第9話 本多美玖とコラボ配信ー終 そして【超神回】となる

<三人称視点>


 「さて、どいつから相手しようか」


 ダンジョン仮面、改め緋色が二本のブレードを構えた。

 と同時に、配信では完全に勝ち確BGMが流れたかのような盛り上がりを見せる。


《頼む!!》

《美玖ちゃんを守ってー!》

《いけえダンジョン仮面!!》

《エンディング流れてます》

《主人公過ぎる》

《うぅ……最近涙もろくて》

《かっけええええ》


 その様子に、内面はただの男子高校生緋色はもうウキウキだ。


「じゃあちょっと、本気見せちゃおっかなー」


 肩をグルグル回しながら、少しばかり本気を出すことを決めた。

 ──それからは、早かった。





「……うそ」


 目の前の光景に、驚きのあまり瞬きさえ出来ないでいる美玖。


「ふー。弱かったねー」


 満面の笑みと共に、手の甲で額の汗をぬぐっている緋色。

 その後方にあるのは、魔物の死体のみ。


 わずか数分だった。

 その短時間で、緋色はコモドティラノをはじめとする美玖を追いかけ回していた魔物を駆逐くちくしたのだ。


「これが、ダンジョン仮面……」


 恐竜から幽霊、宙を泳ぐさめに鬼など、実に奇々怪々な魔物が跋扈ばっこする恐怖の領域『中層』。

 その『中層』において、一番強いのは間違いなく緋色という少年だった。


「……」


 そして探索者である美玖は理解した。

 今まで必殺技風に振る舞っていたのは、全てただの遊び。

 エンターテインメントに過ぎないと。


 その証拠に、緋色が行ったのは一方的な蹂躙じゅうりん

 凶悪な魔物の数々が、未だ笑顔を保つ少年に一匹残らず倒されたのだ。


「大丈夫? 本多さん」


「……!」


 そして差し伸べられた手。

 その手を取って、やっと美玖は安堵あんどした。


「ダンジョン仮面!」


「──!!」


(まずい!)


 抱きついてきそうになった美玖を、緋色がギリギリ止める・・・

 こんなところを見られれば嫉妬の念で叩かれまくる、そう直感した緋色のファインプレーだ。


 緋色は焦ったような表情で小声で伝えた。


「ちょ、配信! 配信ついてるから!」


「そ、そうだった!」


 美玖はハッと気を取り戻してカメラの方を振り返る。

 さらに大げさに振る舞った。


「えへへ、ちょっと転んじゃった」


「は、ははっ。本多さんはドジだなあ……」


 間を持たせず緋色も乗っかる。

 

《美玖ちゃん大変だったもんね》

《よく逃げ切ったよ》

《ゆっくり休んで》

《本当に良かった》

《ダンジョン仮面かっこよかったけど、抱いてたら普通に叩く》

《俺たちの美玖ちゃんをありがとう》


(セ、セーフっ!)


 後半部分のコメント欄を眺めながら、そう感じてしまう緋色だった。

 

