第7話 怪物を倒すには……

「止めろぉっ!!」

「ギャウッ!?」



警官に跨るゴブリンに対してリトは棍棒で殴りつけると、ゴブリンは派手に吹き飛ぶ。すぐにリトは警官の様子を伺うが、既に事切れていた。自分が助けるのが遅れたために彼を死なせたと考えたリトは拳を地面にめり込ませる。



「くそっ、もっと早く動いていれば……」

「ギィイッ……!!」



助けに行くのが遅れた事にリトは後悔するが、殴り飛ばされたゴブリンが起き上がる。それを見たリトはゴブリンの身体に弾痕があることに気が付き、先ほど警官が撃ち込んだ拳銃の弾丸が次々とゴブリンの身体から落ちる。


拳銃の弾丸をまともに受けたにも関わらず、ゴブリンの皮膚を突き破る事すらできていなかった。その事からリトはゴブリンを倒すには日本の警察が扱う拳銃程度の武器では通じないと悟り、やはりゴブリンを倒すには奴等が持っている武器を使用するのが一番だと判断した。



「くたばれっ!!」

「ギャアアッ!?」



病院に存在したゴブリンから奪った棍棒を利用してリトは殴りつけると、ゴブリンは今度こそ絶命した。首が半回転した状態でゴブリンは地面に倒れると、それを見たリトは若干興奮した様子でゴブリンを見下ろす。



「こいつらには銃は効かないのか……せいぜい怯ませる程度か」



ゴブリンの皮膚は異様なまでに硬く、拳銃の弾丸すらもまともに受けても身体を貫かれる事はない。それでも衝撃は受ければ怯み、警官が拳銃を撃ち込んだ際はゴブリンも一時的に動けなくなるほどの損傷は与えていた。


警官が落とした拳銃をリトは拾い上げると、弾丸は全て使い切っていた。銃さえあれば何か役立つかと思ったが、先ほどの光景を思い出すとゴブリンに一番に有効的な損傷を与えられるのは彼の持っている棍棒だけである。



「……ごめんなさい」



助けが遅れたせいでリトは警官を死なせた事に罪悪感を抱き、公園を去る前に警官に頭を下げた。そして彼は今度はゴブリンに襲われている人間を見つけたら助け出す事を誓い、自転車に乗り込んで場所を移動した――






――公園を離れてからしばらく時間が経過すると、人通りの多い場所に行けば誰かに会えるかと思ったのだが、何処に移動しても存在するのは人間の死体だけだった。



「酷い……なんて有様だ」



リトは道路に散らばっている人間の死体を確認し、今の所は生きている人間は一人も見つかっていない。想像以上にゴブリンはこの街に現れているらしく、自転車で移動中もゴブリンの姿をちらほらと見かけた。


ゴブリンがどうして人を襲うのかは不明だが、死体の殆どは食い散らかされた跡が残っており、どうやらゴブリンは人間の事を餌として認識しているらしい。病院を襲ったゴブリンも人間の死体に喰らいついていた事を思い出し、その事にリトは憤りを感じる。



「奴等にとっては人間はただの飯か……ふざけやがってっ!!」



怒りを抑えきれずにリトは近くにある電柱を蹴りつけると、電柱は激しく揺れ動いた。ゴブリンを倒してからリトは超人的な身体能力を手に入れ、しかも心なしかゴブリンを倒せば倒す程に力が強まっていく感覚を覚える。



「……俺の身体に何が起きてるんだ?」



道中で何度かリトはゴブリンと交戦し、既に10体近くのゴブリンを始末した。そのせいなのか今では病院を出たばかりの頃よりも力が高まっていた。



「まさかゲームみたいに化物を倒し続けて強くなった……って、馬鹿げてるな。だけど、それならどうして……」



リトは自分の異様なまでの強さに戸惑いを隠せず、信じられない事だが本当に自分は怪物を倒して行く事でRPGゲームのように敵を倒してレベルが上げて強くなるような感覚を抱く。


