【完結】仮面を被った最強の探索者さん、超人気美少女配信者を助けて身バレしてしまう~正体を隠していたはずが、バズりにバズっていつの間にか日本の未来を託されてました~
第14話 遠征 in 『魔境群馬』ー2 黒歴史再来と謎の少女
第14話 遠征 in 『魔境群馬』ー2 黒歴史再来と謎の少女
目の前に
「──はッ!」
俺はいつものように地面を
だけど密着はせず、まずは横の移動を繰り返して揺さぶる。
「よっ! とっ!」
こいつとは正面からやり合っちゃいけない。
攻撃が少し
……他の探索者なら、の話だけど。
「グゥウッ! グヌッ!」
ダークベアは俺に振り回され、ぶっとい腕をその場でブンブンと振り回す。
破壊力はすごいが、攻撃手段は「殴る」のみ。
その様子に、視聴者の恐怖もすっかり取り除かれたようだ。
《おちょくってる?w》
《遊んでて草》
《やっぱ余裕なのか》
《熊さん意外と大したことないな》
《いやいやフェイントだぞ、素人ども》
俺の動きが余裕そうに見えたらしい。
いやまあ、実際余裕なんだけど。
俺は防御力を上げる魔石もアホほど取り込んでいるので、正直いくつか攻撃をもらっても大丈夫。
倒そうと思えば、まあ一瞬だろう。
けれど、今は“攻略配信”というていでお届けしているので、正攻法というものを見せてあげたい。
だから、
「ほよっ!」
一定の距離で避ける、避ける、──避ける。
《暇持て余してるじゃんw》
《強者の余裕》
《緊張感なしですw》
《YOU さっさとやっちゃいなよ》
《相変わらずで草なんよ》
そして、そんな戦い方に
《なんかかわいそうになってきた》
《いじめないで》
《熊さん;;》
《熊さん逃げて》
ダークベアを応援するコメントまであらわれる。
「応援してるほう間違えてるよ!?」
冗談なのは分かってるけど、さすがにツッコミを入れざるを得ない。
しかも、俺がツッコミを入れたことでコメントはさらに加速。
《コメチラw》
《戦闘中にコメント見るなw》
《集中しろ》
《コメチラしてて草》
《チラっ》
《熊さん眼中になくて草》
コメチラとは、配信者がやりがちな行為のこと。
ゲーム実況なんかの途中にコメントをついつい見てしまい、集中を欠いている状態のことだ。
だって本当に退屈なんだもん!
でも、一応これが正攻法だし!
「グウゥゥアアアッ……!」
「お」
そうしておちょくってる(?)内に、
これを待っていたんだ。
気性が荒いダークベアは怒るとさらに攻撃力が増すが、これは実はチャンス。
攻撃が単調になり、見切りやすくなるからだ。
つまりこいつの倒し方は、
おちょくる → 怒らせる → 近づく → 倒す
これが正攻法なのだ。
「ここ!」
攻撃を
「──はあっ!」
「グウゥアッ……!」
からの、二本のブレードでクロス斬り。
相棒のブレードと俺の攻撃力ならワンパンだ。
《うおおおおお!》
《さすが!》
《どりゃああああ》
《かっけえ!!》
《参考になる!》
《ダークベアひん》
《やっと解放された;;》
「ふぅ」
二本のブレードを
改めて思った。
何かを伝えながら戦うのって案外難しいな。
一度身に付いた戦い方は、自然と体が動いちゃうしなあ。
俺って教師とかは不向きだろうなあ。
そんなことを考えながら、最初の番人を倒した俺は足を進める。
「では、引き続き攻略していきます!」
★
<三人称視点>
時を同じくして、とある
一人の少女が持つスマホから声が聞こえる。
「では、引き続き攻略していきます!」
今、世の中で大人気のダンジョン仮面の声だ。
『高難易度ダンジョン攻略配信』という題名の配信は、すでに15万人を超える視聴者数がいる。
ダンジョン配信とはいえ、これは破格の数字だ。
いかにダンジョン仮面の人気が爆発しているかがうかがえる。
「むうぅ……」
その配信をスマホから眺める少女。
「なーにが高難易度ダンジョンよ! 浅間山ぐらい楽勝じゃない!」
ぷりぷりしながら少女は
その様子に彼女
《自分の配信中にダンジョン仮面見るなw》
