第11話
玉越たま子は根古田博士の部屋の前で、しばらく考えていた。この古びたアパートの一室の中に本当に入るべきだろうか。根古田博士が変人であることは火を見るより明らかだった。そんな男が突然豹変して、襲われちゃう可能性もある。独身女性として最低限の防衛策は取っておくべきだろう。たま子は電源を入れたボイスレコーダーをポケットに忍ばせ、防犯ブザーをバックの取り出しやすい部分に移動させてから、部屋のドアをノックした。
「玉越です、根古田さんいらっしゃいますか?」
しばらく待ったが返事はない。
もう一度ノックをしたが、やはり返事はない。
人を呼びつけておいて留守とはやはりクソみたいな奴だな、と、たま子は思ったが、ドアノブを回してみるとガチャっと音がしてドアが開いた。
「根古田さん、いるんですか?」
恐る恐るドアを開け、玄関に足を踏み入れる。
なんとも言えないカビ臭さが鼻に染みる。古びたアパートだったが、部屋の中もかなり古びている。
部屋を覗き込むと、人の足のようなものが横たわっているのが見えた。
「きゃぁ、ね、根古田さん?大丈夫ですか?」
根古田博士が倒れていた。
口から白い泡のようなものが出ている。
し、死んでる?
たま子はカバンから防犯ブザーを取り出し、いつでも鳴らせるように準備した。
「根古田さん、根古田さん?」
呼びかけても返事をしない。
根古田博士の体はピクピクと小刻みに震えていて、何かしらの毒物でも盛られたような状態に見えた。
『オマエ誰にゃ?』
たま子は声がした方に目をやった。
そこには裸の少女が立っていた。
女の子?裸?まさか、根古田に襲われた?
「あなた、服は?大丈夫?この変人に襲われたの?」
『確かに根古田博士は変人にゃ。でも襲われたりはしてないにゃ』
「え?もしかしてトラコさん?」
『あたしはトラコにゃ。なんで知ってるにゃ?』
たま子はトラコの全身を舐め回すように見つめる。どこからどう見ても、普通の人間の少女にしか見えない。
「トラコさん?あなたは猫なの?」
たま子は自分が馬鹿みたいな質問をしていることを自覚しながらも、念の為、と言い聞かせた。
『あたしはトラコにゃ。もちろん猫だにゃ』
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