第21話 ピンチ&ピンチ

 ふざけんな……!

 3000mを1分30秒で飛べるようになんなきゃダメなんだぞ!

 飛行禁止にされたら絶対届かねぇ!


「代わりにあれだ」


 ラメールが指さしたのは――地竜の形をした遊具。 


「俺自作のロデオマシン“グレートダンサー君三号”! こいつはな、なにも乗せていない時は微動だにしないが」


 ラメールは遊具の背中に手を乗せ、力を込める。


――ドゥンドゥンドゥンドゥン!!


 遊具は四方八方に暴れ出した。


「一定以上の重さが加わると地熱を利用して自家発電し、動き続ける」


 ラメールは遊具から手を放す。すると遊具はピタっと止まった。


「お前はこれに乗れ」


 マジで言ってんのか? 

 こんなダイエット器具みたいの、なんの意味があるってんだ! 

 嫌がらせ以外のなんでもねぇ。


 コイツ、まさかゲロ吐かれた恨みでオレをいびろうとしてんじゃねぇだろうな。


「お前の竜にも個別メニューがある。竜を出してここで待ってろ」


「……?」


 オレは言われた通りエッグルを出して遊具の前で待つ。ラメールが青い球体を持ってきた。


「コイツはバランスボールというやつだ。お前はフレンの代わりにこのバランスボールを背中に乗せて飛び回れ」


「どら!」


 ラメールはエッグルの背中にバランスボールを乗せる。


「……これ落としたら挽肉にするからな」


「どらぁ!?」


「脅すんじゃねぇよ!」


 エッグルはバランスボールを背に乗せ、ヨロヨロと飛び出した。


「テメェはロデオだ。早く乗れ。拒否権はねぇ」


「ちっ!」


 ロデオマシンの上に跨ろうとするが、


「阿呆。誰が座れと言った?」


「は?」


「……立って乗れ」


「ふざけんな! そんなことしたら振り落とされるに決まってんだろ!」


「いいから言われた通りにしろ。辞めてぇのか?」


「このっ……!」


 オレはロデオマシンの上に立って乗る。


「うお! おおっと! っとと!!」


 ロデオマシンが暴れ出す。

 ロデオマシンの背中は本物の竜のような質感だ。張りのある筋肉の感触、表面はスベスベだ。

 ただ立つだけでも難しいのに、暴れられたら――!


「はっはは! ゲロ吐き野郎にはお似合いだな」


 ロクスケが言ってきた。

 飛竜組の女子たちも笑ってオレを見ている。くそっ! なんて恥さらしだ!


「テメェ、ロクスケ……! 笑ってんじゃ――うおぉ!!?」


 その後、オレが転落したことは言うまでもない。

 授業の終わりまで、オレはエンドレスでロデオマシンに乗り続けた。


 

 ---



「いってぇな……」


 全身に綺麗に痣を作ったオレは廊下をとぼとぼと歩く。


「ラメール先生は俺と同じ意見みたいだぜ、フレン」


 とロクスケは笑いながら追い抜いて行った。


「ほんっと、嫌な奴だ」


 教室に入ろうとすると――


「――っ!」


「うおっと!?」


 瞳から涙を流した女子が飛び出てきた。

 女子は廊下を疾走している。オレは女子の後ろ姿から、誰だったのか察する。


「ノラヒメ……?」


 追うか? 

 いや、状況確認が先か。

 教室に入ると、海竜組が固まっていた。海竜組に混じってシグレも居る。

 シグレはため息を零す。


「シグレ」


「来たかフレン。……面倒なことになった」


「なにがあったんだ?」


「騎乗訓練でレヴァが暴れたんだ。それで海竜組の1人が怪我をしてな。ノラは他のクラスの連中も含めた海竜組に総叩きされて、あの様だ」


 海竜組……その1人が包帯を手に巻いている。


「やっぱり、彼女は〈ミッドガルド〉に相応しくないよ」


 そう発言したのはミツバだ。


「……たしかにアイツにも非があるが、寄ってたかっていじめることはねぇだろ」


 シグレが怒気を込めた声で言うが、ミツバは引かない。


「言い方が悪いな。僕らは正当な注意をしただけだ。彼女のせいで彼は怪我をし、授業も止まったんだ。みんなが迷惑した」


 ミツバは包帯を巻いた奴を指さして言う。

 たしか名前はオーウェンだったか。


「待って。何度も言ってるけど、アイツが悪いわけじゃない」


 オーウェンが言う。


「俺が授業中居眠りして、アイツの海竜に俺の海竜が接触しちゃったんだ。それでアイツの海竜が暴れた。原因は俺にある」


「お前、海竜に乗りながら寝たのかよ……」


 オレが聞くと、オーウェンは「うん」と頷いた。


「陽が気持ちよくってついね」


 だからって竜に乗りながら寝るか? 普通。


「だから俺は全然気にしてない。むしろ悪かったと思ってる」


「僕はその場を見てたけど、接触と言っても本当に軽くぶつかった程度だ。暴れるほどのものじゃなかった」


 ミツバは意見を変えない。


「……やれやれ、話に終わりがないな」


 呆れたようにシグレは言い、出口に向かった。


「ノラを探しに行ってくる」


「待て! オレも行く」


 オレとシグレは教室を出て、ノラの後を追った。


「この階には居なさそうだな……」


 オレ達は階段の前で立ち止まる。


「おれは上の階を探す! フレンは下を頼む」


「了解!」


 オレは階段から一階へ、玄関の方へ行く。

 駄目だ。1つ1つの部屋を探ってたらキリがない。

 ちっ、無駄に広いんだよこの城は! 仕方ない。久々に……本気出すか。


「ふうぅ……」


 目を瞑り、耳を澄ます。



「――聴域を最大領域まで解放……!」



 半径400m以内のすべての音を把握!


――正面玄関フロア。13人、いずれもノラヒメの声はなし。

――女子トイレ、2人居るが嗚咽や鼻をすする音は聞こえない。

――中庭、草を刈る鎌の音……恐らく庭師が1人。

――職員室は論外。

――倉庫室……


「……」


 瞼を開く。


「うっ!」


 嫌な汗が出る。限界まで聴力を発揮するとなにかに乗ってるわけでもないのに気持ち悪くなっちまう。ったく、世話焼かせやがって。


 オレは倉庫室の古びた木のドアを開ける。

 倉庫室に入ってすぐ正面に、ロデオマシンが2つ置いてあった。その内の1つにノラヒメは乗っていた。


「見ーつけた」


「フレン君……」

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