第23話 とことん
放課後。
私は1人、隠れ岬に来た。
「……」
フレン君の言う通りに、怖がらず、昔のように――
「おいで、レヴァ」
レヴァを海に召喚する。
レヴァは私の方を見て、ジッとしている。
私はレヴァの目を見る。逸らさず、真っすぐと。
「ねぇ、レヴァ」
レヴァの方へ歩み寄る。
1歩ずつ、真っすぐ。
「また……一緒に遊んでくれる?」
私は笑顔でそう言った。
レヴァはそっぽ向く。
「そっか。いきなりは無理だよね」
私はレヴァの目の前に正座して座った。
レヴァはそんな私を見て、驚いた顔をしている。
「じゃあ、レヴァが認めてくれるまで――とことん付き合うよ」
もう、逃げない。
---
夕食を食べ、風呂に入ったオレは部屋のロフトで天井を見上げていた。
「……ノラヒメ、うまくやったかな」
コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
――ノラヒメか!
「私が出よう」
ジークが扉を開けた。
オレは急いで梯子をおり、扉の前に行く。
来訪者が見えるようにジークは体を逸らした。部屋の前に立っていたのは……。
「よっ! フレン」
「シグレ!?」
シグレは制服ではなく、私服のサイズ大きめのパーカーを着ていた。手にはノートを持っている。
「待たせたな。前に言ってた、お前の特訓メニューだ」
「あっ……」
しまった。
シグレにはまだ、オレがラメールに飛行禁止されていることを言ってなかった。
「おいどうした? 早く受け取れよ。けっこう頑張って作ったんだぜ! 自信のあるメニューだ」
「悪いシグレ、実は……」
「ん?」
オレは今日の授業で起こったことをシグレに話した。
シグレは話を聞き終えると、ムッと頬を膨らませた。
「あんの野郎~!! 勝手なことしやがって!」
オレではなく、ラメールに怒りをぶつけている様子だ。
シグレのことは基本女子として認識していないのだが、むくれている姿はちょっとかわいい。
「まぁ、でもほら、アイツの監視がないところで練習すればいいわけだし……」
オレがノートに手を伸ばすと、シグレはノートを背中に隠した。
「駄目だ。リスクを考えろ! もしバレてお前が退学になったら勝負は棄権負け! おれ達全員退学になるんだぞ」
「ん? 待て待て。退学になるのはオレとノラヒメだけだろ。お前は賭けの対象になってないだろうが」
ばーか。とシグレは鋭い目で見てくる。
「おれだけノーリスクで挑むつもりはない。負けたらおれも辞めるさ。つーか、お前とノラがいない〈ミッドガルド〉はつまらないだろうしな、そもそもおれはここがあまり好きじゃない……あのクソ兄貴がいるからな」
こいつ……。
「わりぃ、正直お前にそこまでの覚悟があるとは思ってなかった」
「別にいいさ。とにかく、お前は絶対竜に乗るんじゃないぞ!」
「……わかったよ。でもさ! その特訓メニューを見るぐらい、別にいいだろ?」
「だーめだ。お前、これ見たら試したくなるだろ」
「ぐっ! ……たしかに」
「ちょっといいか?」
ジークが会話に入る。
「少しその特訓メニューに興味がある。私にだけ見せてくれないか? フレンには見せないと約束しよう」
「別に構わないぜ」
ジークはフレンからノートを受け取り、1分ほどですべてのページに目を通した。
「……」
ジークはノートを閉じ、一瞬渋い顔をした後、笑顔を作った。
「ありがとう。さすがだね、合理的なメニューだ」
「使えないんじゃ意味ないけどな」
ジークはシグレにノートを渡す。
「ったく、無駄に時間を使っちまった。じゃ、おれは帰るよ」
廊下を歩くシグレ。
「ちょい待ち」
オレは廊下に出てシグレを呼び止める。
「ノラヒメは……その、大丈夫そうか?」
シグレは振り返り、くすりと笑った。
「あいつならいま門限破って寮監に怒られてる」
「え?」
「なんでかは知らねぇけどな。
――良い表情はしてたよ」
そう言って、シグレは再び階段の方へ歩き出した。
---
夜。
オレはロフトの窓から空を眺める。
「あ~、飛びてぇ飛びてぇ飛びてえなぁ!」
「君はよっぽど空が好きなんだな」
ベッドからジークが声を掛けてくる。
「好きだよ、愛してる。空はオレの恋人みたいなもんだ。一か月も遠距離恋愛なんて我慢できねぇぜ」
窓をしめ、布団にころがる。
「なぁジーク、お前……シグレのノート見て、なんかビミョーな顔してただろ」
「はは、見られてしまったか」
「なにか、おかしなとこでもあったのか?」
「いいや完璧だったよ。あのメニューをこなせば、君たちの最高飛行速度は確実に上がるだろう。だけど……私なら別ベクトルのメニューを作る」
「回りくどい言い方だな……」
「フレン、君は乗り物酔いで1分30秒しか飛行できない、そうだったな?」
「ああ」
「うん。やはり私なら……いや、これを言うのは無粋か」
「おいなんだよさっきから! ハッキリ言えって!」
「すまないが、もう眠い。寝かせてくれ」
「あ、おいてめぇ!
……マジで寝やがった」
まったく、なんだってんだ。
この様子じゃ、また聞いたところではぐらかされるな。別にいいか、どうせオレは飛べないんだし。
布団に潜り、ジークの後を追うようにオレも眠った。
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