第27話 トライアスロンリレー 海
海竜スタート地点。
「遊ぼう、レヴァ」
「泳ぐよ、ゴジョウ」
ノラヒメとミツバは同時に竜を展開。
ミツバの竜、ゴジョウは海竜類蛇竜種。色は薄紫だ。体格はレヴァより一回り小さい。
ノラヒメとミツバはそれぞれゴーグルをつける。手首にはバトン代わりの金属のリングがつけてある。
「レヴァ……」
ノラヒメはずっとレヴァに乗っていなかったため、不安を抱きながらレヴァに近づく。
「ガウ」
レヴァは――ゆっくりと背中を岸につけた。
「レヴァ!」
「ガウ!」
早く乗れ。とレヴァは態度で示す。
ノラヒメは涙を堪え、レヴァの背中に乗った。ミツバもゴジョウに乗り込む。
2人の頭上、そこに白い竜に乗った男がいた。ラメールとハクだ。
「相手への直接攻撃は禁止だ。ブレスや悪質な体当たりが相手に当たった時点で失格とする。進路妨害は構わない、それを躱すことも必要な技術だ」
ラメールは言う。
「このレース中、俺が常に上から監視している。不正は許さない」
「常に……って、まさか9500m全部ついてくるつもりですか!?」
ノラヒメの問いにラメールは「当然だ」と答えた。
チームのメンバーそれぞれが全力で飛ばすこのレースを飛竜一体でついていく。教師と生徒の実力差を考えても異常なことだ。
ノラヒメもミツバも驚きを隠せなかった。
(さすがは……)
(七つ星竜騎士。恐らく、そんな芸当ができる教師はこの人ぐらいだね)
2人は意識をレースに戻す。
「事故だけはやめてね」
「もちろんです」
ラメールが右手を上に向ける。
「双方準備はいいか?」
「「はい!」」
「では、“トライアスロンリレー”。はじめ!!」
ラメールの右手から炎弾が撃ちあがる。炎弾は高く打ちあがると、花火の如く煌びやかに散った。それを見て、地竜組と飛竜組もレースがスタートしたとわかる。
レヴァとゴジョウがスタートを切った。
---
スタート500m。
ミツバの顔には動揺が見えていた。
(ありえない……!)
同じスタートを切った相手の背中が遠く見える。
たった500mの間で、すでに距離にして50mの差が開いていた。
(なんてスピード! こっちもかなり飛ばしているのに追いつける気がしない!)
1000m地点、先に滝に到着したのはレヴァだった。
「レヴァ! 一気に行くよ!」
「ガウガウ!!」
レヴァはその大きな体で一気に滝を上る。
スピードだけじゃなく、パワーも規格外。
その姿を見ていたミツバは「そんな」と声を漏らす。
(本当に同じ蛇竜種……!?)
ゴジョウも滝をのぼり、後を追う。
2000m地点。
距離の差は150m。これはレヴァとゴジョウの能力差からすると短い差だった。
「もうっ、レヴァったら……!」
ノラヒメはレヴァの眠たげな眼を見る。
(レヴァの集中力が切れてきた。けど、3000mはもちそう!)
2500m。
集中力が切れてきたレヴァは速度を激減させる。しかし、ゴジョウとの差はまだ100mある。
「ゴジョウ!」
ミツバは焦る。
あれだけ文句を言った相手に負けること、
そのミツバの焦りをゴジョウは感じ取った。
――それは善意からの行動だった。
焦るミツバ。ミツバをなんとしても勝たせたい、そう思ったゴジョウは……口に風を溜めた。ブレスの発射態勢に入ったのだ。
「ゴジョウ!?」
「ガアアアアッ!!」
「だめ……やめて! ゴジョウ!!」
レヴァとゴジョウとの差は100m。
レヴァが残り70mに入った時、ゴジョウの口からブレスが放たれた。
「ノラ! 後ろだ!!」
シグレの叫びでノラヒメはそれに気づく。
ブレスの攻撃が当たれば、その時点で相手チームは失格。賭けに勝てる。だが――
(ここで当たれば、ミツバさんたちが失格になる。レヴァも傷つく……っ!)
ノラヒメはブレスがレヴァを捉える寸前で、
「レヴァ!」
レヴァを封印した。
レヴァが消えたことで風のブレスは空を切る。
「くっ!」
ノラヒメは湖に飛び込み、すぐに浮上する。
「ノラ、泳げ!!」
この試験は竜で走ることが前提。
しかし、ルールの記載に途中から竜を封印することを禁止することは書かれていない。そもそもそんなことをしたところで得などないからだ。
竜を封印したあと、すぐに展開することはできない。
以上のことからノラヒメとシグレは泳ぐことが最善と判断した。
竜の封印を反則と捉えるかどうかは試験官、ラメールの裁量によるが……ラメールはこれを黙認した。
残り70mをノラヒメはクロールで泳ぎ出す。
ゴジョウは残り170mに入った。
残りの距離で言えばノラヒメが圧倒的有利。
しかし、人と竜の泳ぐ速度の差は――あまりにも。
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