第15話 遠征 in 『魔境群馬』ー3 ロリ巨乳黒髪少女『ちい子』

 「あたしは『ちい子』! あんたと同じダンジョン配信者よ!」


 名前を聞き、改めて容姿を眺めてみる。


「うーん」


「な、なによっ! じろじろ見ちゃって! えっち!」


 一言で言えば、ロリ。

 ロリ巨乳黒髪少女だ。


 容姿も含めて考えると……ふむ、やっぱり知らない子ですね。


 それならそれでいいか、初対面として接しよう。

 てか、一つ容姿を見て思った。

 ロリだったら問題じゃないか?


「えと、ちい子ちゃん? ここは危ないよ? お兄さんと一緒に──」


「失礼ね! あたしはこう見えて高校生よ! あんたより一つ年上のね!」


「え」


 いやいやいや、冗談でしょ?

 なんなら、ワンチャン小学生ぐらいかと。


 なんて思考は顔に表れていたようで。


「~~~! もー、その顔やめなさいよ! 今までどれだけその目を向けられてきたことかー!」


「あ、ああ、ごめんごめん」


 でも、それが本当ならば一応の納得はいくか。

 高難易度ダンジョンの認可が下りるのは、どれだけ強くても高校生以上だからな。


 そんな属性ましましの彼女にコメントもにぎわう。


《ちい子、まじで配信者じゃん》

《調べたら出て来た》

《ガチで高校生なのかよ》

《見えねえw》

《かわいいなw》

《ちい子いくわ》

《おれも二窓しよっと》


「そっか。じゃあ本当にダンジョン配信者なんだ。すごいね、こんなところにソロで潜るなんて」


「ふーんだ。あんたなんかに褒められたって、全然嬉しくないんだからねっ!」


「え、でも」


《この子ダンジョン仮面好きらしいぞ》

《ダンジョン仮面ガチ勢らしいよ》

《ツンデレですやん》

《ツンデレで草》

《顔赤くなってますよ?》


「って書いてあるけど」


 俺は自分の飛行型カメラに流れるコメント欄を指して、ちい子をじっと見る。


「~~~! ち、違うわよーっ!」


「ふーん」


 彼女のそんな態度に、なんだか意地悪をしたくなってしまう。

 ちょっとからかってみるか。


「そっかあ。じゃあここでお別れだね。そちらも良い探索を」


「え、ちょっと……」


 俺が背を向けると、ちい子は口をつんと尖らせて、しょんぼりしてしまった。


「……」


 えぇ、わっかりやすぅ。

 めちゃくちゃ残念そうじゃん。


 ちょっといじわるする気持ちで言ってみたけど、なんだか予想以上の落ち込みようで申し訳なくすら思えてきた。

 この辺でやめておくか。


「じゃあ一緒に行こっか」


「ふわあ……!」


「ふふっ」


 一気に晴れたような顔を見せたちい子に、思わず微笑ましくなってしまう。


「な、なによぅ! 一緒に行ってあげるんだから感謝しなさいよね!」


「わかったよ~」


「その幼い子を見るような顔やめなさい! あたしが年上って言ってるでしょ! もー!」


 こうして俺は、謎のダンジョン配信者ちい子と共に探索をすることに。


 情報によると、彼女もこの浅間山ダンジョンをソロで潜るほどの実力はあるようなので、攻略としても得られるものがあるだろう。


 だけどこの出会いは、ただ一緒に探索をするだけでは終わらない。

 この時はまだ知る由もないことだが──。







<三人称視点>



 緋色とちい子は魔物を倒しながら、時々話も混じえてダンジョンを進む。

 二人の探索速度により、気がつけば攻略を予定していた最後の層・・・・まで辿り着いていた。


 その中で、緋色はいくつか気づいた事がある。


 まず、ちい子は“脳筋”だということ。


「やああっ!」


「ゴアアァァッ……!」


 硬い防御力で有名なゴーレム種。

 その上位種族にあたる【ハガネゴーレム】をいとも容易たやすく破壊するちい子。


 彼女が使うのは『アックス』。

 つまり“斧”だ。


 それもかなり巨大な・・・斧である。

 身長150cmないぐらいのちい子と同じぐらい、もしかしたらそれより大きいぐらいの斧をぶんぶんと振り回す。


(どんだけ筋力を上げる魔石を取り込んだら、そうなるんだ……)


 緋色ですら、若干引いたような目でちい子を見ていた。

 まさにパワー、パワーがあればなんでも出来ると言わんばかりの脳筋である。


 だが同時に、


(ちい子の配信が伸びないのはそのせいかもな)


