第4話 パートナードラゴン誕生!

 物心ついた時から音に敏感だった、200メートル離れた場所の会話も聞き取れるほどに。

 爺ちゃんの話によると母さんも同じように耳が良かったらしい。爺ちゃんはこれを“尖聴覚せんちょうかく”と呼んでいた。



---



 あの赤い竜の腹の中、そこから確かに心音しんおんが聞こえた。


「耳も当てずに、竜のお腹の中の音が聞こえたって……本当に?」


 ミズキはオレを疑った目で見る。


「耳には自信があるんだ。頼む、信じてくれ!」


「……」


 ソラは無言で頷き、商人に声を掛けた。


「あの赤のめす竜。最近おす竜と交流したことはあるかい?」


「あの竜ですか? いえ、1度もありませんよ」


 女の商人さんはニッコリ笑顔で言う。


「やっぱり、今のはこの子の冗談よ」


 ミズキがそう言った時だった。


「ガアアアッ!!」


 赤の雌竜が小さく吠えて、グッタリとした。


「あれ? どうしたんだろう……」


 店員は心配そうな目で竜を見る。


「あの竜、脱走したことは?」


 ソラが聞くと、商人は「あっ!」と口を開ける。


「2か月ほど前に一度だけ脱走したことがあります……!」


「その時、雄竜と接触したかな?」


「はい。他の飛竜を使って捕獲したので……その時、あの子の捕獲をした飛竜は皆、雄でした」


「その時だ!! ――ミズキ! 早く竜医を呼んでくれ! 期間から考えて今が出産時期だ!」


「わ、わかったわ!」


 駆け付けた竜医は赤の雌竜を聴診し、すぐに竜の腹に子がいると理解した。すぐさま竜医は檻の中で出産の準備を始めた。

 オレとソラとミズキはそれを外から見守る。


「なんか、竜医たち苦戦してないか?」


「今回は異常事態だからね。通常、竜は身ごもってから1ヵ月で卵を産む。それから21日間親が卵を温めたり転がしたりして、卵の温度を一定に保ち卵からコドラがかえる」


「え!? でも、あの雌竜が雄竜と会ったのは2ヵ月も前なんだろ? とっくに卵を産んでないとおかしいじゃないか!」


「そう、おかしいんだ。恐らく、産卵のタイミングであの雛竜は産卵せず、腹に抱えて卵を温め続けたんだ」


 また雛竜が大きく鳴いた。

 同時に、雛竜の総排出腔から炎のような模様の入った白色の卵が産みだされた。


「良かった! 無事に終わったようだね」


「信じられない……本当にこの子の言ったとおりだった……」


 オレは卵から目を離せなかった。

 凄い、メラメラと燃え上がる気配、オーラを感じる。

 卵に、亀裂が走った。


「やっぱり、もう育卵期間は終わってる! 卵が孵るぞ!」


 ソラが叫んだ。


 亀裂は卵の真ん中辺りから横に入った。そして、まずオレンジ色の足が卵の殻を突き破り生えた。卵の中央から上が割れてなくなり、コドラは現れた。


 クリっとした丸く青い瞳。ペタンと倒れた耳、小さい2本の白い角。

 オレンジ色のフワフワした体毛が体を包んでいる。

 コドラは卵の殻をオムツのようにつけて、尻もちついていた。


 コドラは「けほっ」と小さく炎を吐く。


「「「かっ……!?」」」


 この場に居る全員が同じことを思っただろう。


「「「かわいい~!!!」」」


 コドラは「どらぁ?」と首を傾げた。

 座ってるからわかりにくいが、体長は50cmぐらいかな。


「ん?」


 コドラはオレと目を合わせると、殻オムツをしたまま立ち上がり、トコトコと小さい歩幅でオレの前まで歩いてきた。オレが右手を出すと、コドラはペロッとオレの右手の甲を舐めた。


