第24話 初期微動
水曜日。気分は憂鬱だ。
なぜなら午後の1発目に騎乗訓練があるからだ。普通ならウキウキ気分で臨む授業なのに足取りが重い。
最初の授業は魔法学。
座学で、黒板に書かれた文字をひたすらノートに写していく。竜魔法について詳しく説明してくれているのだが、眠気で全然耳に入らん。魔法を実践するのではなく、魔法の知識をひたすら詰め込まれる。
担当はシュタイン先生。顔に縫い目のある女性の若い先生だ。
2時間目は飼育学。竜の飼育の仕方を学ぶ授業だ。
竜舎に移動して実際に竜の世話の仕方、検診の仕方などを学ぶ。興味深いことも多く、担当のゲットン先生の説明も面白くてわかりやすい。ゲットン先生は40半ばの男の先生で、少しだけ爺ちゃんに雰囲気が似ていて親しみやすい。
昼休み、昼食を挟んで午後。
悪夢の授業はやってきた。
「くっ、うおっ!」
昨日と同じようにオレはロデオマシン、エッグルはバランスボールを相手する。
「おおっ!?」
開始20秒、揺れに耐えきれずにオレは地面にスピンアタックをかました。
「いったた……」
体を起こし、崖の先で飛んでいる竜たちを見る。
目にとまったのはロクスケだ。ロクスケの竜は角竜種。こと運動能力に関してはトップの竜種である。
ロクスケはCクラスだけでなく、他のクラスの飛竜すら圧倒していた。角竜種に乗っているからだけではない、ロクスケ自身の騎乗能力も高い。
断トツの速さだ。
それに比べてオレは、こんな玩具を相手になにやってんだが……。
オレは止まったロデオマシンの背中を撫でる。
とにかく今はコイツに乗りまくるしかない。
オレはロデオマシンに乗り、立ち上がる。
前、右、左、左、前。傾く順番、タイミングはバラバラだ。だけど、傾く前にほんの少し、逆向きに傾く。その傾きはほんの1ミリにも満たない。だけど必ずある。
これはロデオマシン特有の溜めなんだろう。この溜めを察知し、早めに体重移動すると傾いた時に余計な筋肉や意識を使わなくて済む。しかし……、
「ぬぐっ!?」
再びスピンアタック。
わかっていても難しい! ほんと微かだ!
いつの間にか全身に汗を掻いてやがる……意外に運動になるな。
「一応言っておくが」
珍しくラメールが声を掛けてきた。……背中は向けたままだが、
「“グレートダンサー君三号”は竜の動きを忠実に再現した傑作だ」
……こんな大きく揺れる竜が居るかよ。って文句言ったところで仕方ないか。
「この嫌がらせの代償は高くつくからな」
「ほう、例えばなんだ?」
「校長に直接言いつけてやる。スキルポイント100使えば校長と話せるんだろ?」
スキルポイントで交換できるモノの中に『校長との個人面談』があった。アレを利用してラメールを告発してやる。
「ふん、チーム課題をクリアできたなら好きにしやがれ」
ラメールはそう言って小さく笑った。
---
午後になって、オレたちフレン班は隠れ岬に集合した。
「大丈夫ですか? フレン君」
「……全身がいてぇ」
ロデオマシンに落ちまくったせいで全身傷だらけだ。エッグルが舐めて慰めてくれる。
「お前こそ大丈夫なのか? レヴァとはうまくやれそうか?」
「まだわかりません……今はひたすら、レヴァと向き合うのみです」
シグレは「やれやれ」と肩を竦める。
「こうなると全員個人練しかできねぇな。バトンパスとかぶっつけ本番で成功させるしかないか」
「……オレはなにやろう」
「暇ならちょっと下見してきてくれ」
「下見?」
「“トライアスロン”で使うコースの下見。ほい、これカメラとコースのある場所を示した地図な」
シグレからカメラと地図を受け取る。
オレは地図を広げ、場所を確認する。……ここから結構歩くな。エッグルに乗れればあっという間に行けるけど、竜なしじゃ何時間かかることか。
「別にいいけど、授業がある日に行くのはきついな……」
「週末にでも行ってくれ。あとはひたすらイメージトレーニングとエッグルの体調管理な。お前にできるのはそれぐらいだ」
「オレの件に関してなんの対策もなしかよ。このままじゃ、オレは2500mぐらいで吐き散らすぞ」
下手すりゃもっと早く吐く。
なんせ一か月のブランクがあるからな。
「仕方ねぇな。おれが1つ策を与えてやる」
シグレはオレに人差し指をピッと向ける。
「いいかフレン……お前は」
「(ごくっ)」
「『吐いても飛べ』! お前がダウンしてもエッグルは飛べるだろ?」
「無茶言うな! テメェ、参謀っぽい風格出しといてそんな案しか出せねぇのか!」
「うっせぇな、それしかねぇだろ!」
シグレの言う通り、オレの体調お構いなしにエッグルを飛ばすことはできる。
だが竜騎手のサポートのない飛行なんてたかが知れている。
あのロクスケにそんなハンデを背負って勝てる気は――しない。
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