 それが原因であろうことも感じ取っていた。

 ちい子の配信はあまりにも非現実的すぎるのだ。


 配信関係の技術が向上している今、こんな映像を見せられてもドッキリかなんかに見えてしまう。


 加えて、彼女の配信は解説や楽しさの欠片もないただの暴力映像だ。

 彼女の性格の可愛さに気づいて見にきてくれる者もいるが、やはり大衆向けではなかったよう。


 それと同時に、緋色はあの作戦・・・・の成果を実感していた。


(『魅せプ作戦』ってそれなりに効果があったのかもなあ)


 現在の緋色の配信の視聴者数は25万人。


 必殺技シリーズを叫んでいたおかげ(?)で、攻略を見にきてくれる探索者だけでなく、ただ配信を楽しんでくれる圧倒的多数のエンジョイ勢が離れず見てくれている証拠だった。


 そうして、ちい子を観察しているところに、


「グオオッ!」


「お」


 緋色の方にも魔物が寄って来ていた。


 寄ってきたのは【ダークネスベア】。

 緋色がこのダンジョンで最初に相手をしたダークベアの亜種にあたる魔物だ。


「──ッつあ!」


 それでも攻略方法は同じ。

 配信開始直後に見せた正攻法・・・で、緋色は見事に撃退した。


《おおおお!》

《お見事》

《見応えあるわ》

《ほんと飽きない》

《そうすれば安全なのか》

《なんとなく分かってきた》


「よし」


 視聴者さんに伝わっていることを確認する緋色。

 ちい子と探索を始めたが、攻略配信の方もとても順調だった。


 しかし、


「あんた!」


「ん」


 突然ちい子が声を上げる。

 相変わらず全く怖くはないが、緋色はちい子が何やら怒っているらしいことを感じ取る。


「どうしたの?」


「何よ! その体たらくはっ!」


「?」

 

 彼女の言う事に緋色は首をかしげる。


「あたしの知ってるダンジョン仮面はね! もっと魔物を瞬殺していくような、そんなすごいやつなんだから!」


「……あー」


(なるほど)


 今までの情報を繋ぎ合わせて、緋色はなんとなくちい子が言いたい事を理解した。


 ちい子は、緋色が正攻法で倒すという面倒な戦い方をするのが嫌だったのだ。

 それは、“瞬殺しゅんさつちゅう”とでも呼べるような、彼女の瞬殺にこだわる戦い方にある。


 さらに言えばコメント欄にもあった通り、ちい子は“ダンジョン仮面のガチ勢”。

 つまりゴリッゴリのファンだった。


 だがちい子がファンになったのは、ダンジョン仮面が有名になりきる前の謎の存在であった時。

 つまり、最強であるというダンジョン仮面の噂を信じて、盲目的にファンになった。


 だからこうして、緋色が分かりやすく正攻法で立ち回ったり、訳の分からない必殺技を叫びながらエンジョイ勢を楽しませて戦う緋色が嫌だったのだ。


 自分の好きだったダンジョン仮面はどこにいってしまったのか。

 ガチ勢過ぎるがゆえに、ちい子はそんな気持ちになってしまっていた。


 さらに言えば、ちい子は脳筋。

 緋色が分かりやすく倒し方を伝えるための意思を汲み取れず、まるで遊んでいるようにしか見えていなかったのだ。

 

(だから最初からなんとなく当たりが強かったのかあ。いや、元の性格なのかもしれないけど)

 

 状況を理解して、緋色は思った。


(悪い子ではないんだよなあ……)

 

 だからこそ余計に困る。

 そして、事態は変な方向へ進む。


「ダンジョン仮面! あたしと戦いなさい!」


「……ん?」


 ちい子は、大きな斧をいきなり構える。

 今すぐにでも向かってくると言わんばかりに。


「ちょ! 冗談でしょ!?」


「本気よ! やあああっ!」


 ガキィンッ……!


 二人がどんな魔物と対峙たいじしても鳴らなかったような、甲高い金属音が辺りに響き渡る。

 それほどに、ちい子の攻撃は重い一撃だった。


「くっ!」


 緋色は斧を受け流すように剣をスライドさせ、横にかわす。


「やっぱりそんなもんなのね! ダンジョン仮面、あなたはお遊びばっかりでおとろえたんだわ!」


「……」


 緋色は挑発には乗らない。

 たしかに重い一撃ではあるが、その分それなりのがあった。


 緋色は反撃しようと思えばいくらでもできたが、ここはダンジョン内。

 それも浅間山という高難易度のダンジョン内だ。


 だから彼女を傷付けるわけにはいかない。

 緋色が傷を負わせてしまえば、帰りが大変な事になるのは目に見えているから。


 だが、


「やあああっ!」


 ちい子はまるで目に見えていなかった。

 それはもう、ただ単純に自分の不満を緋色にぶつけているようにしか見えない。


(この子、脳筋過ぎる! 何も考えてない!)


