第25話 下見

 週末。 

 オレはエッグルを連れて“トライアスロンリレー”のコースを見に来た。


「ここがスタート地点か……」


 周囲を森林に囲まれた湖。スタート地点は密林の中か。


 地面に大きく“START!”って書いてある。スタートライン、って意味だろうな。ここから海竜組(ノラヒメとミツバ)は海竜に乗りこみスタートすると。


 湖の側には看板が立ててあり、『無許可の遊泳禁止』と書いてある。

 写真を一枚パシャリと撮り、湖沿いを歩いて次なる場所……地竜組のスタート地点で向かう。


「だーっ! 蒸し暑いな!」


「どらぁ……」


 すでに夏の香りがする季節。今日は太陽も頑張ってるせいで密林は地獄のような暑さだ。

 オレは適当に写真を撮りつつ密林を歩く。


「この暑さを3000mか……きちぃ」


 1000mほど進むと、長い滝がコースの先に見えた。


「……あの滝を越えるのか?」


 聞いたことがある。海竜は訓練の一環として滝登りをやると。

 竜の力なら滝を登ることは不可能ではないと思うけど……こんななげぇ滝をのぼれるのか?


 オレは滝を撮りながら滝の横にある坂をのぼった。

 それからはまたひたすら密林だ。

 水筒の残りが半分を切ったところで、オレは地竜のスタート地点に着く。


 草木もなにもない荒野だ。また地面に“START”って書いてある。


「ここでバトンを受け取って、地竜組がスタートするわけだな」


 また写真を撮って荒野を行く……。


「じょ、冗談だろ……」


 荒野を500m行くと、大きな上り坂があった。


「この坂をのぼるのか? きちーな……」


 坂を撮り、坂をのぼる。


「ちくしょう……! エッグルに乗れれば一瞬なのに……! ラメールのクソ野郎のせいで……」


 坂をのぼりきると、今度は下り坂。


 下り坂を下り切ると、今度は芝の道。


 最初の直線が500mぐらい、上り坂が300m、下り坂が200mってところか。

 そっから芝の道……坂はないが、芝が堅くてちょっと癖があるか。これもシグレに伝えておこう。

 芝の道を1500mほど行くと、視界の悪い大木林だ。


 そこを越えると……、


「お……」


 太陽の光がダイレクトで当たった。

 林を越えて、70mほど先は崖。

 崖からは……島全体を見渡せる。


 崖からすぐ飛び出した先に金色のリング。

 金色のリングコースが見えないところまで続いている。


「……そっか、レースだもんな。このリングを……使うよな」


 ドクン。と胸が高鳴る。


「飛びてぇ……! な! エッグル」


「どら!」


「よし、ちょっとだけ――」


「ちょっとだけ、なんだ?」 


 重低音の声が背後から聞こえた。

 知った声だ。恐る恐る振り返る。

 タバコを咥えた黒髪ロングの男、ラメールが立っていた。


「ラメール……!」


「先生をつけろ、ドカスが」


 ラメールは前に出て、リングのコースを眺める。


「懐かしいな。ここで何度も奴と戦ったもんだ」


「奴?」


「ソラ=ラグパールのことだよ」


「……っ!?」


 そっか、そうだよな。ソラもこの学校にいたんだから、当然、ここで飛んでいたんだ……。


「134戦63勝62敗9分け。俺の勝ち越しだ」


 どや顔でラメールは言う。


「あーあ、来るんじゃなかったぜ。嫌な奴に会ったし、嫌な奴を思い出しちまった」


 ラメールはそう言って引き返そうとする。


「待てよ」


「あぁ?」


「1つだけ聞かせてくれ」


 オレはラメールに聞く。


「アンタは……ソラは死んでると思うか?」


「……」


 ラメールは「ふん」と鼻で笑う。


「死んでるさ。決まってるだろ」


「……そっか」


「――と言いたいところだが」


 ラメールはタバコを指で挟み、口から離す。


「残念ながら生きてるだろうよ。あのドカスは」


 そう言ったラメールの表情は少しだけ、寂しそうに見えた。


「帰るぞ、ハク」


 ラメールは竜を呼び、竜に乗って帰っていく。


「……オレを送ろうって気はないよな、そりゃ」


 オレは崖からの景色を撮り、帰った……徒歩で。

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