第12話 試験結果
試験を終え、会場の外にある木に背をつけて座る。
「はぁ」
ついため息が漏れる。
結局最後の試験も途中棄権……試験全部、棄権しちまった。
これは落ちるだろうなぁ、さすがによ。
「あ、あの!」
女子の声。
オレは頭を上げる。
「お前は……」
緑髪の女子。
さっき暴れていた海竜に乗っていた奴だ。
女子は深く頭を下げてきた。
「すみませんでした! そしてありがとうございました! あなたのおかげで、あの女の子は無事に済みました!」
オレが助けた女子の話をしているのだろう。
「いいよ、気にすんな。それよりお前の竜は大丈夫だったのか?」
「は、はい。元気いっぱいです……あの子の攻撃を受けた竜たちも軽傷で済みました。大事に至らなかったのは、試験官の方々や、あなたが奔走してくれたおかげです。本当に、ありがとうございました!」
また深く頭を下げてくる。
「本当にもういいって。気持ちは十分伝わったよ」
「……ありがとうございます。では、すみませんが他の方にも謝りに行くので、失礼します」
「じゃあな」
女子は走り去っていく。
多分、試験官とか攻撃を受けた受験生とか全員のところを周ってるんだろうな。
「見てたぜ、お前の飛び」
次に現れたのは黒髪の女子、シグレだ。
なんだよオレ、モテモテじゃんか。
「あれだけ洗練された飛行、そう簡単には身につかなかっただろ。どんな修行してたんだ?」
「そんな複雑なことはやってないぞ」
「師匠は誰だ?」
「師匠はいない。飛び方は独学だ」
「いやいや……独学で身につく飛び方じゃないぞ。アレは」
シグレは戸惑う。
「本当に独学だ。ああでも、ソラの飛び方は参考にしてた。あとは……多分、
「センサー?」
「乗り物酔いっていう無駄感知センサーがオレにはあったからな。オレの酔いは無駄の多い動きをすると出てくる。酔うイコール無駄のある飛び方をしてるってことだ。自分の飛行が正しいかどうかずっと酔いが教えてくれた。酔わないように、酔わないようにと飛び続けたら自然と無駄のない飛び方が身についてきたんだよ」
シグレは「ははっ!」と一笑し、
「なるほどなぁ! 乗り物酔いがお前を正しい飛び方に導いてくれたってわけか。ただのデメリットでしかない乗り物酔いを逆手にとったわけだ」
「最初の頃は地獄だったぜ……数十秒飛んでは吐くの繰り返しだったからな……」
そう、オレはあれだけ苦労してようやく1分30秒間、吐かない飛行ができるようになった。
今にして思えばこいつ……シグレは、そんなセンサーが無いのにもかかわらず1分30秒もオレを地竜に乗せることができた。こいつも相当できる。
「そんな苦しい思いをしてまで、どうして竜に乗る?」
真剣な顔つきでシグレは聞いてくる。
「吐く、って行為はそんな楽なもんじゃないだろ? 当然体調は悪くなるし、気分は酷いものだ」
「見ちまったんだ……」
「は?」
「あの景色を見ちまったら、もう飛ぶのをやめられねぇよ」
あの、アイツの空を見てしまった時から、オレはもう地上に居ることはできなくなった。
例え一寸先が地獄でも、それに至るまでが天国なら、オレは飛び込んでしまう。
あのバカのせいで、オレは大バカになったんだ。
「血反吐吐いても飛ぶぜ、オレは」
シグレは少しだけ引いたような顔をした。
当然だ。オレもオレのことをおかしいと思ってる。身を引かれるのは想定内。
だがシグレは想定外なことに、嬉しそうな顔をした。
「おもしれーやつ」
シグレはそう笑って、背中を向けた。
「心配するな、フレン。〈ミッドガルド〉が節穴じゃなきゃ、お前を落とさないよ。またな」
シグレは手を振って帰路を歩いていく。
「むしろ節穴の方が落とさない気がする……」
いつまでも
「……オレも帰るか」
オレは空港へ向かった。
入学試験はこうして終わったのだった。
---
試験から1週間後、3月後半。
彼女――ミズキが家にやってきた。
「合格よ。フレン君」
玄関先でそう告げられたオレは3秒ほど固まり、そしてガッツポーズを作ってかみしめるように叫んだ。
「よっっっし!!」
「おめでとう。それで早速で悪いけど学校へ行く支度をしてくれる?」
「え? 今から!?」
「〈ミッドガルド〉は全寮制だから、今日から寮に泊まってもらうわ」
「いや、それは知ってるけど……確か登校日まではまだ一週間あるだろ? 登校日の日に出るドラゴンシップに新入生は乗るってパンフレットには書いてあったぞ」
ドラゴンシップは竜船とも呼ばれ、竜に船を引かせる交通手段だ。
「大海のど真ん中の孤島を丸々学校に改造したのが〈ミッドガルド〉。そこに行くためには2時間近くドラゴンシップに乗らなくてはならない……でも、君は耐えられないでしょ」
「あ」
確かに。
2時間も船に乗ったら体液全部吐き出す。
「私は今日この大陸を出て〈ミッドガルド〉に行くの。今年から私も〈ミッドガルド〉の教師になったからね。ついでにフレン君も送ってあげるってわけ。私の完璧な竜捌きなら君を酔わせることもない」
試験官だったからもしかしたらと思ってたけど、やっぱり〈ミッドガルド〉の教師になったのか……。
「……」
「どうしたの? ジッと見て……」
「いや、本当に酔わずに行けるかなって。ほら、飛竜や地竜と違って、海竜はさ。気持ち悪くなっても簡単に降りられないし……海竜に乗った時が一番酔いやすいんだよな……」
眼鏡の奥の、ミズキの瞳が鋭く尖った。
「失礼ね! 私はこれでも六つ星の竜騎士よ。これまで君を乗せてきた海竜騎手とはレベルが違うわ。ま、
ミズキは自信満々の顔で笑う。
「私の海は、綺麗よ」
そう言い放つミズキの姿は、いつかの竜騎士のようだった。
そして言った後に照れて顔を背けるミズキであった。
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