愛さん
光野彼方
第1話
◎愛さん
僕は近所付き合いをちゃんとしてる方だと思う。
特に隣の家の井口さんやお向かいの今井さん、斜向かいのアパートの田村さんには毎日挨拶してる気がする。
今日も夜の仕事を終えて昼頃に最寄駅に到着した僕は真夏に暑い道を通るのは嫌だったため途中で少し大きな公園があるのでそこを横切った。その公園を通れば木々が木陰を作ってるので多少は涼しい。
するとベンチに知った顔がいた。お隣に住んでいる井口さんちのおばあちゃんと愛さんだ。凛とした姿で愛さんはベンチに掛けていた。
「愛さん」僕がそう言うと愛さんは小走りで寄ってきた。小さな彼女は僕の近くにきて見つめてくる。かわいい。とても小さいが知的な彼女に僕は敬意を表して『さん』付けで呼ばせてもらってる。少し愛さんを抱き上げる。本当にかわいい。
僕とのコミュニケーションを終えると愛さんはまたおばあちゃんの横に戻り、スッとベンチに掛ける。おばあちゃんも愛さんが大好きでずっと一緒に座っていた。
僕は疲れていたので先に帰ることにした。家は隣なのだが。
ーーーーー
ある日、道の端っこに愛さんが1人ぽつんと佇んでいた。
「どうしたの?今日はおばあちゃんと一緒じゃないの?」と僕は愛さんに話しかけた。愛さんはトコトコと寄ってくると少し僕に身体をくっつけて遊んで欲しそうにしている。僕は小さな彼女を持ち上げて遊んであげた。少しすると近くの家からおばあちゃんが出てきた。どうやら外で待っていただけなようだ。愛さんとおばあちゃんはそのままスーパーへ買い物に行った。
ーーーーー
愛さんは滅多に声を発しない。
でも、僕が帰ってくると隣の家の二階から
おかえりなさーいと大きな声を上げる。そう言ってると思う。僕にはそう聞こえる。
知的で優しくておばあちゃんのペースに付き合う彼女。あの子の名前は『愛』室内飼いされているとってもお利口なトイプードルだ。
今日も彼女はワンワンと
『お隣さんおかえりなさい』と言ってくれる。
愛さん 光野彼方 @morikozue
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