第9話 3人の試験官

「ホントすまん」


「いいよ。着替えはあったしな」


 オレはシグレと一緒に王都への道を歩く。


「つーか、乗り物酔いするのに良く竜騎士になろうと思ったな」


「少しなら耐えられるんだ。オレが竜を操れば1分30秒はもつ」


「たった1分30秒かよ」


「ああ、たった1分30秒だ。だけど」


 オレは自分の胸に右手の親指を向ける。


「その1分30秒は誰にも空は譲らねぇ!」


「へぇ……言うねぇ」


 シグレは薄く笑った。


 話しながら歩いていくと、王都〈ユグドラシル〉に着いた。

 久々だ。竜市に行った時以来だな。

 オレとシグレはそのまま一緒に試験会場まで行った。


「ほぉ~、さすがは〈ミッドガルド〉様だな。豪勢なモンだ」


「でっけぇ~!」


 巨大なドームだ。


 受付であらかじめ郵便で送っていた履歴書と身分の照らし合わせを済ませ中に入ると、2000mはあるプールが目に入った。多分、海竜用のやつだ。

 さらには砂の詰まった砂場、ゴツゴツと岩の生えた岩場、芝生の道に普通の土道。これらは地竜のためのものだろう。

 そして空! そこには多数のリングがある。あれは飛竜のためのものだな。 


 会場にはすでに多くの受験生が居る。すでに空気はピリついている。


「そろそろ時間だな。しっかし、試験官の姿が見えんな」


 シグレの言う通りだ。係員1人見当たらない。

 会場にある時計の長い針が12を指し、短い針が10を指した瞬間――プールからドボン! と音を立てて、1匹のゴールデンイエローの海竜が飛び出した。


 鳥のような頭、飛竜のように翼はなく代わりに胴と尾が長い。

 海竜類鳥竜種。その背に乗るはゴーグルをつけた金髪の水着巨乳お姉さん……!

 男子たちから歓声が上がったことは言うまでもない。


「静かに! 試験の時間よ。これより先は私たちの指示に従ってもらうわ」


 あれ? この声……もしかして。


「私が海竜騎手の審査をする試験官、ミズキ=リトパーズよ」


「ミズキ!?」


 ソラの友人の1人だ。

 眼鏡を掛けてなかったからわからなかった。


「そこの受験生君、気安く私の名前を呼ばないでくれる?」


 ミズキは大声でそう冷たく言ったが、すぐに、


「……よく来たわね、フレン君」


 その声は耳の良いオレにしか聞こえないぐらい小さかった。

 試験官という立場上、特定の受験生と親しくするわけにもいかないんだろう。


「……おいお前、まさかミズキさんとも知り合いなのか?」


 ひそひそ声でシグレが聞いてくる。


「……ああ、まぁな」


「……マジかよ。黄金世代に2人も知り合いがいるとかすげぇな」


「……さっきも言ってたけど、黄金世代ってなんだ?」


「……〈ミッドガルド〉の21期生、その代表9人のことだよ。9人の内8人が6つ星以上の竜騎士になったバケモン世代だ」


「……ふーん、そんなのがあるのか」


 次に、地面の下からゴゴゴと地鳴りのような音が響きだした。


「どうやら、地竜担当も来たようね」


 ミズキが言うと、地面から亀の頭をした巨大な竜が飛び出してきた。


 全身土色の竜だ。亀竜種だけあって体格がでかい、5~6人は乗れそうだ。竜の背中、甲羅の上にはスキンヘッドで体格の良いスーツ男が立っている。真っ黒のサングラスを掛けていてとてもガラが悪い。


「すぅ……」


 スーツ男は思い切り空気を取り込み、


「挨拶が遅いッ!!!!」


 怒号が飛んできた。


「目上の人間が来たんだ。『おはようございます』はどうしたぁ!?」 


 受験生は声を揃えて「おはようございます!」と言った。


「……まったく、教育がなってない」


「まだ学生でもないのにそこまで厳しくしなくてもいいんじゃないの?」


「ミズキさんは温すぎます。礼儀も試験の一部ですよ」


「はいはい。ほら、自己紹介しなさい」


「はい。俺は地竜騎手を担当するハゼット=シュガートだぁ!! 無礼な奴は実力に関係せず落としていくから覚悟しろぉ!!!!」


「……もう、なんでもかんでも声がでかすぎるわよ」


 ミズキの言う通りだ。鼓膜に響く……。


「げっ、おれの担当あの人かよ……ハゼットさん、厳しいことで有名なんだよな」


「まだ飛竜担当が来てないな」


 と思ったら、空から影が落ちてきた。


「さーてと、はじめっか」


 上から男の声が聞こえた。

 見上げると、真っ黒なロングヘア―の男がタバコを咥えながら飛竜の上に


――すげぇ。


 飛竜の上に立つことは難しい。常に翼が動き、揺れが止まることはないからな。ここは無風とはいえ、直立できるってことは相当安定した飛行をしてるってことだ。しかも、足元をふらつけることもない。


 飛竜の色は男の真っ黒なロングコートと反対に、真っ白だ。おでこに真っすぐな角が1本ある。飛竜類角竜種だろう。


「ちっ、アイツも来たのか。おれには一言も言ってなかったのによ」


 なにやらシグレの機嫌が悪くなった。

 男は高度を落とし、ミズキとハゼット試験官の間に来る。


「俺が飛竜騎手を担当するラメール=シャーマナイトだ」


 シャーマナイト?


「シャーマナイトって……」


 オレは横に居るシグレを見る。たしかシグレのファミリーネームもシャーマナイトだったはずだ。

 シグレはため息をつき、頭を掻きながら、


「そうだ、おれの兄貴だよ。ついでに言や、黄金世代の1人で、七つ星竜騎士だ。そして……お前が話してたソラ=ラグパールのライバルでもある」


 ソラの……ライバル!?

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