第8話 助けた相手は現役アイドル
「思い出した、確かにテレビで何度か見かけた事がある……でも、どうしてこんな所に?」
「えっと……実は私、この近くのマンションに暮らしてるの。だけど、いきなり怪物が家に入ってきて……ここまで逃げてきたの」
「なるほど、そういう事だったのか……」
ハルナの話を聞いてリトは納得したが、同時に疑問を抱いた。家から逃げ出したまでは分かったがどうしてコンビニ隠れていたのかを尋ねる。
「ずっとここに一人で隠れていたの?」
「ううん、最初は他にも人がいたよ。でも、私が眠っている間に何処かへ行っちゃったみたい」
「眠ってた?こんな時に?」
「う、うん……実はね、私を助けてくれた人が居たの。だけど、その人達がくれた飲み物を飲んだ途端に眠くなっちゃって……」
「えっ!?」
話を聞いたリトは驚愕の表情を浮かべ、ハルナを助けた者達は彼女をコンビニに匿った後に姿を消したらしい。詳しく話を聞こうと思ったリトは店の奥に移動する。
コンビニの奥は従業員しか入れない休憩室があり、そこにはハルナが飲んだと思われる飲み物とペットボトルが置かれていた。他にもバックなどがいくつも置かれており、ハルナによれば一緒に逃げてきた人たちの荷物らしい。
「この荷物は?」
「ここまで一緒に逃げてきた人たちの荷物だよ」
「その人たちがいなくなってからどれくらい時間は経ったの?」
「分からない……でも、私が寝たのは1時間くらい前だと思う」
「1時間前……」
リトは悪いと思いながらも消えた人間の荷物の中身を確認し、その中から睡眠薬と書かれた瓶を発見する。中には薬が残っており、恐らくはハルナが飲んだ飲み物の中に薬を混ぜたのだと思われた。
「……ハルナさんを助けた人たちは知り合いなの?」
「あ、えっとね……私のファンだって言ってたよ?デビューした時からずっと応援してたって言ってたけど」
「その人たちはどんな人?」
「皆が私に優しくしてくれたよ。でも、ちょっと様子が変だった人がいたけど……」
「変?」
「……その人だけ私の身体をよく触ろうとしてきたの。他の人がすぐに止めてくれたんだけど、ちょっと嫌だったかな」
「そっか……まさか、この飲み物はその人から貰ったの?」
「あっ!?そうだったかもしれない!!」
ハルナはファンと共に逃げていたらしく、彼女が意識を失ったと思われる飲み物は彼女のファンの一人が用意した物らしい。その話を聞いたリトは嫌な予感を抱き、下手をしたらハルナはファンに襲われていたかもしれない。
恐らくはハルナと同行していたファンの一人が彼女を眠らせ、目を覚ます前に何をしようとしていたのかは想像はつく。しかし、気になるのはどうしてハルナと行動を共にしていた他の人間達が消えた事である。
「他の人たちは何処に行ったんだろう……探したりした?」
「う、ううん……さっき、起きたばかりだから」
「そっか……なら、ちょっと周りを見てくるね」
「あ、待って!!私も一緒に行くよ!!」
リトはハルナを残してコンビニの裏口へ向かうが、一人で不安を抱いていたハルナはリトの後に続く。二人は共に裏口に移動すると、そこには予想外の光景が広がっていた。
「こ、これは……」
「ひっ!?」
コンビニの裏口には3人の男性が倒れており、それを見たハルナは悲鳴を上げてリトの後ろに隠れた。リトは倒れている3人の男性を観察し、全員が既に死亡している事を悟る。
「駄目だ、もう死んでいる……」
「ど、どうして!?」
「この人達がハルナと一緒に行動していた人たち?」
「……う、うん」
ハルナは倒れている3人の死体を見て頷き、怯えた表情でリトの背中から離れようとしない。リトは死体の様子を観察し、ここで違和感を抱く。
(何だ?この死体……ゴブリンに襲われたにしては綺麗すぎる)
倒れている3人の男性はゴブリンに襲われて殺されたにしては大きな怪我を負っておらず、特に食い荒らされた後もない。これまで見かけたゴブリンに殺された人々の死体は例外なく食い散らかされていたが、コンビニの裏口で倒れている男達は死体が綺麗過ぎた。
内心は嫌な気持ちを抱きながらもリトは3人の死体に近付き、まずは死因を調べる事にした。そして死体には大きな外傷はなく、苦悶の表情を浮かべていた。ここでリトは先ほどのハルナの話を思い出し、彼女に確認を行う。
「ハルナさん……その、さっき君が怪しいと言っていた人はこの中にいる?」
「えっ!?ど、どういう意味?」
「まさかとは思うけど……君を守っていた人たちは3人じゃなくて4人じゃないの?」
リトは倒れている3人がハルナを守っていた人たちだと思ったが、念のためにハルナに確認する。彼女は恐る恐る倒れている人たちに視線を向け、驚愕の表情を浮かべた。
「い、いない……あの人だけ、いない!?」
「いないって事は……この人達はさっき話していたファンの人たち?」
「う、うん……私をここまで助けてくれた、凄く良い人たちだったのに」
倒れている3人の男性を確認してハルナは涙を流し、今更ながらに彼女は自分を守ってくれた人たちが死んだ事を理解して涙を流す。しかし、リトとしてはハルナが告げた彼女に薬を持った男だけがいない事に不安を抱く。
(この人達は間違いなく毒を盛られて死んでいる。だからゴブリン共も死体に手を出さないんだ)
男達が毒殺されたのであれば死体が放置されている理由も判明し、ゴブリンは毒を嗅ぎ取って死体に口を付けなかったのだ。だから遺体は比較的に綺麗なまま放置されており、そして毒殺した犯人は怪物ではなく人間の仕業だと確定した。
十中八九は彼等を殺したのはハルナを眠らせようとした男で間違いなく、それを理解したリトはこの状況はまずいと思った。ハルナを眠らせた男は何故か姿を消したが、ここに残っているといつ戻ってくるか分からない。
「ハルナさん!!早くここから逃げよう!!」
「えっ!?で、でも……」
「今はどうする事もできない!!早くここから逃げないとまずい気がする!!」
ハルナは倒れている3人の男性を放置して去る事に罪悪感を抱くが、リトは一刻も早くこの場を離れないと取り返しのつかない事になる気がした。彼はハルナの腕を掴み、急いで逃げようとしたがハルナは引き留める。
「ま、待って!!鞄を取ってこないと……」
「そんな暇は……いや、確かに必要か」
焦って逃げ出そうとしたリトだったが、こんな状況なので食料や水は確保しておくのは重要であり、コンビニの中に引き返す。ハルナは自分のカバンを取り出し、リトはコンビニのロッカーからリュックを発見する。
(このコンビニの店員の荷物かな……結構大きいから色々と荷物を入れられそうだな)
リュックを拝借する事にしたリトは店内を探し回り、まだ食べられる食べ物と飲み物を入れて置く。特に食べ物は長期間保存が利く物を厳選し、ついでに飲み物もジュースなどではなく水を入れて置く。
「これでよし、早くここから離れよう」
「で、でも何処に行くの?」
「…………」
ハルナの質問にリトは咄嗟に応える事ができず、彼も何処に逃げればいいのか見当はつかなかった。だが、ここでリトはハルナならばスマートフォンを持っているのではないかと考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます