第17話 ロクスケ班

 朝礼。

 ラメールが教壇で話を始める。


「すでに知っている者もいると思うが、来月5月2日に“トライアスロンリレー”を開催する」


 さっきシグレが話してたやつか。


「“トライアスロン”と言えば海竜・地竜・飛竜を順に使い、海・陸・空のステージを1人で踏破とうはする競技だ。“トライアスロンリレー”になると、これを3人で分担してやる。まず海竜騎手が海竜で3000mの河川を泳ぎ、次に地竜騎手が地竜で3500mの道を走る。最後に飛竜騎手が飛竜で空を3000m飛んでゴールだ。

 1度に2チーム飛んでもらうが、別に競う必要はない。大切なのはタイムだ。それぞれの竜種によって目標タイムを算出する。目標タイムを超えたチームにはタイムに応じて“スキルポイント”を0~100ポイント贈呈しよう」


 スキルポイント?

 とオレも含め多数の生徒が疑問を浮かべる。


「スキルポイントを消費することで特別な講習を受けたり、施設を借りられたりする。技術、スキルを上げるためのポイントということだ。できることは今から配るプリントに書いてあるから目を通せ」


 回ってきたプリントを受け取り、内容を見る。



 --------------



・ドラゴン専用プロテイン(1ヵ月分) 50ポイント

・特別講習 10~100ポイント

・低血統ドラゴンの卵(1つ) 100ポイント

・高血統ドラゴンの卵(1つ) 500ポイント

・Bリーグトライアスロン観戦チケット(3人分) 100ポイント

・Aリーグトライアスロン観戦チケット(3人分) 250ポイント

・王立図書館入場チケット(3人分) 300ポイント

・MOB入場チケット(3人分) 300ポイント

・校長との個人相談(1人のみ。1分) 100ポイント

・学年昇格(飛び級 チーム全員) 2000ポイント

・次年度担任選択権 450ポイント



 --------------



 凄いな……担任を選べたり、飛び級だったり、ドラゴンの卵、MOBの入場チケット等々、できることが多い。


「狙い目は次年度担任選択権だな……」


 シグレが椅子を揺らしながら言った。


「あまりにタイムが悪いと罰則があるから気をつけろ。

――この後、チームのリーダーを決めて、リーダーは俺の元へ来い。これで朝礼は終わりだ」


「だってよリーダー。行ってこい」


 シグレがオレに向かって言う。


「え? オレがリーダーかよ!?」


「おれはリーダーってガラじゃないしな。それにアイツと一瞬でも会話するのはごめんだ」


「私もリーダーはちょっと……フレン君が適任かと思います」


「お前ら、自分がやりたくないから押し付けてないか? 別に嫌じゃねぇからいいけどよ」


 オレはラメールの元へ行く。


「よう、フレン=ミーティア。調子はどうだ?」


 ラメールが低い声で聞いてくる。


「ま、まぁまぁ良いかと」


「そりゃよかった。またゲロ吐かれたら困るからなぁ……!」


 ゴゴゴ、と威圧感を放つラメール。

 やっぱりまーだ根に持ってるよ、この人。


「リーダーはお前だな?」


「はい」


「お前らのチームは今日から“フレン班”と名乗れ」


「うす」


「それで早速発表するが、お前らの相手をするのはロクスケ班だ」


「ロクスケって」


 前に絡んできたタオル野郎か。


「よう」


 ロクスケが隣に並んでくる。


「ちょうどいい。テメェら落ちこぼれに現実ってやつを教えてやるぜ」


 ロクスケは見下ろしてくる。


「ロクスケ班とフレン班は竜種の構成が牙竜種・角竜種・蛇竜種で同じだったからな、対戦相手としてはちょうどいいと思ってこの組み合わせにした」


 なるほどね。

 竜種による差はないってわけだ。


「おい、フレン班。朝礼が終わったらちょっとつら貸せや。話がある」


「……わかった」


 嫌な予感しかしないな。



---



 朝礼が終わり、教室の隅。

 そこでオレ、シグレ、ノラヒメ。

 そしてロクスケ班のメンバーは向かい合う。


「んで、なんの用だよ。ロクスケ」


 シグレが聞く。


「“トライアスロンリレー”、ただ勝負するんじゃつまらないと思わないか?」


「賭けでもしようってのか?」


「そうだ」


 ノラヒメが前に出る。


「か、賭けなんて駄目です! 校則で賭け事は禁止されてます!」


「そう、君の言う通りだ」


 口を挟むはロクスケ班の紅一点、つり目の女子だ。


「僕も賭け事をするのはよくないと思う。だから今すぐ……」


 女子はノラヒメを睨む。


「学校を辞めてくれないかな? ノラヒメちゃん」


