第13話 クラフトアームズ

 家の前にある森、その森を越えた先に岬がある。海に突き出た白い陸地だ。

 その岬まで行き、ミズキは右手の手袋を外した。ミズキの右手の甲には竜紋がある。



「おいで、ゴールドフロート」



 封印を解き、海に煌びやかな黄鱗を持つ海竜類鳥竜種が召喚された。


「彼女のことはフロートって呼んであげてね」


「おう」


「あと、フレン君……これから私たちは先生と生徒って立場になるんだから、敬語で話すこと」


「お……はい」


 ミズキがフロートに乗り、オレも後に続く。

 乗った瞬間、驚いたのはその安定感。

 他の海竜に乗った時は動いてなくとも海に揺られていた。だがフロートは違う、まるで陸に立っているような安定感だ。


「行くわよ!」


 フロートが岬を離れ、大海原に駆け出す。


「すげぇ……!」


――驚いた。


 思い出したのは幼少期、浮き輪をつけて波に揺られていた時の記憶。

 爆速で動いているのに、あの時のように静かに揺られている感覚だ。

 さすがソラの友達だけある。これまで会った海竜騎手とは比べ物にならない!


「ところで、どうしてミズキ先生は先生になったんですか?」


「それ、聞く?」


 ミズキはため息交じりに、


「……この2年間、あまり前線で良い成績を残せなくてね。母校に戻って頭を冷やせって上官に言われたのよ」


 2年前と言えばソラがいなくなった頃だ。

 きっと、ソラの件を引きずったんだろう。ソラに対してよく悪態をついていたが、その悪態の裏にある感情に気づかないほどオレは鈍感じゃない。


「ちょうどフレン君も来るし、悪い話じゃなかったから受けたってわけ」


「そっか。ミズキ先生はクラスを受け持つんですか?」


「ええ。一学年のクラスを1つ担当するわ」


「だったらミズキ先生のクラスに入りてぇなぁ」


「それは無理じゃない? 私にクラスのメンバーを決める権利はないし、一学年だけでもクラスは12クラスあるからね」


「そんなに!?」


「そうよ。だから君が私のクラスに入れる可能性は12分の1ってところね」


 それはさすがに無理そうだな。

 まぁミズキのクラスに入れずとも、ミズキが学校に居てくれるのは心強いかな。知ってる人間がいるのはありがたい。



 ---



 海を走ること1時間、島が見えてきた。

 島の空には飛竜が飛んでいて、海には海竜が多く泳いでおり、地上には地竜が大量に見える。

 絵本の中の世界みたいだ。まさにドラゴンパーク。


「あれ? 王都みたいに信号はないんだな」


「人口密度はそこまでじゃないからね。それに王都と違って騎手の平均レベルが高いから事故も起きないわ」


「なるほど。ここに居るのは竜騎士と竜騎士の卵ばっかりだもんな……」


 港に到着。降りた後、ミズキはフロートを封印する。


「漁師がいっぱい居るな」


「町の名は〈ビフレスト港〉。この港町の漁師さんたちが採った魚とかが食卓によく並ぶわ。魚の美味しさはここが世界一ね」


「へぇ、楽しみだな」


「じゃあ早速寮に向か――あ!」


 ミズキは立ち止まり、「しまった」とつぶやいた。嫌な予感がする……。


「そういえば、春休みは寮が開いてないわね。夏休みと冬休みは開放しているんだけど」


「え? じゃあオレ、どこに泊まるんすか?」


「この港の宿で泊まるといいわ。私がお金出す。私のミスだし」


 というわけで、ミズキの案内でオレは港町の宿に行った。

 ホテルだ。木造りで、良い意味で古臭い。

 中に入ると、「いらっしゃいませ」と女性が頭を下げてきた。ミズキは女性に話しかける。


「良かった。部屋は空いてるそうよ」


 振り返り、ミズキは言う。


「聞いてましたよ。場所は3階の312号室っすよね」


「ええ、さすがの耳ね。私は学校に用があるから昼過ぎには学校に行かないといけないんだけど、その前に君に宿題を出そうかしら」


「宿題? いらないっすよ、そんなの」


「でも一週間やることないのも暇でしょ」


 そりゃそうだけど。


「荷物を置いたら中庭に来なさい」


「うっす」


 オレは312号室……ベットとクローゼットがあるだけの部屋に荷物を置き、中庭に向かった。


 中庭には池とか整えられた木とかがある。結構広い。


「宿題はこれを身に着けることよ」


 ミズキは手を前に出す。



「クラフトアームズ」



 ミズキが言うと、ミズキの手に――金色の弓が生成された。質感は骨のようだ。


「すげぇ! なにやったんだ!?」


「竜魔法の一種、クラフトアームズ!

 自身に封じた竜の種族に応じて武具を召喚する魔法よ。これはゴールドフロートの力を使って召喚した武器。鳥竜種の力を使ってクラフトアームズを使うと弓が出てくる」


「他の種類だとまた違うのが出てくるのか……」


「そうよ」


 ミズキは弓を消し、また唱える。


「クラフトアームズ」


 今度は緑の鞭が出てきた。


「私は他に亀竜種と蛇竜種を身に封印してる。これは蛇竜種の力を借りて出した物よ」


 蛇竜種だと鞭なのか。


「召喚した武器の強度は竜の体強度に比例するわ」


「ってことは、亀竜種が一番体強度が強いから、亀竜種の力を借りて出した武器が一番強いってこと?」


「えっとね、亀竜種のクラフトアームズはちょっと特別なの。見てて、いまから使うから」


 ミズキは右手の手のひらを誰もいない空間に向ける。


「クラフトアームズ」


 轟! と空間を弾き、半透明の丸い壁がミズキの手の前に出てきた。その壁の模様は亀の甲羅の模様にそっくりだ。


「亀竜種は盾、バリアが出てくるの。牙竜種は剣、角竜種なら槍。武器というカテゴライズの中で最大の強度を誇るのは角竜種のクラフトアームズね。亀竜種の盾は武器と言うより防具といったほうが正しいもの」


 クラフトアームズか。

 オレがいま使える竜魔法ってソラに教えてもらった炎弾だけ。新しく竜魔法を覚えるのは賛成だ。


「他の竜魔法に比べて魔力の消費が格段に低い。授業でも使う魔法だから、今の内に覚えておいた方がいいわ」


「うす! 教えてください!」


「はいはい。武器を出したい方の手に魔力を溜めて、武器のイメージを流し込むとできるわ」


「武器……エッグルは牙竜種だから剣だな。よーし」


 オレは右手を前に出し、魔力を溜め、剣のイメージを流し込む――


「クラフトアームズ!」


 右手に出てきたのは――骨の質感の剣の柄だけ。


「さ、最初はそんなものよ」


 とミズキは言っていたが、顔は明らかに期待外れって感じだった。


「私はもうここへ戻ってくることはない。宿題の成果は学校で見せてもらうわね。一週間後、新入生を乗せたドラゴンシップが来たら彼らと合流して入学式に来なさい。君の制服は後で旅館に送っておくから入学式の日はそれを着ること。わかったわね?」


 なんか、母親みたいだな……。


「……返事は?」


「はい!」


「よろしい」


 ミズキは「ばいば~い」と手を振って去っていった。

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