第5話 災厄の足音
オレとソラは帰った後、家の露天風呂に入った。エッグルも一緒だ。
オレの家は町の外にあるから、近所とかいない。だから外の目を気にせず露天風呂に入れるのだ。
ソラは石造の湯舟につかっている。オレはエッグルにシャワーを掛けて、汚れを落としている最中だ。
「どらぁ!」
甲高い声で鳴き、頭を振るエッグル。
「こら、暴れるな!」
エッグルの後ろに座り、頭からシャワーを掛ける。
「ほら、ケツも洗うから、この卵の殻脱がすぞ」
「どら!」
エッグルを抱き上げ、殻オムツを脱がし、ケツを洗っていく。
ケツを洗い終わり、シャワーの水を止めると、エッグルはキョロキョロと周りを見渡した。
「どら」
エッグルはさっきオレが脱がした殻オムツを見つけると、慌てた様子で殻オムツに近づき、また履いた。
「なんでそんなに卵の殻が好きなんだ……?」
「どらぁ?」
「それつけてると落ち着くのか?」
「どら!」
「そうか。ならいいや」
「はは! 面白い子だね」
オレはエッグルと湯舟に入る。
「こいつに乗れるようになれるのはいつ頃かな」
「竜は成体になるの早いよ。大体半年で飛べるようになる。1年もすればコクトーと同じぐらいの大きさになるさ」
「へぇ」
このかわいい姿もすぐに見納めか、ちょっぴり悲しい。いっぱい写真撮っておこ。
「なぁソラ! オレにさ、封印術の使い方教えてくれよ。みんなパートナードラゴンを自分に封印して歩いてる。オレも負けてらんねぇ!」
「もちろん構わないよ。明日教えてあげる」
---
翌日。
家の前の野原でソラは手のひらの上に緑の球を作り出した。
「これがシールボール。竜に当てると竜を
「どんな竜もそれに当たると封印されちまうのか?」
「いいや、対象の竜が自分のことを主人として認めないと封印はできない。ゆえに他の人間と主従関係にある竜は封印できないよ」
ソラは説明しなかったけど、きっと竜を簡単に封印する方法の1つは弱らせることだろ。弱らせて、無理やり自分を主人だと納得させれば手っ取り早い。まぁ……オレはそんな手を使いたくないけどな。
「シールボールはどうやって出せばいい?」
「魔力は練れるかい?」
「ああ。学校で習った!」
「それじゃ、両手を前に出して、魔力を手に集めて」
オレは手を前に出し、魔力を集める。
「手の前に魔力を集め、ボールの形にするんだ」
オレは言われた通りする。
薄緑のオレの魔力が、ボールの形になって手の前に現れる。
「オーケー。次に拘束具を頭に浮かべるんだ。鎖、手錠、首輪……なんでもいい」
「……」
「それが出来たら頭の中のイメージを脳から手に、手から魔力に流し込む」
「……」
「次が最後の工程だ。頭にできるだけ強力な竜のイメージを浮かべて、そのイメージを魔力に流し込む」
「……」
「うん。完璧だ」
オレの手の前には、濃い緑色のシールボールが出来上がっていた。ソラのものと比べると半分ぐらいの大きさだ。
「じゃあ早速、エッグルに撃ってみよう」
ソラはオレの足元に居るエッグルに視線を移す。
「どらぁ?」
「え!? まだ会って1日だぞ! オレのこと主人って認めてないだろ……」
「どうかな。撃ってみないとわからないよ。別に駄目でもペナルティはない。魔力がちょっと減るだけだ」
「……わかった」
オレはシールボールをエッグルに撃つ。エッグルにシールボールが当たると、エッグルは竜紋となってオレの右手の甲に刻まれた。
「で、できた――うっ!?」
ズガン! と、頭の奥底に衝撃が走った。
「竜を封印するとより深く竜と繋がることができる。どうだい? 魂が繋がった感覚があるでしょ?」
「ああ……エッグルの体調とか、考えている事とか、そういうのが感覚でわかる」
「竜との共鳴率が上がっていけば言葉を交わさずとも竜と意思疎通を図ることができるようになる。馬と違い、鞭を使わずに竜騎士が竜をコントロールできるのはそのおかげさ」
「なるほどね」
「一度封印が成功すれば、次からはシールボールを当てずに言葉だけで封印できるよ。
……そうだ、ついでに竜魔法についても説明しておこうか」
「なんだそりゃ」
「竜紋を宿している時だけ使える魔法さ。封印した竜の種類、能力に応じて特別な魔法が使えるようになる。さっきと同じように魔力を手の前に溜めて、その魔力にエッグルのイメージを流し込んでみて」
オレは言われた通りにする。すると、手の前に炎の球が出来上がった。
「すげ! オレ、いま炎を出してるぞ!」
「それが竜魔法だ。竜魔法は竜の成長によって威力や種類が増える。もちろん、竜紋を宿していないと使えないね」
「エッグルを出してる時は竜魔法は使えないってわけか」
「そういうこと。これで授業は終わりだ」
「よし! これでオレも竜騎士に――ぐっ!!?」
なんだ?
頭が、頭が痛い……!
――ザザザザザザザッ!!!!
「フレン……?」
羽の音が、大量に聞こえる――
「音が……いっぱい、来る!!」
地面に膝をつき、頭を両手で押さえる。嫌な感じだ……!
「フレン!? どうした!?」
「――来る」
「え?」
「いっぱい、竜が来る! 100頭はいる! し、しかも……嫌な、嫌な感じだ」
「ソラ隊士!!」
軍服を着た男が駆け寄ってくる。
見たことがある……アイツは、たしか町の騎兵団の人間だ。
「報告! 帝国の飛竜部隊が接近中!! 数はおよそ120!」
黒い影が、町に迫っていた。
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