《さすがガチ勢》
《ダンジョン仮面大好きだもんなあ》
「なっ! ち、ちがうんだからねっ! そんなことないもん!」
少女はまたぷっくりと頬を膨らませる。
ただ、コメントはそれほど多くない。
それもそのはず、現在の視聴者数は300人だ。
そんな彼女に、
「グウゥア!!」
「む」
唐突に襲い掛かるのはダークベア。
先ほどまで、ダンジョン仮面こと緋色が戦っていた熊の魔物がここにも現れたのだ。
しかし、戦闘はほんの一瞬。
「ふーんだ」
グシャ。
少女は全く意に介さず、ダークベアを瞬殺する。
「この程度に苦戦するダンジョン仮面なんて、たかが知れてるんだからっ!」
そうして、またぷりぷりとした態度でダンジョン仮面の配信を見る。
ダークベアが出るこのダンジョン。
彼女が潜っているのもまた、浅間山ダンジョンだったのだ。
★
<緋色視点>
「てやっ!」
俺の斬撃で目の前の魔物は崩れ去る。
引き続き、どうやって倒せばいいか、それをなるべく伝わりやすいように俺は立ち回っていた。
《参考になります》
《なるほどな》
《これの下位種族なら倒せそう》
《まるで教科書だな》
《お手本プレイ》
うんうん、それなりに伝わっている気がする!
こういったコメントをくれるのは探索者仲間なのかな?
なんて考えると、仲間意識が芽生えて嬉しい。
だけど一方で、配信が変な方向になってきているのも感じていた。
《あの必殺技は?》
《ダサい必殺技くれ!》
《『スピニングラッシュ』が恋しい;;》
《くそダサネーミングが聞きたいよ》
《中二病シリーズください》
《あれなしでは生きていけない》
「……」
美玖とのコラボ配信で披露した『魅せプ作戦』の為の必殺技。
あの時は自分でかっこいいと思っていたし、それで実際に強さが伝わったような気もしている。
だがそれは、すでに過去の話だ。
あとで見返した時、正直思った。
だせえ! そして恥ずかしい!
客観的に見た必殺技シリーズは、まさに中二病そのもの。
俺は自室で一人、のたうち回りながらコラボ配信を見返したものだ。
そんな、俺の中ではすでぬ黒歴史と化した必殺技シリーズが、ここにきて蒸し返され始めている。
俺は
「いや、あの、必殺技はですね……」
両手を前になんとか言い訳をしようとする。
だがそこに、
「「「グルルルル……」」」
タイミングを合わせたかのように集まってくる魔物たち。
【デーモンウルフ】たちだ。
「うそでしょ……」
俺は血の気が引いた。
俺が『魅せプ作戦』で最初に披露した技『スピニングラッシュ』。
それは、目の前にいるデーモンウルフの下位種族ダークウルフの集団を相手に放ったものだ。
理由は『スピニングラッシュ』が最適解だから。
それを示し合わせたかのような魔物の出現。
つまり、俺が黒歴史を披露する舞台が整った。
当然、詳しい者はそれに気づく。
《あれデーモンウルフじゃね?》
《ダークウルフの上位互換?》
《それって美玖ちゃんの時の?》
《スピニングラッシュで倒した奴の上位種族だよ》
そして、情報は一般の視聴者、知らなかった視聴者へ
《てことは!?》
《スピニングラッシュの出番きたああ》
《くそダサ必殺技集が出るぞ!》
《ナイスううううww》
《魔物空気読めて草》
《くそダサ必殺技の礎となってくれ》
「……!」
そのコメント欄の湧きように、俺は思わず顔を引きずった。
あれ、またやるの……?
《声に出して欲しい》
《わかる》
《だって必殺技だもんな》
《そう、一の型》
《まさか伏線だったとは》
《スピニングラッシュうおおお》
そして、
「グルォッ!!」
コメント欄に夢中になっている俺にデーモンウルフが襲い掛かってくる。
「──!」
それ対応するよう、体が自然に動いてしまう。
今まで幾度となく繰り返してきた動きだからだ。
気が付けば、デーモンウルフの集団のド真ん中。
や、やるしかないのか!
俺はまるで告白する時のような胸のむずむずを感じながら、声に出した。
もう、どうにもでもなれ!
