第29話 トライアスロンリレー 空
「負けたぜ」
スノードレスから降り、シグレは言う。
「まさかお前がここまでやるとは予想外だったぞ、クウェイ――」
シグレはクウェイルの表情を見て、言葉を止めた。
クウェイルは顔を歪ませ、唇を噛み、拳を握っている。普段の軽薄な面持ちじゃない。
「今のを『勝ち』にするほど、俺のプライドは腐っちゃいない……!」
クウェイルはシグレに背を向け、去っていく。
「……軟派に見えて、芯は熱いな。あーあ、厄介なライバルができちまったなぁ」
シグレは小さくなったフレンの背中を見る。
「頼むぜフレン。お前の空を見せてやれ……!」
---
大空を飛ぶフレンとエッグル。
両者は同様の感情を抱いていた。
――やりやすい。
(エッグルがいつもより安定している。それにオレ自身も、前に比べてうまく乗れてる気がする。あのロデオマシンで得た感覚が
「どら!」
「お前も楽しいか、エッグル……しかし、のんびりドライブする気はサラサラねぇぜ!!」
エッグルとゴクウの差は150m。
エッグルが加速しきる前に、さらにゴクウは50m引き離したのだ。
ロクスケは後ろを見て、安心する。
(さっきは奴の中に怖い何かが見えたが、これだけの差をつければ角竜種が牙竜種に負けることはない!)
ロクスケとゴクウのペース配分は完璧だ。途中で乱れることはないと、後ろで見ているフレンはわかった。
(隙を狙っても意味はねぇ。力づくでこじ開ける!)
フレンは姿勢を低くし、高速飛行の準備を整えた。
「エッグル……全速でいい。行け!」
「どら!」
「『ここで飛ばしたらスタミナが持たない』って? 大丈夫だ。前に出れたら休ませてやる! フルスロットルだ!!」
「どらぁ!!」
エッグルは全力で飛行する。
序盤でのスパート、それはロクスケにとって予想外のことだった。
ロクスケはフレンに合わせてスパートをかけようとして、踏みとどまった。
(落ち着け。あんだけ飛ばしたら最後までもたねぇ! 付き合ってペースを乱す必要なし!)
フレンはロクスケが速度を上げないのを見て、笑った。
「……判断ミスだ、ロクスケ。ここで飛ばさないなら勝負は決まった!!」
傍から見ればロクスケの判断は正しい。
牙竜種の体力で全速で3000m飛ぶのは不可能。勝手に自滅するだけ。どこかで必ずスピードは緩む。しかし、フレンには作戦がある。
フレンの策を知る由もないロクスケだったが、エッグルが後ろ30mについたところで嫌な予感を感じ、姿勢を低くした。
「……なにかまずいな。飛ばせゴクウ!」
「もう遅い! 差せ、エッグル!!」
エッグルとゴクウの最高速度はエッグルの方が速い。
徐々に差は詰まる。
「ちっ!」
スタートから2000m、エッグルはゴクウを抜かした。
「……だがここからどうする? トップスピードは維持できないだろ!」
「ああ、できない。だからスピードは緩める」
エッグルのスピードが落ちる。
「馬鹿が! ペース配分が下手なんだよ!」
ロクスケは左からエッグルを抜こうとする、だが、
「なに!?」
エッグルが左にスライドし、ゴクウの進路を塞いだ。
「このっ!」
次に右から抜こうとするが、これも防がれる。
「なんだと!?」
下も上も、あらゆる方向から抜こうとするが、フレンとエッグルは全て先回りして塞いだ。
(こいつ……後ろに目でもついてんのか!?)
「……残念だったな。お前の竜の居る位置は、完璧に聞こえてんだよ!」
フレンには尖聴覚がある。
音でゴクウの位置を拾い、進行方向を塞ぐことができる。
さらにフレンはロデオマシンの練習をえて、初期微動の存在を知った。近距離であれば、相手の初期微動の音すらも拾える。
加えてエッグルには天性の共感覚能力がある。共感覚能力とは搭乗者である竜騎手と同調する力、つまり、エッグルはフレンの動きたい方向をすぐさま察知し、対応できる。
ロクスケが未来を悟られているように感じるのも無理がない。それほどまでにフレン&エッグルコンビの進路妨害の早さは異質だった。
(駄目だ。抜けない……! なんなんだコイツら!?)
ダメもとで横にスライドするも、
「見えてるぜ」
フレンとエッグルは容易に先回りする。
結果ロクスケは時速70㎞ほどのスローペースに付き合わされた。
(衝突覚悟で突っ込むか? いいや駄目だ! 接触すれば俺が
ロクスケが選択したのは、
「むっ!?」
右に、左に、上に、下に、縦横無尽に動くことだった。
「野郎……やらしい手使いやがる!」
「……上下左右に振ってスタミナを削ってやるよ!」
競り合いでスタミナを削れないのなら進路争いでスタミナを削る。
ロクスケの選択は正しい。上から見ているラメールも同じ対抗策を頭に浮かべていた。
――しかし、ベストのタイミングは外れている。
ラメールは最初の3秒でこの打開策に気づいたが、ロクスケは10秒以上答えを出すまでに時間をかけてしまった。
エッグルは全快とまではいかなくとも、スタミナを回復していた。
「ぐっ……!」
フレンの頭に痛みが走る。
(乗り物酔い……ここでか!)
ゴクウに合わせ、エッグルを振り続けたことにより通常の直線ダッシュよりも意識を使ってしまった。これにより、フレンは乗り物酔いを誘発。
たった一瞬の怯み、だが――
(開いた! 突破口!)
ロクスケはすかさずゴクウを飛ばし、ゴクウをエッグルに並ばせた。
(もう奴の後ろにはつかない!)
(ざっけんな! 先頭は渡さねぇ!!)
――残り500。
「「ぶっちぎってやる!!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます