第16話 チーム課題
学校が終わり、オレは〈アース城〉から出て北へ歩いて行った。
海を正面に据えた場所、そこにオレがこれから6年間暮らすであろう寮があった。
地竜用、海竜用、飛竜用の3つの
寮の前には竜の銅像がある、眼が六つある飛竜の銅像だ。銅像の下には“サンダルフォン”と書かれている。サンダルフォンは七王竜の内の1体だったか、七王竜は人類を滅ぼそうとした存在だが、現代においては神格化されこうして銅像があるのは珍しいことじゃない。
この寮の名は〈
本校舎〈アース城〉、住居〈雷天寮〉、港町〈ビフレスト港〉。
この辺りがオレにとっての主要拠点になるのかな。
オレはまず飛竜厩舎に寄った。
飛竜厩舎の鉄の扉を開く。
「こんにちはー」
中に入ると、鉄格子で囲まれた空間が目に入った。檻の中は公園みたいで、竜用の遊具が多数ある。その檻の中で多数の竜が遊んだり、眠ったりしている。公園風の檻は2か所(恐らくオス専用とメス専用)、さらに個室の檻がいくつか(檻の中の竜は鎖に繋がれてる)。
檻を見ながら歩いていると、廊下の向こう側から作業着を着た太った男が来た。20代ぐらいの男だ。丸い目つきをしている。
「あ、新入生?」
「はい。今日から〈雷天寮〉に入ります」
「やっほほーい。僕はこの厩舎を担当するポステムだよ~。〈雷天寮〉に住む生徒の竜の栄養管理、健康管理は僕に一任されてる」
ぷよぷよの腹で、毒気のない穏やかな人だ。
「君の竜、性別は?」
「オスです」
「気性は荒い? 荒い子は悪いけど鎖で繋いで個室に入ってもらうけど……」
「いいえ、すごく優しい奴です」
「そっか。ならこの遊戯籠に放つといいよ」
この公園のような檻は遊戯籠と言うらしい。
ポステムさんは140cmほどの遊戯籠の扉を開ける。
オレとポステムさんは潜り抜ける。
「ドアが小さいのは竜を通さないためですか?」
「うん、そうだよ。はいどうぞ、ここに竜を放って」
「――エッグル!」
オレは封印を解き、エッグルを遊戯籠の中に放つ。
エッグルは勢いよく飛び出し、オレの傍に着地して頬ずりしてきた。
「エッグル君だね。うん! 確かに優しそうな子だ。僕が責任もって飼育するよ」
「頼みます!」
「と言っても君もちゃんと世話しに来るんだよ? 君より僕にこの子が懐いたら竜騎士失格だと思ってね?」
笑顔でさりげなく怖いことを言ってくる。
「わかりました、気を付けます……」
---
ラメールから渡された紙には“雷天寮 206号室”と書いてあった。
エッグルを預けたオレは寮に入り206号室の前に来る。
「ここがオレの部屋か……」
2階の部屋だ。空のネームプレートが2つある。2人部屋かな?
