第30話 決着!

――残り400m。


「エッグル、出し切れ!」


 エッグルのラストスパート。


「ゴクウ! ぶっ飛ばせ!!」


 ゴクウも最後の力を振り絞る。


「うおおおおおおおおおっっ!!!」

「だあああああらああああああああああああっっ!!」


 エッグルの体力は回復している。しかしゴクウも当然、体力にはかなり余裕がある。


 互いのプライドを賭けたラスト勝負。


 この時、ロクスケは気づいていないが、ライバルに負けたくない対抗心がゴクウとシンクロし、今まで好敵手に巡り合わなかったゆえに到達できなかった速度に達していた。過去最高のトップスピードである。


 逆にエッグルは久しぶりのフレンを乗せての飛行。さらに初めてのレースだ。

 安定な飛行を身につけたものの、トップスピードは以前より下がっている。


 進路妨害する余裕はない。


 小細工なしの全力勝負!!


(終わった後吐いてもいい! 無茶苦茶でデタラメでいいからとにかくスピードを上げるんだ!!)


(賭けなんざどうだっていい……! この勝負に、コイツに負けたくねぇ!!!)


 残り30m。


「「いっけええええええええええええっっ!!!」」


 一竜身、左側を走るエッグルがリードがする。



(まずい!)



 ロクスケは負けると思った。ここで一竜身の差は大きい。

 しかし、


「いや」


 敗北を確信しかけたところで、エッグルが速度を落とした。


(……ここだぁ!!)


 エッグルの隙をつき、ゴクウが再び並ぶ。


――だが、


「っ!?」 


 右から突風が吹き荒れる。

 2人が飛んでいる場所は標高800mを越える。突風が吹くことは珍しいことじゃない。


 突風を受け、ゴクウはバランスを崩した。


(突風!? バカな! こんなところで! だけど相手も同じ影響を……)


 否。

 フレンとエッグルはバランスを崩していない。


(どうして……?)


 ロクスケはすぐに解を得る。

 右から突風が吹いた時、ゴクウはエッグルの右側に位置していた。ゴクウの体が、エッグルを突風から守ったのだ。


――ロクスケは1つの可能性に気づく。


(いや、まさか……まさか!?)


 たったさっき、エッグルは速度を落とした。


 あれがわざとだとしたら? 


 ロクスケは背筋に悪寒を感じる。


「俺を、俺達を、風よけに使ったのか……!」


 フレンには聞こえていた……風の音すらも。

 ゆえにリードを捨て、右にゴクウを誘導し、風の盾に使ったのだ。


「どけ」


 フレンとエッグルは加速する。



「……ここは、おれの空だ!!」



 オレンジの影がゴクウの側を通り抜ける。

 流星の如く空を駆ける彼らの後ろ姿を、ロクスケは見つめる。


「綺麗だ」


 ロクスケは呆然と、そう口にした。

 エッグルはそのままゴールリングをくぐった――



 ---




「はぁ……! はぁ……」


 エッグルがゴール地点の草原に着陸する。

 オレはエッグルから転げ落ち、空を見上げて寝っ転がる。


「だーっ! つっかれた!」


 オレが走ってたわけじゃないのに、すげぇ疲労感だ。

 不快感もある。あともう10秒乗ってたら吐いてたかもな。

 だけど、疲労感や不快感と同時に、爽快感もある。矛盾してるけど、晴れやかな気持ちだ。


「ちっ!」


 舌打ちが聞こえた。ロクスケだ。

 後から到着したロクスケはオレを一瞥し、離れていく。


――ボス。


「ごほっ!」


 誰かがオレの腹の上に思い切りケツを乗せてきた。

 黒い長髪が見える……ラメールか。


「合格タイムだ。スキルポイントは90ってところだな」


「……アンタのおかげだよ」


「あぁ?」


「今日、オレは間違いなく1分30秒以上乗っていた、なのにオレは吐いてない。アンタがオレとエッグルのバランス能力を鍛えてくれたおかげだ」


「……」


「不安定な足場で落ちないように動いていれば、自然と平衡感覚は鍛えられる。エッグルには人と違って丸く落ちやすいバランスボールを乗せて飛ばすことで、搭乗者になるべく揺れを当たえない飛行を身につけさせた。そうだろ?」


「さぁーって、なんのことやら」


 ラメールは立ち上がり、タバコを咥えたままニヤケ面で振り返る。


「俺はただ、ムカつくテメェをいびっただけだよ」


 そう言って、ラメールは飛竜に乗り、スタート地点に戻っていった。


「……まさか今日のレース全部並走する気か? アイツ」


 バケモンめ。


「上には上が居るな……」



 ---



 トライアスロンリレーを終え、教室。

 オレたちフレン班とロクスケ班は対面していた。


「約束を守ってもらうぜ、ロクスケ」


 シグレが話を切り出す。

 ロクスケ班の面々は苦い顔だ。


「さぁ~って、なにをしてもらおうかなぁ? 退学か? それとも裸踊りでもしてもらおうかなぁ?」


 シグレは悪い顔で言う。まるで悪役だ。

 ロクスケとクウェイルは裸踊りという単語を聞き怯む。


「別にいいよ」


 言ったのはミツバだ。


「『なんでもやる』といったのはこっちだ。裸踊りをして退学しないで済むなら、僕はやる」


 女子であるミツバが漢気溢れることを言った。


「ま! おれは下っ端なんでね、決定権があるのはフレンだ」


 シグレのやつ、こっちに投げやがったな。


「そんじゃ……」


 ちら、とミツバを見ると、ミツバはオレを睨んで胸を隠すポーズをした。

 待て待て、裸踊りを提案したのはシグレであってオレじゃないだろ。つーか、オレがそんなこと要求すると思ってんのか?


 なにを命令するか。それはもう決まっている。


「またレースしてくれ。これがオレが下す命令だ」


「はぁ!?」


 ロクスケは驚く。


「ロクスケ! お前とのレースめちゃくちゃ楽しかったぜ。またやろう!」


「っ!?」


 ロクスケとのレースでオレはまた一つ、強くなれたと思う。

 好敵手として、コイツとはもっと戦いたい!


「まったく、うちのリーダーはあめぇな」


「でも、私も賛成です! また一緒に泳ぎましょう、ミツバさん!」


 ノラヒメが言うと、ミツバは照れ臭そうに顔を背け、


「……いいよ。僕でよければ……」


「俺もシグレちゃんとはリベンジマッチしたいね」


「望むところだ」


 ロクスケはオレに背を向ける。


「――本当に、嫌な野郎だ……」


 そして頭を掻きつつ、



「暇があったら、勝負してやらぁ」



 微かに見えたロクスケの顔は赤くなっていた。

 こうしてトライアスロンリレーは無事、幕を閉じた。

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