第13話:侃々諤々

ロマンシア王国暦215年2月9日王城


「無礼なガッロ公爵家など滅ぼしてしまえ!」


「何を言っている、最初に許されない無礼を働いたのは王子の方だ」


「王子殿下がやられたわけではない、エリザが勝手にやった事だ」


「愚かな、王子が黙認していた事は明らかだ」


「王子殿下が黙認されていたとしても、何の証拠もない。

 それに、たかが公爵令嬢が自殺未遂をしたくらいで王家からの独立分離だと?!

 王家を舐めるにもほどがある。

 ガッロ公爵家など滅ぼしてしまえばいいのだ!」


「やりたいのならお前が勝手にやれ!」


「騎士団長のくせに臆病風に吹かれたのか?!」


「臆病風だと、よかろう、憶病者かどうか自分で確かめろ!

 騎士の名誉にかけて決闘を申し込む!

 私の事を憶病者と言ったのだ、逃げる事は絶対に許さん!」


 王城内の至る所で、貴族だけでなく王家の直属の騎士までが言い争っていた。

 ガッロ公爵家からの分離独立宣言に対する喧々諤々の大議論が行われていた


 日頃から優秀だと言われている者達は、ガッロ公爵家の肩を持って分離独立やむなしを主張していた。

 無能な者、国王に阿諛追従する近臣ほど討伐を声高に言い張っていた。


 だが実際に討伐が決まったら、戦うのは近臣ではなく騎士達だ。

 血を流し死ぬ事もあるのは騎士団だ。

 戦争を主張する国王の近臣達が戦う事は絶対にない。


 普段から各貴族の実力を調べ把握している騎士団は、ガッロ公爵家の実戦力を知っているので、徹頭徹尾戦いを拒否していた。


「陛下、ガッロ公爵家の王都屋敷にいる武官は一騎当千の勇者です。

 魔境に住む赤背魔狼を独力で狩れる者しか王都の武官にはなれません。

 そのような武官が400人もいるのです。

 王都中の騎士を投入しても勝ち目はありません」


「ヴァレリオ第1騎士団長殿は臆病風に吹かれたようですな」


 ビュン、グワッシャ!


「陛下、佞臣の甘言妄言に惑わされないでください。

 どうしてもと申されるのでしたら、負けを覚悟で戦いを挑みましょう。

 ですがその時は、ガッロ公爵家に陛下の首を刎ねる大義名分を与えます」


 2メートルを超える身長と肉鎧としか表現できない巨躯を誇る大剛の騎士。

 燃えるような赤毛と瞳が普段は抑えられている獰猛さを体現している。

 そんな猛騎士が戦いを拒否しているのだ。


 単に拒否しただけでなく、国王のお気に入りである側近を御前で殴り殺すほどの決意を見せているのだ。

 まさに命懸けの諫言であり、獅子身中の虫を取り除く実力行使でもある。


 お気に入りの近臣を目の前で殺された国王であろうと、いや、そうだからこそ、簡単に叱責する事も罰をあたえる事もできない。


 国王はマルティクス第1王子ほど愚かではないのだ。

 人として並みの才覚があり、帝王学も厳しく学ばされていた。


 ただ、長年王位にあると、阿諛追従の佞臣の言葉に流されてしまう。

 それが並みの人間が王位についた後でたどるよくある結末なのだ。


 並の人間だからこそ、死の恐怖にも普通に反応する。

 愚かな王と第1王子を取り除いてでも王家を残そうと決意した忠臣。

 ヴァレリオ騎士団長を前にして、王は金縛りにあっていた。


「王家の騎士団は、徒士の従者も含めれば2万5000兵はいる。

 それだけの兵力でたかが400人を殺せないと言うのか?」


 それでも何とか王の矜持を振り絞って叱責交じりの質問だけは口にした。


「恐れながら陛下、陛下は魔境に住む魔獣達の強さを全くご存じない。

 赤背魔狼を斃そうと思ったら、1000の兵を上手く操らなければ不可能と言われているのですぞ」


「……ヴァレリオ、お前でも赤背魔狼に勝てないと申すのか?」


「私ならば勝てるでしょう。

 しかしながら、50人いる王国騎士団長の内、何人が勝てるか……」


「馬鹿な、公爵家にはお前に匹敵する騎士が400人もいると申すのか?!」


「恐れながら陛下、王都にいる公爵家の騎士だけで400人でございます。

 公爵家はここ数年積極的に魔境に入って軍事訓練を重ねております。

 日々騎士や徒士の武力を高めているのです。

 だからこそ私は、毎年魔境での軍事訓練をお願いしてきたのです」


「王家の護りである騎士団を、そう簡単に王都や要衝から外せるモノか!

 それに魔境に入るなどあまりに危険過ぎるではないか!

 多くの譜代家臣から反対されたのを忘れたのか?!」


「それは、ろくに戦えない譜代家臣の出来損ない子弟を、無理矢理騎士団に入れたからではありませんか!

 陛下は今騎士団を王家の護りと申されましたが、その護りである騎士団を戦う事の出来ない脂肪の塊にされたのは、他の誰でもない陛下御自身でございますぞ!」


「言葉が過ぎますぞ、ヴァレリオ第1騎士団長」


 殺されたのとは別の近臣がヴァレリオ団長の言葉を咎めた。

 佞臣である近臣は、ヴァレリオが王の失策を口にした事を咎めて、自分達を排除しようとする邪魔者を、逆に王城から追放しようと考えたのだ。


「陛下、ご自身の御命は御自身で護られてください。

 陛下が決断されるのなら、臣は死を覚悟してガッロ公爵家を襲撃しましょう。

 しかしながら、その時は佞臣共の子弟に先陣を命じます。

 病気や慶弔を理由に逃げ隠れする事は絶対に許しません」


「「「「「なっ?!」」」」」


 国王の近臣達は絶句した。

 王に取り入って多くの子弟や一族一門を騎士団入りさせていたからだ。


 他人が死ぬ事には何の痛痒も感じない佞臣達だが、自分達の権力基盤となる一族一門が減る事にはとても敏感だった。


「陛下、ヴァレリオ第1騎士団長の言葉が正しいかどうか、他の騎士団長にも聞いてみられてはいかがでしょうか?

 それと……マルティクス第1王子の近臣を務めていた、ヴァレリオ第1騎士団長の長男、カルロ殿の意見も聞かれた方が良いのではありませんか?」


 ★★★★★★


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