これまでは空想上の生物と信じられていたドラゴンやゴブリンが現実に現れるだけではなく、それらを倒すとゲームのように力が強くなるなどあまりにも馬鹿げていた。しかし、現実にリトは強くなっており、今となってはゴブリン程度は敵ではない。



「何がどうなってるんだ……くそっ!!」



電柱に目掛けてリトは拳を叩きつけると、コンクリート製の電柱に罅割れが生じ、それを見たリトは拳を確認する。強く叩き込んだにも関わらずに彼の拳は血を流すどころか腫れてすらいなかった。先ほど拳銃を撃ち込まれても怪我さえしなかったゴブリンの皮膚のように今のリトの肉体は人間離れした力と頑強さを誇る。



「これじゃあ、まるで俺の方が化物じゃないか……」



自分の身体の異変にリトは付いて行けず、頭がおかしくなりそうだった。だが、今は考えていても仕方がなく、一刻も早く生きている人間と合流したいと考えたリトは周囲を見渡す。



「あそこは……コンビニか。食料が手に入るかもしれないし、入ってみるか」



コンビニを発見したリトは腹を抑え、無性に空腹感を覚えた。よくよく考えればリトは目覚めてから水と食料を口にしていない事を思い出し、コンビニへと向かう。


既にコンビニはゴブリンに襲われた痕跡があり、窓ガラスが割れて店の商品も荒らされていた。リトは警戒しながらコンビニの中に入り込み、とりあえずは水分補給のためにミネラルウォーターを取り出す。



「お金は……払う必要はなさそうだな」



コンビニの中には誰一人おらず、既にリト以外の人間も食料品を漁って出て行った痕跡が残っていた。リトは残っていた水と食料を食べると、ひとまずは体力補給を行う。



「ふうっ……これからどうすればいいんだ」



リトは人に会えば今現在の状況を把握できると思ったが、何処を移動しても生きている人間は殆ど見かけない。このまま当てもなく彷徨い続けても人に会えるのか分からず、途方に暮れているとリトはコンビニの奥から音が聞こえた。



「誰だ!?」



店の奥から物音を耳にしたリトは慌てて棍棒を手にすると、奥から人間の声が聞えてきた。



「あ、あの……貴方、悪い人じゃないですか?」

「は?」



店の奥から現れたのはリトと同じぐらいの年齢と思われる少女であり、学生服を着ている事から高校生だと思われる。外見は可愛らしく、リトの幼馴染の「小春」と顔立ちも似ていた。



「小春……」

「え?」

「あ、いや、何でもない……」



小春の面影がある少女を見てリトは反射的に彼女の名前を口にしてしまったが、すぐに首を振った。小春はもう既に亡くなっており、生きているはずがない。しかし、小春と似ている少女を見てリトは胸が苦しくなる。


いろいろとあったせいでリトは幼馴染達が死んでも悲しみに浸る余裕もなく、それなのに小春と似ている顔の女の子を見つけてしまい、今にも泣きたい気持ちを抱く。



「あ、あの……大丈夫?気分が悪いの?」

「いや……なんでもないよ」



口調まで小春と似ているせいでリトは顔を背け、涙を流しそうになるのを堪える。そんな彼に少女は不思議に思いながらも、恐る恐る尋ねてきた。



「あの……君は私の事を知らないの?」

「……どういう意味?」

「えっと……ほ、ほら。そこにある雑誌……」

「雑誌?」



少女の言葉にリトはコンビニに置かれている雑誌に気が付き、彼女が指で示した雑誌を確認する。すると、雑誌の表紙にはグラビアアイドルが描かれており、リトも何度かテレビで見た事がある有名なアイドルだった。



「ああ、この娘……確か現役高校生のグラビアアイドルだっけ?でも、それがどうし……ん!?この顔、まさか!?」

「え、えへへ……初めまして、ハルナです」



雑誌の表紙のアイドルとリトの前に現れた少女は全く同じ顔をしており、今まで気づかなかったがリトが出会った相手は「ハルナ」という名前の現役女子高生のグラビアアイドルだった。

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