「どうしたのよ、反撃してきなさいよ! それとも反撃すら出来ないって言うの!」


「やめろちい子! まずは落ち着け!」


「落ち着いてなんて、いられないわよ!」


「──! ぐぅっ!」


 斧をぶん回して横払い。

 その重すぎる一撃を、緋色は二本のブレードを交差することでなんとか受け止める。

 それでも緋色は多少ふっとばされてしまった。

 

「やっぱり、大したことないわ。あたしの好きなダンジョン仮面はもういないのね」


「……」


 重い一撃を持つ相手には、躱して反撃するのがセオリー。

 だけど、緋色は反撃をしない。

 結果、攻撃を受け止めるだけでどんどんと不利になってしまう。


(これは、どうするべきか……)


 緋色が思考を巡らせる。

 だがその時、


「!」


 すうっとちい子の後ろに現れたのは【シニガミゴースト】。

 浮遊していることから足音が全くなく、気がつけば首を刈り取られていると言われる凶悪な魔物だ。


「ほら。さっさと起き上が──」


「ちい子!」


 キィンッ!

 

 間一髪。

 死神の鎌のような凶器が、ちい子の首を襲う前に緋色がそれを受け止めた。


 ちい子の首元までは僅か数センチ。

 緋色の反応速度がなければ確実に命はなかった。


「……ッ! はっや……!」


 ちい子は戦慄せんりつした。

 ただそれは、シニガミゴーストに襲われそうになったことではない。


(まるで反応ができなかった……!)


 緋色の速度に対してだ。

 二人は数メートル離れていたにもかかわらず、ちい子が反応出来たのは金属音が鳴ってから。


 もはや彼女の目は緋色のことしか捉えていない。


「──はあッ!」

 

 グシャリ。

 

 もはや正攻法どころではなかった緋色は、ちい子を襲ってきた魔物を一瞬にしてほふった。


「きゃあああ!」


「!?」


 それを見たちい子は叫び声を上げる。

 恐怖の叫び声ではなく、完全に歓喜の叫び声だ。


 だが、何が何だか分からない緋色は、とりあえず警戒を続ける。

 ゴースト系は『一匹見えれば複数の警戒をしなければならない』からだ。


「──! そこ!」


「ホロォッ……!」


 気配を察知した緋色がブレードを一本投げ、見事にシニガミゴーストの胸に突き刺さる。

 ブレードを投げたのは左腕にちい子を抱えているからだ。


 さらに、


「見えてるよ」


「ホロッ!?」


 後ろからの気配も感じ取っていた緋色は、もう一本のブレードを地面から咄嗟とっさに取り上げて鎌を受け止める。

 と同時に、後ろ向きで背後のそれを斬り刻んだ。


「はぅあっ……!」


 その様子は、まさにダンジョン仮面。

 ちい子が憧れたダンジョン仮面そのものだった。


(これよこれ! これがダンジョン仮面だわ……!)


 ちい子はダンジョン仮面のガチ勢。

 彼が理想の姿じゃない時は批判するが、理想の形に戻った時は誰よりも・・・・肯定する。


「は、はわ、はわわわわ……」


 ちい子は緋色の左腕に抱えられたまま、口をあわあわさせた。


 完全に虜である。

 その証拠に目は完全にほの字(惚れたの意)で、もはやハート型になっている。


「おいちい子! しっかりしろ!」


「あぁん。もう……ダメ……好き」


「ちい子!?」


 両手を胸の前で握って倒れていくちい子を、緋色が支える。

 そして確信した。


(ダメだ! もう完全に使い物にならない!)


 夢現ゆめうつつ状態のちい子。

 ここが攻略を予定していた最後の層であったことに、緋色はほっとした。


「ということで。何やらトラブルもありましたが、今日の配信はここまでにしたいと思います。では、また明日の攻略配信をお会いしましょう!」


 緋色はここで終わらせることにした。


 現在の視聴者数は30万人。

 すっかり麻痺しているが、これは相当の数字だ。


 最後の方はごちゃごちゃしたが、それなりに攻略を伝えられたと緋色は手応えを感じていた。

 続きは明日、日曜に持ち越しだ。


《ひやひやしたあ》

《ちい子ちゃん完全に夢の中で草》

《ちい子ちゃんw》

《なんか逆に好感度上がったかもw》

《恋は盲目なんや》

《おつかれ》

《おつー》


 そして、二人は転送装置ポータルより帰路に着く。


 しかし、緋色とちい子とはこれでお別れ──とはならなかった。


 まりんさんに言われた事、緋色がこの『魔境群馬』を選んだ理由にも、彼女は関わってきたからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る