第14話 入学!

 ミズキがいなくなってから一週間後。


「クラフトアームズ!」


 中庭でクラフトアームズを使う。

 出てきたのは骨のような質感の柄と柄を彩るオレンジの鱗、そこから伸びる竜の爪を研いだような片刃。刃の長さはナイフほどだ。


「結局これが限界か……」


 そろそろドラゴンシップが着く時間だ。

 オレは荷物をまとめて旅館を出た。



---



 港で待つこと20分。

 3匹ほどの海竜に引っ張られて、1つの船が到着した。船は一隻二隻じゃない、数えきれないほどだ。

 その船に乗るは制服を着た新入生たち。もちろん、オレもミズキが送ってくれた制服を着ている。

 〈ミッドガルド〉の制服はワイシャツにブレザー、長ズボンだ。今日は日照りがよく暑いからブレザーのボタンは全開にしている。


 船から降りてくる新入生。


 オレの視線は女子――そのスカートにいっていた。

 女子はワイシャツ、ブレザー、そしてスカートだ。にしても、あんなひらひらのスカートじゃ飛竜に乗った時パンツ見えるんじゃないか……?


「『あんなんじゃ飛竜に乗った時パンツ丸見えじゃん、やったねー』って顔してるぜ」


「うおぉ!?」


 後ろから突然声を掛けられ、思わず飛び退く。

 声を掛けてきたのはオレの知っている女子、シグレだ。シグレも制服を着ているが、他の女子と違いブレザーを腰に巻いている。


「シグレ! 脅かすんじゃねぇよ!」


「ばっかだな~、飛竜に乗る時はスカートの丈長くするか、ズボン履くに決まってるだろう?」


「別にオレはパンツに興味なんか……」


「ないって言うのか? 健全な14歳男子が?」


 シグレはにやにやと、いじわるな視線で見上げてくる。


「くっ……!!」


 シグレは「やれやれ」と肩を竦めたあと、小さく笑った。


「仕方ない、そんなに見たいなら……」


 自分のスカートを掴み、小さく上にあげる。


「おれの見るか?」


 スカートをひらひらと揺らしてシグレは挑発してくる。チラチラと映る健康的な太ももがなんと眩しいことか……!


「くくっ! なんて顔してんだよ」


 歯を見せて笑い、シグレはスカートを下ろした。


「冗談に決まってるんだろ、ばーか」


 シグレはベーっと舌を出す。


「お、お前なぁ……」


 健全な14歳男児をからかいやがって……!


「それにしても、お前の姿があって安心したぜ、フレン。船に乗ってなかったから落ちたかと思って冷や冷やしたぞ」


「へっ! 入学試験なんかで落ちるオレじゃないぜ」


「良く言うよ。試験終わった後、絶望顔晒してたくせに」


 正直受かったのは奇跡だと思ってる。それかミズキのコネパワーだな。


「ほら行こう。おれ達の学び場を拝もうぜ」


「はいはい、いま行くよ」


 オレとシグレは一緒に学校へ向かう。



---



 港町を出て、森林の中を暫く歩いていくと学校の一角が見えてきた。

 3つ4つの城を繋げたような巨大な城だ。

 全10階建てで地下もあるらしい。東西南北にそれぞれ搭があり、中心には中央搭と呼ばれる搭がある。中央搭の最上階に校長がいるらしい。


「パンフレットで見た通り、でけぇ城だこと」


 シグレはつまらなそうに言う。


「〈アースガルド城〉、略して〈アース城〉ってとこだな」


 オレはパンフレットで得た情報を口にした。


「ここがいわゆる本校舎ってわけだ」


 オレも含め他の新入生はこの校舎に圧倒されているというのに、シグレは冷静だ。


「ワクワクしてくるな! 新生活のはじまり、って感じだ!」


「先に行ってるぞ~、フレン」


 門から中に入ると、大広場に教師たちが横並びになって待っていた。ミズキ、ラメール、ハゼットの試験官トリオと他9人だ。


 まずハゼットが口を開いた。


「全員並べ! 適当でいい」


 新入生は言われた通り並ぶ。オレとシグレは隣に並んだ。


「会話をやめろ。校長先生の声に耳を傾けるんだ」


 ハゼットが続けて言う。


「校長?」

 

 どこに校長が居るんだ?


 新入生が静かになると――


(入学おめでとう。フレン=ミーティア)


 大人の女性の声が頭に響いた。


「フレン、いま……」


 シグレが驚いた顔でこっちを見る。オレは頷いて応える。


(私は校長のヨルムンガンド。いま、テレパスであなたの心に直接語り掛けています)


(これも魔法の一種なのか……?)


(ええ、そうですよ)


 いま、オレの質問に返答した?


 新入生のほとんどが驚きの声をあげている。


(待て。まさか新入生全員、個々にテレパスを仕掛けてるのか!?)


(その通りですよ。現実では同時に話をすることはできませんが、テレパスならば同時に会話が可能です。多少、疲れますけどね)


 すげぇな……常人の技じゃねぇ。


(わけあって私は姿を見せられません。なのでこのような形で失礼します。まずあなたのクラスを教えましょう。あなたが入るクラスはC組。担任教師は列の右から3番目に居る長髪の男――)


 列の右から3番目……ラメールが見えるが気のせいだろう。


(名前はラメール=シャーマナイト)


(チェンジでお願いします)


(変更は受け付けません)


 マジかよ……アイツにはゲロ吐いてから睨まれっぱなしなんだよなぁ。


(ラメールは間違いなく、この学園内で最高の飛竜騎手です。同じ飛竜騎手であるあなたが彼から学べるモノは多いでしょう)


 アイツがすげぇ飛竜騎手であることは認めるけどよ……。


(最後にフレン。あなたが竜騎士になってやりたいこと、成したいことを聞かせてもらってもいいですか?)


 竜騎士になってやりたいこと……。


(ソラ=ラグパールを見つけること。そして、アイツに見せつける。オレの空を!)


(……ソラ=ラグパール、彼もまた私の教え子。あなたの願いが叶うことを私も望んでおります。それにしても、あなたはあの子に雰囲気がよく似てますね)


(あの子?)


 ソラのことか?


(これで私の話は終わりです。ではフレン、どうかこの学校を楽しんでください――)


 プツン、と糸が切れたような音が鳴り、校長の声は聞こえなくなった。


「全員、自分のクラスは聞いたな? それでじゃ、それぞれの担任の元へ行け」


 ハゼットの言葉に従い、オレはラメールの元へ向かう。


「お前もC組か?」


 シグレが聞いてくる。

 シグレの行先もオレと同じみたいだ。


「ってことはシグレも?」


「ああ、C組だよ。さいっあくだ。あのクソ兄が担任とはな」


 やっぱシグレはラメールのことが嫌いなんだな。試験の時の反応でなんとなくわかってたけど。

 そうでなくとも家族が担任ってのはやりづらいだろうしな。


「お前とあの暴れ竜の騎手が同じクラスなのが不幸中の幸いだな」」


 シグレの言葉でオレもその存在に気付く。

 試験が終わった後、謝りに来た緑髪の女の子がラメールの前の列に並んでいる。


「全員揃ったな? 教室に向かうぞ」


 ダルそうな口調でラメールは言った。

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