第14話

 株式会社ラブポイズンは社員総数二十ほどの弱小企業である。怪しげな媚薬などを販売してはいるが、実際のところ効果は不明だ。それでも会社が存続出来ているのにはいくつかのからくりがあった。


 ラブポイズンの社長は日本有数の大企業の会長の孫だった。しかし、大企業の跡取りとしての才覚はなく、問題ばかりを起こすので一族を追い出されるような形でこのラブポイズンを設立したのだ。本来なら縁を切られてもおかしくなかったが、社長は人の弱味を握るのが得意だった。唯一の才能がそれだった。会長や社長の弱味につけ込んで、多額の資金援助を確約させることに成功した。


 そして豊富な資金を元手にこのラブポイズンは誕生した。社長には商売に対する明確なビジョンなど無かったので、取り扱うものは何でも良かった。たまたまネットで見かけたアダルトグッズサイトがやたらと猛プッシュしていた媚薬に興味を持って、その製品の権利を買い取る形で今のラブポイズンの主力商品が決まった。その媚薬「ラブポイズン」は、法外な値段設定にも関わらず何故かヒットした。類似商品が五千円程度なのに対し、「ラブポイズン」は五万円もする。それでも購入していく人間がいるので、会社はそれなりの利益をあげていた。他の商品が十個、売り上げなければならない所を一個売り上げればいいのだから当然といえば当然だった。


「ラブポイズン」は日本国内で製造されているらしいが、社員のほとんどはその実態を知らない。詳細を知っているのは社長と、社長の秘書だけだった。


 社員のほとんどは社長の独断と偏見で採用された。社長の好みのタイプであれば学歴や職歴など無視して積極的に採用された。


 玉越たま子は社長のタイプではなかった。本来なら採用される可能性は低かったが、彼女の職歴が目にとまり採用されることになった。玉越たま子の前職場が、社長の祖父が経営する大企業だったからだ。

 社長は大企業に対するコンプレックスを抱いていた。なので、その企業を数ヶ月でクビになった玉越たま子に対して親近感のようなものを感じたのだった。









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