第15話

「おい、タマゴ、お前何か隠してんな?」

「いえ、そんな、隠し事なんてないです」

「ゆで卵、最近しょっちゅう外回りじゃねえか」

「それはクレーム対応でして」

「厚焼き玉子、嘘ついたら減給だからな」

「真摯に仕事しているだけです」

「温泉卵、やっぱりなんか隠してんだろ?」

「……あの、何度も言ってますが、社長、私はタマゴじゃないです。茹ででも厚焼きでも温泉でもないです、玉越たま子です、た・ま・子!!」


 玉越たま子は、社長から無数のあだ名で呼ばれている。初対面の、面接の時からずっとそうだ。正しい名前で呼ばれたことは1度もなかった。


「ところで、スクランブル、クレーム対応ってなんのことだ?」


 どうせならスクランブルエッグまで言ってくれないと、もはや私のあだ名ですらないでしょ! と思ったが、あえて黙って聞き流すことにした。


「いや、冷蔵庫に保管してたら蒸発して、猫が人間……ごほん、えーっと、とにかく蒸発して無くなったんで弁償しろって話でして」

「そんなもん無視しとけよ、それに注意書きはちゃんと書いてんだろ」

「たしかにそうなんですが、あまりにもしつこいもので仕方なく、です」

「それにあれ冷やすと副作用がやべえんだから」

「何か知ってらっしゃるのですか?」

「とにかく、あんまりクレーマーに時間とられてんしゃねえぞ? 」

「かしこまりました」


 玉越たま子は、例の媚薬の成分について知りたかったが、社長からは何も聞き出せそうになかった。


「おいイクラ、猫が人間ってなんの事だ?」


 イクラ?

 確かに卵だけどもっ!


「何のことでしょうか?そんなこと言いましたか?」

「お前がさっき言ったんだろ?キャビア」

「気のせいですよ、社長」


 キャビアはなんか悪い気はしない。

 玉越たま子は社長室を出ると、社長の秘書の香坂こうさかさんを探した。


「あ、香坂さん」

「たまちゃん、どうしたの?」

「あの、ウチの商品のことについて知りたいんです」

「どの商品のこと?」

「ラフポイズンってあるじゃないですか?」

「それはトップシークレットよ。たまちゃんクラスには教えらんないわね」

「そこをなんとか……某アイドルの生写真あげますんで、ファンですよね?」

「無理よ、そんなんで私を釣ろうとしたって」


 チッ。ダメか。


「デビュー前の秘蔵写真なんだけどなぁ」


「話は聞こうじゃない。ここでは無理だから、仕事が終わったらお茶でもしましょう」










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