 そして、緋色は「あ」と言いながら上方を見上げる。

 最後に一つ、思い出したのだ。


「もういいよ。ありがとな」


「……?」


 その発言には美玖を始め、配信のコメント欄も大いに混乱する。


《?》

《誰に言ってんだ?》

《???》

《どういうこと?》

《おかしくなっちゃった?》


 それもそのはず、緋色が声をかけたのは“ガチティラノ”。

 遠くから壁を破壊して美玖の元に駆けつけてくれた魔物だったからだ。


「グル……」


「いいから。今日は帰りな」


「グルル……」


 ガチティラノはどこか寂しそうな顔をしながら破壊してきた道を戻っていく。

 『中層』の頂点に君臨する魔物らしからぬ、どこか哀愁ただよう姿だ。


 ぽかーんとその様子を眺めていた美玖だったが、ようやく我に返る。


「えと、ダンジョン仮面? あれってガチティラノだよね……?」


 配信を見ている誰もが思っているであろう疑問を、美玖がぶつけた。

 『中層』の王をあごで使う人間なんて聞いたことがない。


「そうだよ。俺が発見して魔物図鑑に登録申請した魔物で、俺のペット」


「ぺ、ペット??」


「うんそう」


 緋色は純粋無垢な目でただ頷く。


 落とし穴の分かれ道で緋色が“一番右の道を選んだ理由”、それがこのガチティラノだった。


 緋色は、本多さんが落ちてしまった道は分からなかった。

 その為、落ちれば一番危険であろうガチティラノの元へ向かったのだ。

 一番危険かつ、いなければいないで移動用としても使えるこのペットの元に。


 その様子に、


「……ぷっ。ふふっ、あははっ!」


 美玖はもう笑うしかなかった。


 次元が違い過ぎる発言に笑いが込み上げてきたのだ。

 美玖の頭は、どこか理解することを諦めたようだった。 


 そしてそれは、コメント欄も同じだったよう。


《次元違いすぎるわww》

《なんか笑えてきたwww》

《シュールすぎて草》

《こいつやっぱ本物だろ》

《恐ろしい子もいたもんだ》

《常人には理解できる領域じゃないw》

《私も安心して笑っちゃった笑》


 さらには、


《これで偽物とは思えねーわ》

《ガチティラノだってダンジョン仮面が発見した魔物だしな》

《まさかそれに乗ってくるとは思わんけどw》

《疑って悪かった》

《( ゚д゚)》

《まじで高校生だったとは》

《最初から信じてたぞ!》


 ずらりと書き込まれたのは、緋色が「本物のダンジョン仮面である」と認めたようなコメント。


「みんなぁ!」


 ぱあっと晴れたのは顔を見せる緋色。

 今日の目的を達成したような気がして一気に嬉しくなったのだ。


 そして、美玖もほっと安心した表情を見せる。


「うんうん。私は最初からこうなるって信じてたよ」


「本多さん……! 本当にありがとう」


「全然。こちらこそだよ!」


 熱い握手を交わした緋色と美玖。

 彼らを賞賛するようなコメントがざっと流れる。


《感動したぁ》

《感動をありがとう!》

《;;》

《泣いた》

《ありがとう》

《史上最高の神回》

《生きてて良かった》


 現在の同時接続数:530000


 こうして、緋色が本物のダンジョン仮面であることを証明したこの配信は、各所で「超神回」と評され、この後も拡散され続けることになった。

 ただでさえ過度に期待されていたこの配信は、その期待すらも大きく上回る大成功となったのだ。


 そして、緋色が本物のダンジョン仮面という立場が盤石になった後、偽物のダンジョン仮面を名乗っていた者は一人残らず淘汰とうたされた。

 炎上、叩き、通報など様々なネット手段で。


 さらには、同時接続数がどこかで見た事ある数字だったことから、本多美玖と丁寧な口調の悪役のコラボグッズが販売される事にまで発展したという。


 





<緋色視点>


 本多さんとの超神回配信の次の日、夕方。

 学校でもメディアでも賞賛される声は止まらず、今日は出歩くのにも随分と苦労した。


 SNSを開けば、朝からどこもかしこもコラボ配信の話題をしていて、通学をしようとすれば声を掛けられまくった。


 さらに、学校には色々と殺到する事態が発生。

 結果、収拾がつかなくて臨時休校となった為、クラスLINEではそれについても感謝されるという謎の展開にまで発展した。


 そして何より、俺が本物のダンジョン仮面だと証明できて、今までダンジョン関連の依頼・案件をくれていた企業とのコネクションは完全に回復。


 それどころか、昨日の今日で以前の数倍の案件が来ていると、まりんさんから連絡があったほどだ。


 彼女は「財布が潤って嬉しい」なんて下品な笑いを浮かべていたけど。

 まりんさんは俺(ダンジョン仮面)の社長的扱いなので、報酬は彼女の懐にも入るようになっているからだ。


 そうして、俺が今いるのがまりんさんのバーの会議室だ。


「お見事だったわね」


「まあね~」


「随分と良い顔をするようになって。……ふふっ」


「いやいや、まりんさんこそ。……ふっ」


「「あっはっはっは!」」


 まりんさんのニヤけ顔にこらえきれず、つい笑ってしまった。

 と同時にまりんさんも噴き出したので、俺も似たようなニヤけ顔になってしまっていたのだろう。


「ひー。……それで、わざわざ呼び出したのは?」


「あら、そうだったわね。依頼がめちゃんこ来てるのは言ったわよね?」


「うん」


 ちょっと古臭い表現だったのは黙っておこう。


「その中でも一件、特に面白いのがあったのよ」


 そう言いながら、まりんさんはその案件についての資料を机の上に出す。

 そこに書かれていたのは、


「なるほど」


 これは確かに面白い。

 素直にそう思うような案件だった。





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むらくも航です。


いつもこの作品を応援していただき、ありがとうございます!


なんとなくノリと勢いで始めた今作なのですが、予想以上の反響を頂いて私が一番驚いております!笑


面白いと思ってもらえましたら、フォローや★を頂けるとすごくすごく嬉しいです!!

モチベーションもめちゃくちゃ上がります!笑


これからも精一杯更新していきますので、今後とも応援よろしくお願いします!

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