第3話
根古田博士は拾った子猫を動物病院に連れていき、いくつかの検査をしてもらった。
子猫は衰弱こそしていたが、特に重篤な症状や病気の類は見つからなかった。
根古田博士はこの子猫を引き取ることを決めた。獣医に猫を飼うためのノウハウを聞き、ネットで必需品を購入し、万全の体制で子猫との同居生活を始めた。
子猫にはまだ名前がなかった。
根古田博士が子猫につける名前をひたすら思案し続け、あれでもないこれでもないと悩み続けた結果、すでに三週間が過ぎていた。
根古田博士は命名権を放棄することにした。
何日考えたところで、この子猫に相応しい名前を授けることは不可能に思えたからだ。
根古田博士はスマホアプリで猫の言葉を翻訳してもらう。何か名前のヒントがあるかもしれないと思ったからだ。
『お腹空いた』
『おしっこ』
『うんこ』
『お腹空いた』
『ごはんちょうだい』
『眠たい』
『お腹空いた』
『ごはん』
『おしっこ』
『お腹空いた』
『ごはん』
『ごはん』
『ごはん』
『眠たい』
『こっち見んな』
『お前うざい』
『さっさと消えな』
もしかしたらこのアプリは不良品なのかもしれない。そう考え出した頃に、子猫はある言葉を呟いた。
『ママ……』
そうか、子猫様は母親に会いたいのだ。それもそうだ、あんなダンボールに入れられて捨てられた可哀想な子猫様……あぁなんてむごい仕打ちなんだ……子猫様の母上はこの私が見付けて差し上げますぞ……必ず。
そう決意したものの、名前のヒントになりそうな言葉は見つからなかった。仕方ないので、根古田博士は名前をネットで募集することにした。
子猫はキジトラ猫だったので、トラコという名前になった。結局、猫につける名前の八割くらいは見た目で決められるものだ。安直さは正義でもある。
根古田博士は、根古田トラコとの生活を送ることになった。
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