「ス、スピニング、ラーッシュ!」
恥ずかしさから弱々しく響いた声に反して、俺の体は高速で回った。
まるで頭と体がそれぞれ別で動いているかのようだ。
その切れ味を証明するように、周りにはデーモンウルフの首が落ちた。
集団が一掃されたのだ。
《きたあああああ》
《ダセええええw》
《ダサすぎるwww》
《このダサさが癖になる》
《生きててよかった;;》
《これを見に来たんよ》
《中二病きたあああ》
「……くうっ!」
もう、喜んでいいのか分からないコメント欄だ。
俺にまた一つ、黒歴史が追加されてしまったか。
それでも、対ウルフ系への最適解である『スピニングラッシュ』が分かりやすく伝わったと思えば幾分か心も晴れた。
恥ずかしすぎる……。
俺は少し重い足取りで、奥へと進んで行った。
「お」
デーモンウルフの集団を狩った後も歩を進め、順調に攻略配信をしていく。
だけど、不満はある。
《『瞬刃』の中二感はえぐい》
《ちゃんと理に適ってるのがおもろい》
《必殺技たくさん見れて幸せです》
《ダサくて助かる》
《ちゃんと全力でやってくれの嬉しい》
「絶対煽りじゃないですかー!」
《ソ、ソンナコトナイヨ》
《かっこいいぞー(棒)》
《顔赤くてかわいい》
《お年頃なんだよね》
《SNSで拡散しました》
「~~~!!」
俺は『スピニングラッシュ』以降も、必殺技を披露するハメになっていたのだ。
だって、示し合わせたかのように、一度見せた必殺技が最適解の魔物が次々に出てくるんだもん!
これは政府から依頼を受けての攻略配信なわけで、間違った情報を伝えるわけにはいかない。
だから恥ずかしいけど、俺は必殺技をめちゃくちゃ披露することになった。
必殺技名を叫ばないと、それはそれで文句が出そうだったから、もうやるしかない。
なんかもう、裸で躍ってるぐらいの気分だった。
黒歴史で殴られるってこういうことなのか、と身を以て実感したのだ。
けどまあ、
《次はどんなのが来るかな》
《ワクワク♪o(・ω・o)(o・ω・)oワクワク♪》
《ガチ攻略ではあるけど楽しい》
《見てて飽きない》
《ダンジョン仮面スキ》
《なんやかんやノリいいよな》
おかげで配信は大いに盛り上がっている。
視聴者数は最高記録数字を大きく超え、20万人。
複雑な気分だけど、かろうじてプラスに思えた。
そうした中、
「ん?」
もうそろそろ『表層』を抜けるというところで、何やら戦闘音が聞こえる。
誰かいるのか?
この浅間山ダンジョンに?
俺は緩めていた表情を切り替え、少し警戒気味に奥を覗く。
「!」
見えたのは、
「女の子……?」
まるで予想外の人。
女の
中学生、下手したら小学生……いや、それはありえないだろ。
なんて考えていると、女の子が「あ!」と声を上げた。
「そこにいるでしょ! ダンジョン仮面!」
「!?」
「出てきなさい!」
なんで位置がバレたんだ?
俺自身も飛行型カメラも、隠して見えなかったはず。
だけどその疑問の答えは、彼女の手元を見た瞬間に出た。
「……」
めっちゃ俺の配信見てるぅぅぅ。
ただの俺の視聴者さんじゃん。
そりゃリアルタイムで位置がわかるわけだ。
「よくものうのうとあたしの前に現れたわねっ!」
自分から「出てきなさい」と言ったのに。
そんな
俺はなんとなく期待してコメント欄を見た。
《ロリだ》
《ロリ巨乳だ》
《ロリ巨乳黒髪少女じゃん》
《金髪だったら完璧だった》
《いや黒髪良いだろ》
《俺も黒髪派》
「……」
やはり。
見事に俺の気持ちが代弁されていた。
「君、名前は? どうしてこんなところに?」
「……!」
俺が尋ねた瞬間、彼女は目を見開いた。
そして、
「まあ、失礼っ! あたしを知らないなんてっ!」
頬を膨らませてぷりぷりし始めた。
だけど容姿のせいか、まったく怖くはない。
むしろ小さな女の子が必死に怒っている様でかわいくすら思える。
ふん、としながら彼女は両手を腰に当てて言う。
「あたしは『ちい子』! あんたと同じダンジョン配信者よ!」
やっぱり知らない子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます