第8話 シグレ登場

 出発してから1分30秒後。


「うぷっ」


 王都近くの草原で、オレは膝をついて吐いていた。


「どら……」


「やっぱり1分30秒が限界か……オレたちの飛行に、まだ無駄があるってことだな……」


 視界がグルグル回る……気持ち悪い。

 まぁでも1分30秒でも上出来と言えば上出来。最初の頃は10秒も耐えられなかった。これまでソラ以外の人の飛行じゃ1分も耐えられなかったし、飛行自体はうまくなってるはず。


 ふらついた足取りで、王都に向かって歩いていく。


「どら! どらどら!」


「どうしたエッグル?」


 エッグルは二本脚で立って、なにやらダンスを踊っている。


「どらどら! どらぁ!」


「……ダンスを見て元気を出せって?」


「どらぁ♪」


「ありがとエッグル。でも今は休んどけ」


 オレはエッグルを右手に封印する。


「やばい……王都がすっげぇ遠く感じる」


 あと3キロぐらいかな? 

 竜に乗れれば数分の距離だけど、さすがにこの体調で竜に乗るのはキツイ。


「おい」


 後ろから声を掛けられた。声の方を向く。


 地竜に跨った同世代ぐらいの女子が居た。

 黒髪のポニーテール、華奢で身長は150cmほど。ジト目……というか目つきが悪くて胸はスラットしているから、スカートを履いてなかったら男と見間違うかもしれない。


 竜は発達した角を持つ地竜類角竜種。色は白だ。


「ふらついてるけど大丈夫か?」


「大丈夫かどうかと聞かれれば……大丈夫じゃない」


 女子は竜から降り、水筒をくれた。


「これでも飲め。水だ」


「助かる!」


 オレは水筒をがぶ飲みする。


「ぷはぁ! 生き返った! この礼は必ずどこかでするよ」


「別に構わないさ。お前さんも王都を目指してるのか?」


「おう! 〈ミッドガルド〉っていう学校の受験会場に向かってるんだ」


「そいつは奇遇だなぁ。おれも同じだ。どうだ? おれの竜に乗っていくか?」


 竜に乗ったらまた酔いそうだな……いや、もしかしたらソラみたいに酔わない騎乗ができる奴なのかもしれない。

 まだオレは竜に乗れるコンディションではないし……。


「お前、竜の扱いは上手いのか?」


「そこらの奴よりかは自信あるぜ」


「そっか。なら、お言葉に甘えるよ」


 オレは女子の後ろに乗る。


「地竜に乗るのなんか久々だ」


「ってことはお前は飛竜か海竜持ちか」


 地竜は時速30㎞ぐらいの速度で走り出す。かなり控えめなスピードだ。


「おれはシグレ=シャーマナイト。こいつは地竜類角竜種のスノードレスだ」


「かうっ!」


 スノードレスは高い声で鳴いた。


「可愛い声だろ? 女の子なんだ。スノーって呼んでやってくれ」


「カッコいい見た目だからオスだと思ってたよ。オレはフレン=ミーティア、それで……」


 オレはエッグルを空中に召喚する。エッグルはオレ達の頭上を飛ぶ。


「こいつはエッグル」


「どら!」


 シグレにカッコいいところを見せたいのか、エッグルを翼を大きく広げた。


「よろしくな! エッグル」


「どらぁ♪」


 挨拶を終えたところでエッグルを右手に封印する。無駄に体力を使わせることもない。


「なぁフレン、お前はどうして〈ミッドガルド〉を選んだ? 他にも竜騎士の学校はあるのにさ」


「恩人がそこの出身なんだ」


「へぇ、その人って有名人?」


「わからない。名前はソラっていうんだ。ソラ=ラグパール」


「ソラ=ラグパール!? ビックネームだなおい! 黄金世代の1人じゃんか」


「うぷっ」


 地竜が走り出してから、1分30秒でオレは酔った。

 視界が回る。血流が頭からさがっていくのがわかる。


「おい、どうした……って、なんでさっきよりも顔が青くなってんだ!」


 振り向いたシグレは慌てて地竜を止めた。


「わりぃ、シグレ」


「へ?」


「もう、限界――」


「おい待てよ……待てよぉ!!」


 オレはシグレの背中に吐いた。

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