 かわいい……が、それだけじゃない。


 こいつからは、強い気持ちを感じる……ソラの言うインスピレーション、というやつなのだろうか。コイツとはうまくやれる、そんな気がした。


「オレ、こいつが良い」


 ソラはオレを見て、笑顔を浮かべる。


「ピンと来たかい?」


「ああ!」


「……そっか! 僕がコクトーと会った時と同じだね」


「え!? あの子にするの!? 父親不明のコドラなんて……博打が過ぎるわ」


 ソラが商人と交渉し、70万オーロでコドラを買い取った。


「フレン。その子の名前はどうするの?」


 ミズキが聞いてくる。


「そうだなぁ……卵の殻を履いてるから、エッグシェル……それだとちょっと名前が長いか。よし、エッグル! こいつの名前はエッグルだ!」


「エッグルか。いいんじゃないかな。僕は好きだよ」


 こうしてオレに初めてのパートナードラゴンができた。


 

【エッグル】


種族:飛竜類牙竜種 

性別:雄

肌色:オレンジ

ブレス属性:炎

 


 ---



 買い物を終え、MOBの外へ出る。


「私はここでお別れね」


 ミズキはソラの方を見る。


「貴方はいつ頃、戻れるわけ?」


「あと2週間ってところかな。怪我のこともあるけど、防衛ラインがまだ回復してないからね。防衛ラインが回復するまではあの町に居座るつもりだ」


 2週間……あと2週間で、ソラは家からいなくなるんだよな。

 寂しくなる。


「フレン君」


 ミズキは1組のパンフレットをオレに渡した。


「これは?」


「竜騎士専門学校〈ミッドガルド〉のパンフレットよ。私やソラがかよっていた学校ね。もしも貴方が竜騎士を目指すのならここへ来なさい。14歳から受験できるわ」


 いまオレは12歳だから、受験できるのは2年後か。


「ソラとミズキが行ってた学校かぁ……うん! わかった!」


「懐かしいねぇ。あの頃は君もおとなしくて可愛らしかったのに――ごはっ!」


 ソラのみぞおちに、ミズキの拳が突き刺さった。


「今だっておとなしくて可愛いわよ」


「どこが……!」


 最後まで喧嘩するのかよ……。


「ねぇフレン君。耳が良いって言ってたわよね」


「ああ」


「じゃあさ」 


 ミズキは20メートルほど先にある竜小屋を指さす。


「あそこは騎兵団支部の竜小屋なんだけど、竜小屋に何匹竜が居るかわかる?」


 耳を澄ます。

 音……竜の心臓の音だけを追う。竜の心音は人に比べてかなり大きい、探るのは簡単だ。


「――12匹」


「残念、不正解」


 ミズキは「ふふん」と笑う。


「正解は10匹よ」


「あれ?」


「でも惜しいじゃないか。君の聴覚は本物だね」


「2匹の誤差はあるようだけどね」


 おっかしいな。たしかに12匹分の音が聞こえたんだが。


「じゃあね。また会いましょう」


 ミズキと別れ、家へと向かう。

 エッグルはオレの腕の中でジッとMOBの方を見ていた。



 ---



 フレンとソラと別れたミズキは先ほど問題に出した竜小屋に入った。


「ミズキさん、お疲れ様です」


 女性の団員が挨拶する。


「お疲れ様」


 ミズキは竜小屋に入り、竜の数をカウントする。


「あら?」


 ミズキは竜小屋に居る竜を数えて、驚く。


「12匹……!?」


 ミズキは先ほど挨拶してきた団員に声を掛ける。


「ねぇ。たしかこの支部で飼育している竜の数って、10だったわよね?」


「はい。そうですよ」


「どうして2匹増えてるの?」


「あぁ、ほら見てください。あの奥の2匹だけ鎖で繋がれてますよね。あの2匹は先ほど交通違反で逮捕した2人の男性の竜なんです」


「――っ!?」


 ミズキはフレンの顔を思い浮かべる。

 そしてうっすらと顔に汗を這わせた。


「フレン=ミーティア。将来が楽しみね……」

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