「え?」


「君と……君のドラゴンと一緒に授業を受けるのは怖いんだ。試験で僕は君の海竜の暴走を見た、君の竜の一撃は直撃すれば人を殺せるレベルだった……」


「そ、それは……」


「えーっと、つまりお前らの要求はノラの退学ってわけか」


「それだけじゃない。俺達が勝ったらノラヒメと、そしてフレンに学校を辞めてもらいたい」


「……オレもかよ」


「ああそうだよ、ゲロ吐き野郎。テメェはこの学校に相応しくない。どうせコネで入学したんだろ」


「違うわ! ……とは言い切れない」


「おいフレン……」


「やっぱりな」


 正直、あの試験の出来で合格できたのは未だに謎だ。


「はははっ! 空気がおっもいねぇ。ロクスケもミツバも顔怖すぎるって!」


 ミツバとはこのつり目の女子のことだろう。

 ロクスケ班の3人目、カチューシャを付けた男子が前に出る。


「お前もロクスケたちと同じ意見か?」


 シグレはカチューシャの男に視線を移す。


「いいや。俺はさ、別にフレンもノラヒメちゃんも残っていていいと思ってるぜ。特にノラヒメちゃんはかわゆいし!」


 カチューシャ野郎はノラヒメにウィンクする。ノラヒメは苦笑いで応じた。


「……俺の目的はお前さ、シグレ」


「悪いが、軽薄な男は嫌いなんだ」


「つれないこと言うなよ。あのラメール先生の妹で、神童と呼ばれた地竜騎手。同じ地竜騎手として、是非とも真剣勝負をしたい。賭けの内容なんざどうでもいい、お前がマジで決闘デートしてくれるならな」


「なーるほど。そういうことね」


「あ! 言い忘れてたけど、俺の名前はクウェイルだ。覚えといてね~、特にノラヒメちゃん♪」


「あはは……」


 ノラヒメは苦笑する。


 ノラヒメを退学にしたいミツバ。

 オレを退学にしたいロクスケ。

 そんでシグレと真剣勝負したいクウェイルか。


 全員、この賭けには前向きというわけか。


「いいぜ! やろう!」


 オレが言うと、シグレとノラヒメは「は?」と口をあんぐりと開けた。


「面白そうじゃん! どうせならガチで勝負したいもんな」


「面白そうって、お前な……負けたら退学だぞ?」


「そうですよフレン君! なにより、その……私の竜は暴れ竜なんですよ。海竜でどれだけ差がつくか……」


「大丈夫だよ、ノラヒメ」


 オレはロクスケの目を見る。


「どれだけ差がつこうが、オレが絶対こいつをぶち抜いてやる」


「ほう、言うじゃねぇか……!」


 待った。とシグレが間に入った。


「熱くなってるとこ悪いが、大事なことを忘れてるぜ。お前らはなにを賭けるんだよ、ロクスケ。こっちに退学を強制するんだ、それなりのモンを賭けてもらうぜ」


「いいぜ。お前らが勝った時は好きにしな。なんでもしてやるよ」


「『なんでも』って言ったな? 当然、退学しろと要求したら学校を辞めるんだぞ」


「わかってる」


 ロクスケは自信満々の顔だ。微塵も自分が負けると思ってないんだろう。


「シグレさん……シグレさんまでまさか……」


 シグレは八重歯を見せて笑う。


「……悪いなノラ。おれも楽しくなってきた」


「えぇ!?」


「お前は言われっぱなしでいいのかよ」


 オレはノラヒメを見る。


「オレは腹が立ってるぜ。教師でもない奴らに『ふさわしくない』なんて言われてよ……偉そうにしやがって。テメェらはちゃんとふさわしいんだろうな? おい!」


「「……っ!」」


 さっきの軽い物腰から一転、重い声色で言うと、ロクスケとミツバは一瞬だけ怯んだ。


「ノラ、お前が嫌なら勝負は受けない。正直に答えろ。お前はどうしたい?」


「私は……」


 ノラヒメはミツバを見る。


「賭け事は嫌いだけど、君が辞めないのなら……強引な手を使わざるを得ない」


「私は、辞めません! 私だってちゃんと試験を受けて入ったのです。ここに居る資格はあると思います!」


「なら“トライアスロンリレー”で証明してよ。君が、この学校に相応しい人間だってね」


 ミツバの目つきは依然厳しいものだ。

 ノラヒメの返事は――


「……わかりました。“トライアスロンリレー”で証明します。私も、〈ミッドガルド〉に相応しい人間だと!」


 シグレとクウェイル、ノラヒメとミツバは視線を交錯させる。

 オレはロクスケを見る。


「決まりだな。あと一か月の学校生活、楽しむことだ。――行くぞ」


 ロクスケはミツバとクウェイルを連れて教室を出ていった。

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