第7話

 根古田博士は困惑していた。

 何故そうなったのかは分からなかった。


 朝起きると、トラコの姿は何処にもなかった。トイレの中もお風呂場も、そんなところにいるはずもないのに、という場所もくまなく探したが何処にも見当たらなかった。


 その代わり、見知らぬ物体がいた。

 少女だった。眠っている少女を起こし問い詰めた。


「な、な、なんだね君は!」

『ウザっ』

「うざいとは何事だ、失礼なヤツめ!それよりトラコ様を何処にやった?私の大切なトラコ様をどうしたんだ!」

『お腹空いた、ごはんちょうだい』

「おまえ、そもそも何処から侵入した?ごはん?図々しいやつめ」

『根古田博士、黙れ』

「な、何で私の名前を知っている?スパイか、この研究室の資料が目的か?」

『おしっこ……』


 そう言うと少女は、トラコ用のトイレに跨って用を足し始めた。


「な、何をしているんだ貴様ァ、そこはトラコ様のおトイレだぞぉ、勝手に使用するなぁ」

『ん?なんだこれ?』


 少女は自分の体を触り始めた。顔、首、腕、胸、腹、足、ぺたぺたと触り首を傾げている。


『根古田博士、どういうことだ?』

「どういうことだとはどういうことだ?私が聞きたいのはトラコ様をどうしたんだって話だあ」

『ほれ、ほれ』

「なんだ?なんだと、言うんだ?」

『あたし、トラコ』

「言うに事欠いてトラコ様を騙るとは、許さんぞー」


 そう言って少女を羽交い締めにしようとした瞬間、少女の蹴りが根古田博士の股間に直撃した。そして顔面にワンツーパンチが繰り出され、根古田博士はその場に倒れ込んでしまった。


 根古田博士は跪きながら、妙な感覚を覚えた。このパンチもキックも懐かしい感じがする。


『あたし、トラコ』

「と、と、トラコ様ぁ??」


 トラコはその日、人間の子供になってしまった。


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