第10話 勝負

「えー、それじゃあ、受験番号が書かれたバッジを受け取って、それぞれの担当者のところに集まってくれるかな?」


 ミズキの指示でオレ達は動き出す。


「ここでお別れだな。次は学校で会おうぜ、フレン」


「おう!」


 シグレと別れる。


「……しかし、喋り方からなにまで男みたいなやつだったな」


 途中から男と喋ってると勘違いしてたぜ。



 ---



「飛竜組は俺様について来い」


 受験番号201と書かれたバッジを胸につけ、ラメール試験官に続いて階段を上っていく。


「この上には飛び込み台がある」


 着いた場所はどこにも繋がってない石の橋だ。高度は30mくらいか。


「これより4つの試験をおこなう。まずは滞空試験。飛竜に乗って飛び上がり、10分間滞空してもらう」


「10分……!?」


「その間、上下左右への動きは最小限に抑えろ」


 やっばぁ……。


「総員、竜を召喚しろ」


 受験生たちは竜を呼び出し、飛び上がっていく。

 オレもエッグルを呼び出して飛び上がる。


「それでは試験開始!」


 ラメール試験官は砂時計を逆さまにする。砂時計の砂が上から下へ流れていく。あの砂が落ち切った時が10分の合図だろう。


――開始2分。


「うっ……!」


 まだ、まだ耐えられる。飛び回るのと違って、今はただ浮いてるだけ。いける!!


――開始4分。


「うぷ」


 限界が訪れた。

 オレは慌てて飛び込み台に戻った。


「おい、どうした、受験番号201」


 ラメール試験官が聞いてくる。


「すみません……吐きます」


「はぁ?」


 オレはその場で吐いた。



 ---



 2つ目の試験は試験官を後ろに乗せて、会場を時速30㎞で走る同乗試験。

 オレは後ろに誰かを乗せたことはなく、バランスを崩して無駄のない飛行を維持できず――吐いた(途中棄権)。


 3つ目の試験は空に浮かんだ風船を狙い、ブレスや体当たりをして割っていく試験。全員一斉におこない、制限時間は5分。


 当然、最初の1分30秒でダウンしたオレは棄権した。そして吐いた。


 3つ目の試験が終わるころにはもう周囲の人間はオレを避けて、馬鹿にしていた。


「……こいつなんで試験受けに来たんだ?」

「……〈ミッドガルド〉どころか、どこの竜騎士学校にも受からないだろ」

「……近づかないでおこう。吐かれたらたまったもんじゃねぇ」


 オレに聞こえないように言ってるつもりだろうが、残念聞こえてますよ~。

 これはまずい。非常にまずい。今のところ一切アピールできてない。


「最後の試験は高速飛行試験だ。この会場内にある金色のリングのコースを全速力で周ってもらう。コースの距離は1500m」


「きたぁ!!」


 つい、オレは大声をあげてしまった。


「待ってました! その試験なら1分30秒もかからない! やっとアピールできる!」


「……受験番号201」


 ラメール試験官が、厳しい目つきでオレを見る。


「お前は試験を受ける必要はない」


「なっ……!?」


「これまでの試験で資質は十分に測れた。お前に……竜騎士は無理だ」


 絶望が――思考を止めた。

 冗談、冗談だよな……? こんなところで――


「それでは5人ずつ飛んでもらうぞ!」


 試験は、オレを無視して始まった。

 順々に受験生たちが飛んでいく。


「どらぁ……」


「ふざけんな……!」


 こんなところで、躓くわけにはいかねぇんだよ!!




「ちょっと待てよ!!!」




 オレは飛び込み台の上で受験生を仕切るラメール試験官を睨みつける。


「本当に測れたのか? オレの資質ってやつをよ」


「……ああ、測れたさ。たった数分で吐いちまう奴に、竜騎士の資質があるわけねぇだろ」


 ラメール試験官はオレに視線すら合わせずに言い切る。


「アンタ、ソラのライバルって聞いてたけど……ソラより見る目はねぇな!」


 オレが言うと、ラメール試験官はタバコを口から離して睨んできた。


「ほう? テメェもしかして、この俺に喧嘩売ってんのか?」


「…………売ってるよ。竜に乗れよ! 短距離走でオレと勝負しやがれ!!」


「――上等だコラ……! 竜騎士の資質ってやつを見せてやる」


 ラメール試験官が口角を曲げ、笑った時――


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 竜の怒号がプールの方から聞こえた。


「なんだ?」


 ラメール試験管はオレから視線を切り、プールを見る。


「ちょ、落ち着いて……! レヴァ!!」


 プールで海竜類蛇竜種が暴れている。額に大きな傷があるガラの悪い竜だ。上に乗っている女子は竜を制御できてない感じだ。


「ガアアアア!!」


 蛇竜は口元に雷を溜め、でたらめにブレスを吐き始めた。

 ブレスは球体ではなく、レーザービーム。それもかなり太い。


「暴走竜!?」

「なんだあの蛇竜のブレス!? バカみたいな威力してるぞ!!」

「に、逃げた方がよくない!?」


 慌てる受験生たち。

 ラメール試験官は右手を挙げて受験生たちを制する。


「下手に動くな。頭を伏せ、ここで待機していろ。

――起きろ、ハク」


 ラメール試験官は最初乗っていた白い飛竜を召喚し、蛇竜の元へ向かう。

 ミズキも同様に動き出し、ハゼット試験官は受験生の避難を誘導する。


 そんな中。


 200m先の空で、試験を続行していた飛竜の一匹に、雷のブレスが掠った。

 飛竜は雷撃をくらい、体を痺れさせる。飛竜は気絶した。


「え、うそ――!」


 飛竜に乗っていた受験生は顔を青ざめさせた。

 ラメール試験官はプールに向かって下降を始めたところで、それに気づいた。だが、すでに飛竜は下に体を向けている。あの受験生が落ちる前に助けるのは不可能だ。


――まずい!!


「エッグル!!」


「どら!!」 


 オレはエッグルに乗り、受験生を救出するため空を駆ける。

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