オレは206号室に入る。
――目を疑った。
眩しいくらい明るいピンク色のポニーテール、出来上がった体。一糸まとわぬ裸の男がベッドに座っていたのだ。
ベッドに座って、本を片手にくつろいでいる。足を組んだその姿は窓から差し込む光も相まってどこか神秘的にも見えた。
男はオレの存在に気づき、本を閉じた。
「やあ。君が私のルームメイトかな?」
爽やかな笑顔で男は聞いてくる。
「……なんで……裸なんだ?」
「む? ああ、これは失敬。家では常に裸だったものでな」
男は服を着て、自己紹介を始めた。
「私はジーク=バルト・ミラー。好きな物はインスタントコーヒー、嫌いな物は高級豆を使ったドリップコーヒーだ。高尚な味はどうも好きになれなくてね……」
「……」
オレが渋い顔をすると、男――ジークは苦笑した。
「おっと、なにか不快にさせたのならすまない。同年代の人間と会話するのは慣れてないんだ。もしかして君はドリップコーヒーを好んでいるのかな?」
「コーヒーにインスタントとかドリップとか種類があることすら知らなかったよ。今まで見たことがないタイプでちょっと戸惑っただけだ。オレはフレン=ミーティアだ。今日からよろしく」
「こちらこそよろしく頼む。フレンは上と下、どちらがいい?」
部屋には梯子があり、梯子をのぼった先にロフトがある。
下はベッドが1つがあり、勉強机が2つある。クローゼットなどの家具は下に集中している。
普通なら便利な下を選ぶだろうが……、
「オレは上がいい」
「そうか。てっきり下の取り合いになると思ったが、良かったよ」
「テメェがケツつけたベッドで寝れるかよ……」
「
「そういう問題じゃねぇよ!」
オレはバッグを背負ってロフトに上がる。
ロフトには布団が畳んでおいてある。
「ジークは何組だったんだ?」
ロフトで荷ほどきしながらオレは聞く。
「Bだよ」
「Bか。先生は?」
「幸運なことに担任はあのミズキ騎士だったんだ」
「ミズキか! いいなぁ、羨ましい……」
「ああ。でも地竜騎手の私からしたらハゼット騎士がベストだったがな。フレンは何組だった?」
「オレはC組、担任はラメールだった」
「ほう。七つ星竜騎士とはこれ以上ない幸運じゃないか」
「どうだかなぁ……よし、荷ほどき終わり!」
「フレン、どうだろう、寮の食堂へ行ってみないか? 1人では心細くてね。あまり大衆食堂というものに慣れがないんだ」
「いいぜ。オレも腹減った……」
寮の一階にある食堂へ足を運ぶ。
ここの食堂はビュッフェ形式で、寮生たちはトレイに皿を乗せて、好きに食べ物をすくって持って行く。無料でいくらでも食べられる。ざっと見た感じ魚類が多い。
オレとジークはトレイを持ってカレーの前の行列に並ぶ。
「お。フレンもこの寮だったのか」
後ろから聞き馴染みのある声がした。
振り向くとシグレが立っていた。シグレの後ろにはノラヒメが立っている。
「シグレとノラヒメも同じ寮だったのか。ここに来た時も思ったけど、男子と女子で寮が別れてるわけじゃないんだな」
「階で別れてるってぽいぞ。二階三階は男子、四階五階は女子みたいだ」
「なにはともあれ、チーム全員同じ寮で良かったですね!」
「たしかにな」
「おれとノラに関しちゃ部屋も一緒だ。お前の後ろに居るのがお前のルームメイトか?」
ジークがオレの横に並ぶ。
「ジーク=バルト・ミラーだ。君のことは知ってるよ、シグレ=シャーマナイト。あのラメール騎士の妹で、神童と呼ばれていた。会えて光栄だよ」
ラメールの妹と言われ、シグレはあまりうれしくない顔をしている。だからと言ってジークに八つ当たりはせず、
「よろしく。クラスは違えど、同じ寮同士仲良くしようぜ」
シグレは軽い声色でそう言った。
その後、食堂で4人で食事をし、寮の大浴場でゆっくりした後、部屋に戻って寝た。
---
次の日。
オレとシグレが教室に入ると、
「おはようございます!」
と、ノラヒメが全力で挨拶をしてきた。
「お、おう。おはよう」
戸惑い気味にオレは返す。
「さぁさこちらへどうぞ!」
ノラヒメは椅子を引き、手招きする。
「椅子と机は朝の内に磨いておきました!」
たしかに椅子も机も光沢を放っている。
「えーっと、一体なんのつもりだ? ノラ」
シグレが聞く。
「べ、別に他意なんてありませんよ?」
「ま、なんとなく察しはつくけどな」
シグレはそう言って一番奥の椅子に座った。
オレとノラヒメも順々に座る。
「聞いたんだろ? 課題のこと。足を引っ張るだろうから、今の内におれ達の好感度を稼いでおこうって感じか?」
ノラヒメはギクリと肩を揺らした。
「課題って?」
「先輩が言ってたんだけどな……1年生は5月の頭にとあるチーム課題を出されるそうだ。その名も――“トライアスロンリレー”」
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