第2話 Market Of Bahamut
「オレ! 竜騎士になる!」
飛行を終え、コクトーから降りたオレは爺ちゃんにそう言った。
「お、おう。ワシとしちゃ嬉しいが……しかし、乗り物酔いは大丈夫なのか?」
「問題ない! オレが無駄のない飛行を身につけりゃいいだけだ!」
オレが言うと、ソラがオレの頭に右手をポンと置いた。
「よし! せっかくだ、僕が君に竜をプレゼントするよ」
「マジで!?」
「良いのか? 竜はかなり値が張るぞ?」
「面倒見ていただいたお礼です」
「やった!」
竜は安くても一体30万オーロはする。
プレゼントとしては高すぎる。さすがはトップレベルの竜騎士、金はたんまり持ってるんだろう。
「5日後、コクトーの傷が癒えた頃に竜市場へ行こう! 一緒に君のパートナードラゴンを選ぼうじゃないか」
「おう!」
竜市! 名前は知っていたが行くのは初めてだ。
ワクワクするな……どんな竜がいるのだろうか。
---
竜市場とは、名前の通り竜が売っている市場だ。
竜の卵から老竜まで売っている。
あの夢のような日から5日後の朝。
オレとソラはコクトーに乗り、空を飛んでいた。
爺ちゃんは町の竜を
「町の竜市に行くわけじゃないのか」
「うん。今日行くのは王国最大規模の竜市場……〈
「MOB……」
「王都〈ユグドラシル〉にあるんだ。入場制限があってね、一つ星以上の竜騎士とその連れしか入れない。あとは〈ミッドガルド〉の生徒も入れるか」
40分ほど飛行して、森の上や岩石地帯を抜けた後、街が見えた。城塞都市だ。街が見えたところでソラはコクトーを停止させた。
巨大な城塞都市……その周囲と都市の上の空には無数のリングが浮かんでいる。リングの中を飛竜は通って移動している。リングは青、黄色、赤と変色し、リングが黄色か赤の時は竜は停止し、青の時は移動している。
「あのリングはなんだ?」
「あれは信号だよ。リングが青い時は『走ってよし』、黄色のリングは『停止準備せよ』、赤のリングは『停止せよ』という意味が込められている。騎兵団では無い者や、レスキュー隊以外がリングの外を走ったり、信号を無視すると罰せられる」
「オレの町にはあんなの無いのにな……」
「王都の空は飛竜でいっぱいだからね。一定の人口密度を超えた街は信号の設置を義務付けられているんだ。交通を管理しないと竜同士が衝突事故を起こしてしまうからね」
「へぇ~。初めて知った。ん?」
街の外の空にもリングがある……が、かなり巨大なリングだ。しかも金色のリングである。
「あの金色のリングはなんだ?」
「あれかい? ふふっ、もう少しでわかるんじゃないかな」
待つこと10秒ぐらいで、多数の竜が遠くの金の輪をくぐってこっちに向かってきていた。
金色の輪の外にはもう一匹竜が居る。その竜の上に乗っている人物は、拡声器を口に当てていた。
「さぁさ第三コーナー周って先頭はリーフアイズ! 二竜身離れてバクフーンが追いかける!! さらに三竜身離れてロゼオインパルス、アルセーヌ、ククリマルの集団が先頭を狙う!!」
竜たちは凄い勢いでオレたちの目の前にある金の輪をくぐっていった。
「すっげぇ! 何だアレ!」
「レースだ。ドラゴンレース。競竜とも呼ばれる。ああやって竜の速さを競っているんだよ。どの竜が勝つかお金を賭けたりもしてるんだ」
「面白そう! オレもやってみてぇなぁ! なぁなぁ、ソラはレースをやったことあるのか?」
「ははっ……昔はやってたんだけどね……」
ソラは気まずそうな顔をする。
「――無敗で十冠を取ったところで、『お前が居ると賭けにならんから出てくるな』って永久追放されたんだ……」
シクシクとソラは涙を流す。
きっと楽しかったんだろうな、レース……。
「さっ! 気を取り直してMOBに行こう!」
「気を落としてたのはお前だけだよ」
王都の外から中に入れる信号リングは全部で8個所あるらしい。
ソラはその内の1つ、3番ゲートに向かった。ゲートの入口にはシグルズ騎兵団所属の竜騎士が門番をしていて、身分証を見せることで中に入れる。ソラの顔を見た門番は身分証の提示を要求せず、ペコペコしながらオレとソラを通してくれた。
そこから王都に6個所ある竜空港の1つに向かった。竜空港は竜を着陸させてくれる場所だ。屋根の無い施設で、30000平方メートルの円形の敷地に芝生が敷き詰められている場所(ソラ談)である。
竜空港から出て、3分ぐらい歩いたところで巨大な門に行き着いた。
門には“Market Of Bahamut”と大きく書かれた看板が掲げられている。
門の先からは……無数の竜の気配を感じる。
「この門の先が竜市場だよ」
門の前には何百って人間が集まっており、騒がしい。
オレたちは集団より少し離れた場所で立ち止まる。
「朝の9時に門が開いて、ここに居る人間が一斉に入るんだ」
「凄い熱気だな……」
「そこのお前!」
鎧を着た男が声を掛けてくる。
「入場証を見せてみろ」
「あ、申し訳ありません。入場証は持ってないんです。いま申請しようと思っていたところです」
ソラがそう言って顔を見せると、鎧を着た男は目を見開いた。
「ソラ隊士!? な、なぜここに?」
「あれ? 君は……ハロルド君じゃないか。怪我をして前線から遠のいたって聞いていたけど」
どうやらソラの知り合いのようだな。
ハロルドという男は一見、ソラより年上に見える。上髭も顎髭も生えていて、30歳ほどに感じる。態度を見るにソラの方が年上なのか、それとも階級の差があるのか、どっちかわからん。
「はい。今は療養がてら、この竜市で警護の任務をさせていただいています」
「僕もちょっと怪我をしてしまってね、休養がてらここへ遊びに来たんだ」
「そうでしたか! わかりました。いま、入場証を持ってきますのでお待ちください。えっと、そちらの子供は?」
「彼は僕の連れだ。彼の分も入場証を頼むよ」
「承知しました!」
ハロルドが入場証を取りにどこかへ行って、すぐ後だった。
「あら? 見覚えのあるダサい眼鏡ね」
女性が、オレとソラの前に現れた。
胸が大きくて、腹や腰はスラットしている女性。ウェーブのかかった金髪と、口元のホクロから凄く色気を感じる。ソラのダサい丸眼鏡とは反対に、きりっとした四角の眼鏡を掛けており、見るからに頭がよさそうだ。
黒いシャツの上に白のジャケットを羽織っていて、手には書類の詰まったファイルを持っている。
彼女を見ると、ソラは嫌そうな顔をした。
「やぁ、奇遇だね。ミズキ」
「嫌な奇遇よ」
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