!

 そうだ、あの時!


 思い出すのは、ブレスの前の攻防。

 ちい子は気づいてなかったみたいだったけど、俺のブレードはその時に一度折れているんだ。


 その時に聞いた謎の声。


≪その剣、もう少し頑張れそう≫


 たしかそんな事を言っていた気がする。

 幼い少女のような、どこか妖精を思わせるような声だった。


 あれがもし幻なんかではなくて、本当に一瞬で俺の剣が戻ったのだとしたら。

 この羽根は、あの時の声の正体なのだとしたら。


 全ての辻褄つじつまが合い、納得も出来る。

 

「どうしたのよ」


「……いや、ちょっとな」


 ちい子には曖昧な返事をして、俺は羽根を持ち帰る事にした。

 これが今後、俺に何かをもたらしてくれる、そんな気がしたからだ。


「まあいいわ。じゃあ!」


「おう、帰ろう」


 俺とちい子は戦いの果てに帰路を辿った。





 その後、


「帰ったかー!」


 じい子さんには「本当によくやった」と褒め称えられた。

 あとここで気づいたことなのだが、スチールドラゴンには後日挑むものかと思っていたらしい。


 ちい子に教えられて配信を見ていたらしいが、その時は大層驚いた、と。

 だけど、


「よくやった。さすが自慢の孫じゃ」


 なんて言って相当な上機嫌だった。

 

 そしてそれとは対照に、キレ散らかすお偉いさん。

 スマホに鬼電が来ていることに気づき、俺は壇上さんにかけ直した。


 すると、


「東条君!! 君という子は! 君という子はあー!!」


「ひいっ!」


 あの温厚な壇上さんが声を上げたことにビビってしまう。

 普段との温度差のせいか、スチールドラゴンよりも怖かったように思える。

 後日、無事にお呼び出しをされ、きっちり絞られたとさ。


 あとは、


「ダンジョン仮面、バンザイ!」

「すごかったよねー!」

「ほんと息が出来なかった!」


 街中がさらに大騒ぎ。

 俺とちい子は勝手に『ドラゴンスレイヤー』なんていう称号で称えられ、帽子なしではとても歩くことができない。


 それに伴って、ちい子もかなりバズったらしい。

 「これが本来の実力なんだから!」なんて強がりながら、必死にエゴサしている様子はなんとも彼女らしかった。




 

「ふぅ」


 そして、今に至る。

 

「大丈夫かな?」


「ああ、いえ」


 電話越しに聞こえてくる声に反応して現実に意識を戻した。

 そうだ、今は壇上さんと話をしているのだった。


「もう一度言う。あの羽根は、東条あやか君の病気を治す可能性を秘めている」


「それは……」


 うまく言葉が出てこない。

 心臓がバクバクして、口をどもらせてしまう。

 まさかこんなにも早く解決の糸口が見つかるとは、思いもしなかった。


「そうなるのも無理はないね。だから、一度ダンジョン庁に来てくれるだろうか。もちろん迎えは出そう」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


「うむ。では後ほど」


 壇上さんとの電話を切って、空を見上げる。


「待ってろ、あやか」


 俺は改めて決意をした。







 数時間後。

 

「どうぞ」


「失礼します」


 俺は約束通り、ダンジョン庁に顔を出す。

 先ほどの話について、色々と詳しい報告を受けるためだ。


「では東条緋色君、本題に入ってもよろしいかな」


「お願いします」


「まずはこちらから」


 壇上さんが出したのは、今回の鑑定結果が書かれた資料。

 あの“神聖な羽根”について書かれたものだ。


「まず我々は、あれを『ヒールフェザー』と呼ぶことにした。文字通り、様々な“癒し”効果があると分かったのでね」


 ヒールフェザー、癒しの羽根か。

 まんまだな、まあわかりやくて良いだろう。


「この羽根。東条緋色君の証言も組み合わせて考えた結果、我々はある仮定を立てた。その仮定というのが──」


 壇上さんからの話はかなり不思議なものだった。


 まず、ヒールフェザーは魔物が落としたものである。

 きっと俺が聞いた謎の声の主がそうなのだろう。

 これは想定内。


 次に、それは未知の魔物である。

 俺も見たことも聞いたこともなかったし、やはり未確認の魔物とのこと。

 今は仮に、名を『キュア』としたそうだ。


 そして、一番驚いたのはこれだ。


ダンジョン間移動・・・・・・・・……?」


「うむ。にわかには信じ難いが、キュアはダンジョンとダンジョンを何らかの方法で移動していると考えられる」


「そんなことが……」


 資料には確かな実験と結果が記してある。

 だけどたしかにあの時も、急に現れては急に消えた気がする。


 そう考えると、やはりこの仮説は正しいのか。


「なるほど、では」


 そこまで聞いたところで、俺は一番聞きたい事を尋ねる。


「このヒールフェザーで、あやかの病気が治るというのは本当なのでしょうか」


「……すまない。残念ながら、まだ絶対とは言い切れない」


 壇上さんは申し訳なさそうに答える。


「だが可能性はある。この効果が病気などに対しても働くのであれば!」


「わかりました」


 それが聞けただけでいい。

 何か成果があったわけではないが、こうして何かにこぎつけられただけでも十分だ。

 確実に前には進んでいる。


 ならば、俺は俺のやるべきことをやろう。


「俺にも何か、できることはありませんか」


「……そうだな。今はもっと材料が欲しい」


「材料と言うと、ヒールフェザーですか?」


「うむ。材料が多ければそれだけ研究も進む」


 けど、ただ探しても見つかりはしないだろう。

 俺は疑問を壇上さんにぶつける。


「でも、どうやって探せば?」


「キュアについては情報がまるでなく、確証がない。だがそれゆえに仮説は立てられる」


「!」


 なるほど。

 配信文化が始まったのはここ数年。

 だけどダンジョン自体の歴史はもっと古い。

 

 それでも今回、全く未知の物が出てきた。

 つまり、今まで探索しなかった場所、もしくはできなかった・・・・・・場所にキュアは現れる、ということか?


 俺は自分の中の考えを言葉にする。


「高難易度ダンジョンの『下層』以降に現れると?」


「うむ。我々もそう考えている」


 そうか、ならば俺がやるべきことは決まったな。

 俺は一呼吸おいて、壇上さんに向き直る。


「俺は配信を続ければ良いんですね」


「さすがだ。君が高難易度ダンジョンを配信してくれることで、そこへの流入が増える。そうなれば、君のように高難易度の『下層』へ潜れる者もいずれ増え、情報も集まる。今更だが、お願いできるだろうか」


「もちろんです。俺はあやかを救いたい。それに繋がるのであれば、ぜひやらせてください」


 壇上さんが立ち上がったのに応じて、俺も席から腰を離す。


「君に頼んで本当に良かったと思っている。これからもぜひよろしく頼む」


「こちらこそです」


 俺の目標は決まった。

 あくまで仮説だが、高難易度ダンジョン『下層』以降に現れるという謎の魔物『キュア』。


 俺はその情報を集める為、また自らもそれを探すために、高難易度ダンジョンを配信していく。

 

 これからもやるべきことがたくさんありそうだ。

 待ってろ、キュア。







 あるダンジョンの深く。

 妖精のような魔物は楽しそうに笑う。


≪うふふふっ。面白くなりそう♪≫


 まだ人に姿を見せたことのないそれは、不敵な笑みを浮かべて姿を消した。





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明日からはまた大体時間通りに更新できるよういたしますので、よろしくお願いします!

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